猫と飛蝗の冒険ー青葉城跡③ー
「変身」
一点にとてつもないエネルギーが凝縮されていた。萠は人ならざるものの姿を人生で初めて目撃した。それは怪物と呼ぶにはあまりにも美しく、生物と呼ぶにはあまりにも洗練されていた。昆虫だろうか?バッタのような姿だが、昆虫のまま人間に近づこうとしたような姿をしている。そんな中で異質なのが右腕だった。その腕だけが獣のような見た目だった。毛で覆われたその腕の指先は、鋭い獣の爪のようなものが生えている。ギラリと光る爪が背筋をぞっとさせた。
タマが右手を顔の前にかざし、人差し指を伸ばし、何かを引っ張るような形を作った。そのまま指を引っ張ると、スーツの者たちは一斉に倒れた。まるで糸を切られたみたいに脱力してその場に倒れてしまった。
「素晴らしい」
高橋はゆっくりと息を吐く。次の瞬間、千年の懐に高橋がいた。そこからは萠が目視で終える限界のラインだった。次第に二人の動きが全く追えなくなってきた。
「スピードが上がってる・・・?」
信じられないことに、闘いの最中で二人の動きがどんどん上がっている。
「人間で高橋の動きについてこられるなんてな。あいつ強いな」
「当たり前です。千年さんは私達を束ねる最強の侍なんですから。現代であの人に勝てる人なんていませんよ」
「へえ」
タマは二人の様子を観察した。やはり、あの身体になってからの高橋のレベルが上ってる。話には聞いていたが、キキの身体も一部が獣のようだったと聞く。それに加えて尋常ならざるスピードだったと。タマがそんなことを考えていると、だんだん千年の方が防戦に傾いてきたのが見て取れた。
「そろそろかな」
タマがぼそっと呟いた瞬間千年が刀を落とした。
「千年さん!」
「雷霆」
何が起きたか認識出来なかった。激しい光のエネルギーが見えたかと思うと雷のような凄まじい音と共に雷撃のようなエネルギーが走った。どうやら高橋の蹴りが炸裂したのだろう。衝撃が収まり萠が目を開けた時には決着がついたようだった。
「千年さん…?」
千年の姿が見当たらず、高橋が静に立っているだけだった。側には千年の刀だけが虚しく転がっている。
「ご苦労さん」
タマが高橋に声をかけると、高橋は変身を解いて元の姿に戻った。
「強い相手だった。彼は人間なのだろう?こんな闘いが出来る人間と初めて出会った」
「萠!」
タマに呼ばれるとハッとした萠は慌てた様子で頭を抱えた。
「どうしよう…どうしよう…千年さんが…」
パニックで辺りをキョロキョロ見渡した萠は千年の刀を拾い上げギュッと胸に抱いてしゃがみ込んだ。
その様子を見てやれやれと言うようにタマは首をふった。
「萠!落ち着け。あいつはあのくらいじゃ死なんだろう?強いんだろう?」
「当たり前です!千年さんは私たちを束ねる最強の侍…!この程度で死にません!」
「だったらシャキっとしろ!」
萠は涙をハンカチで拭った。深呼吸をして立ち上がる。
「はい…!」
「こういう時いろいろもみ消すの得意だろうが、お前たち。俺たちは先を急ぐからもう行くが、萠、お前は大丈夫か?」
タマの真っ直ぐで綺麗な瞳に見つめられて、胸の奥がきゅっと引き締きしまった。
「当たり前です」
「じゃあな。お前も元気でな」
ひらひらと手を振るタマの背中をじっと見つめていた。
千年さんを探さなくちゃ。




