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佐々木の冒険  作者: 芋猫
24/26

伝説

目を覚ますとそこにはこまちの顔があった。少し困惑したような顔をしている。


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しばらく頭がはっきりしなかったが、徐々にいつもと景色が異なることに気づいた。


「俺は…」


タマは自分の両手のひらを見つめながら、その手のひらを表裏にしてまじまじと見つめた。

足も布団の下に確実に存在している事を感じられる。


「人間に、なれた・・・?」


あの日以来だ。あの日、刑務所の独房の中で出会った謎の子どもに掴まれて気を失ってから、この姿にはなることができなかった。あの日、あいつに自分の中の大事なものを奪われたような気がしていた。それが何だったのかタマにはわからなかった。それからというもの、タマは何度もこの姿になろうと試みた。しかしどれだけ試してみても人間の姿になることができなくなっていた。あいつは本当に自分の中から何かを奪っていったのだと理解した。そう諦めがついてからは、二度とこの姿には戻れない気がしていた。あの日道端で佐々木に出会うまでは。


ー「俺を人間にしてくれよ」ー


「そうだ、佐々木は?佐々木はどうした?」


タマが思い出したように答えると、こまちは口をつぐんだ。気づくとこまちの側には他にもいろんな奴らがいた。苗子、高橋、祐未そして政。みんなどこか暗い表情だった。そんな中、高橋が最初に口を開いた。


「佐々木くんは連れて行かれたよ」

「連れて行かれたって、一体誰に?」

「わからない。あの戦いの後現れた謎の男が連れて行ってしまったと聞いている。実はその時自分も気を失っていてね」


そう言うと高橋は自分の右腕を見つめさすっている。


「それについてはあたしから話をするよ」


そう言って口を開いたのは政だった。


「タマ、あんた久しぶりだね」

「ああ、あんた政か。随分と婆さんになっちまったな」

「あたしたち人間は普通に歳を重ねて死んでいくんだよ。どこかの精霊や化物といっしょにされちゃあ傷つくじゃないか」


少し皮肉を込めたつもりだったが、タマが少し寂しそうな顔をした。


「そうだよな、知ってるやつはみんな俺より先に死んじまう。知り合っても、気づいたら俺一人になってるなんて慣れっこなのにな」

「やれやれ、辛気臭いのはやめにしとくれよ。政、さっさと話を進めよう」


苗子が間に割って入り、政も気を取り直して話し始めた。


「佐々木くんを連れて行ったのは政府の役人さ。役人って言っても表に出てくる奴らとは違う。いわゆる裏の役人さ。タマ、あんた”三本足の烏”の事は知ってるね?」

「ああ、あいつらか。しばらくあいつらとは顔を合わせることがなかったからな。あいつらまだいるのか」


タマが昔のことを思い出すように答える。


「その様子だと、あんたの”しばらく”の感覚が気になるよ」

「まあ、ざっと500年くらいは会ってねえな」


政はやれやれといった様子で溜息を着いた。


「今じゃ、昔とだいぶ違うんだろうね。昔より表に出てくることがほぼなくなったよ。今じゃ裏からこの国をうまく動かしてる。まあ、もっとも政府ですらあいつらの存在には気づいていないんだけれど」

「政府の人たちも知らない?それって一体どういう意味ですか?」


高橋が不思議がって疑問を挟んだ。


「まあ、簡単に言えば日本を裏から護っているといったほうがいいのかね。あいつらの主人は日本国そのものだからね。人間様ごときには仕える気なんてさらさらないのさ。人間の中での唯一の主人がこの国の象徴だと昔から言われている。そいつらが、佐々木の存在に気づき、何らかの動きを見せていると言っても過言ではない。それにだね、高橋もわかっていると思うけどオロチが出現した後最悪なのは...」


「飢饉」


すかさずタマがそう答えた。


「その通りさ。まあ、でもそこまで大げさなのは昔のことで、食料が充実してきた現代においてはそこまでの打撃ではない。心配なのはしばらくコメ不足が続くだろうね」

「コメ不足?」


ここでやっとこまちが口を開いた。


「どういうこと?おばあちゃん」


こまちに尋ねられて苗子が答える。


「オロチが出現すると、あいつが通った後の作物は枯れてしまうんだ。案の定、私の家の周りは田んぼだらけだろ?今回の件でこの一体の田んぼが全滅したよ。」

「え?」


こまちは驚いて苗子の顔を見た。


「全滅って、もうお米が取れないってこと?」

「ああ、そうさ。さっき、政が飢饉って言ったのはあながち大袈裟でもない。なぜなら、今でこそ米以外の食べ物が流通しているから食料に困って死ぬなんて状況にはならないけど、一昔前であれば大問題さ。まさに飢饉が起こった時代も存在した。それでも、近々米の値段は跳ね上がるだろうね」


苗子がため息混じりに答えた。


「話は逸れたけど、あいつらは精霊とも繋がりがある。だから、今回の件であいつらもだいぶ問題視している。何せ精霊の中にオロチが入り込んじまったんだからね。これはとてもまずいことだよ。何がまずいってオロチ覚醒のきっかけが佐々木くんの身体に入り込んだことだとしたら。精霊の力の一端に触れてしまったオロチの覚醒は、何をもたらすか計り知れない」


タマは俯いて少し考え込んだ。


「それにしても妙なのは、なぜオロチは佐々木くんの中に入れたかってことなんだ」


政は話を続ける。


「そもそも、何かの中に入り込むってことは、それ相応の力が必要なんだ。相手が精霊なら尚更ね。普通は入り込むなんてことは不可能。だとしたら、佐々木くんの方に何かしらの原因があることになる。ただ、それが何なのか全く見当もつかない。仕方のないことだとはいえ、あのキキって子にあれだけ打たれて無事に戻ってくるかわからないよ」


「そんな...」


こまちが絶望的な表情になる。


「すまないねこまち。おばあちゃんたちが不甲斐ないばかりにオロチに後れを取ってしまった」


こまちはふるふると頭を振った。


「ううん、おばあちゃんたちはヒーローだよ。だって、本当に怖かった。もう死んじゃうんじゃないかって。でも、おばあちゃんたちが戦ってくれたから今もこうしてみんなと一緒にいられるの。もう、大事な人と離れるのは嫌だ」


こまちは涙を浮かべた。その様子を見ていたタマは何かを決心したようにきゅっと口を結んだ。


「政、さっきオロチ覚醒って言ったよな?」


政は黙って頷く。


「じゃあ、やることは一つだな。高橋、悪いけどちょっと手伝ってくれ。しばらく旅に出ることになる」


高橋は突然の申し出に少し困惑した表情でタマに尋ねた。


「旅?俺は別に構わないが、こまちをどうする?いつ伊藤が来るかわからないんだぞ」

「事態は伊藤を相手にすることなんかよりやばいんだよ。それに、もうじき伊藤もそんなこと言ってられない状況になる」

「何?」


高橋は怪訝な顔で聞き返す。


「タマ。お前一体何を知ってる?」


「もはや国家を揺るがす大災害が起こる」


その場の全員が息を呑んだ。


「政、あんた何か知っているのかい?」


苗子は、さっきからずっと黙っている政に向かって尋ねた。政は黙っている。


「オロチかい?」


「その通りだよ。オロチが解き放たれる」

「よくわからないじゃないか...!」


苗子がイライラして声を荒げた。

「オロチの覚醒って...そもそもあたしらが戦ってたあいつがオロチだろ?キキって子に倒されて、あいつは佐々木くんの身体ごと干からびて...それなのにあの黒服もオロチが目覚めたとか、政、あんたもさっきからオロチの覚醒とか意味が分からないよ!こんなに大事なこときちんと教えてくれないとどうしようもないじゃないか!国家を揺るがす大災害って一体何なのさ?」

しばらくの沈黙の後、タマが口を開いた。


「ばあさん、俺達が戦ってきたオロチはあれだけじゃないんだ。うまい言葉が見つからない。つまり、身体の一部...って言ったらいいのか。そもそもあいつは封印されているはずなんだ。それが60年前からちょろちょろと俺達の前に現れては災害級の悪さをしては傷跡をのこしていく。でもこれで繋がったぜ。あのアホがいたずらに滅茶苦茶してたわけじゃない。封印を解くために準備をしていたんだ」


「封印を解くためにだって?あいつは一体なんなんだい?」


「ヤマタノオロチ。あいつはこの国に封印された太古の化物、”八岐の大蛇”だ」



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