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佐々木の冒険  作者: 芋猫
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ここはこの世の地獄

目を覚ますと酷く頭が痛んだ。手足が動かない。初めての感覚にパニックになった。心臓が物凄い速さで鳴っている。首筋に熱を感じる。汗が滝のように流れてくる。恐怖を感じている。息が苦しい。呼吸が速くなる。

手足が痺れてきて気持ちが悪い。どれくらいそうしていたか分からない。しばらくすると、手足が動かない理由が分かった。どうやら手足を固定されているようだ。理由が分かると少しホッとした。身体も動かせないし、落ち着いて少し今の状況を考えてみた。

最近、学校で次々に子どもたちがいなくなる。みんな怯えていた。そんな時、メルが教えてくれたんだ。犯人はメルの飼い主だと。

みんなに伝えたかったけど、そんな事信じてもらえないと思った。だから、一人で忍び込もうとしたのだ。そうしたら見てしまった。

学校の子が殺されるところを。

あいつは楽しそうに笑っていた。

血の匂いに気持ち悪くなって気を失ったのだ。恐らく運悪くあいつに捕まった。

でも、なぜ自分はまだ殺されていないのだろう。

不意に何かガチャガチャと音がした。誰かが部屋の鍵を開けて入ってきた。


部屋の明かりがつけられると、眩しくて目が眩んだ。


「やぁ、目を覚ましていたんだね」


あいつの声だ。妙に機嫌が良さそうな陽気な声にぞっとした。


「私はなんて幸運なんだろうね。ずっと探していたんだ。やっと見つけた。今日は最高の日さ!」


コツコツと靴音が響き近づいてくる。



目の前に満面の笑みで見下ろしているあいつがいた。


「人生最高の日とは今日さ!」

早坂は靴をコツコツ鳴らしリズムを刻みながら言った。


「やっと探していた物に出会えたよ。まさかずっとこんなにも近くにいたとはね、キキちゃん!」


恐怖で何も言えないキキを見定めるように見つめ、早坂は続けた。


「どういうことか分かっていないようだね。」


早坂は壁際に向かい、備え付けのカウンタテーブルの上から何かを手に取りこちらを振り返った。


斧??


絵本でしか見たことのないそれは、見た目も重そうでずっしりしており、ぎらりと光った刃が目に入ると息が止まりそうになった。


「いぃぃいい…表情じゃないか…!あは、あは!」


口の中が一気に渇くのが分かった。心臓が壊れそうなほど速くなる。


「あ、あ…か…かは…」


口の中が渇いて何も出てこない。


コツコツと早坂は近づいてくる。


「500年。気の遠くなる時間だ」

早坂はキキの横になっているベットの頭の方に回ってキキを見下ろした。手に持った斧を頭の上に振り上げた。


「や、や、やめ…」


「んー!」


早坂は斧をキキ目掛けて振り下ろした。

キキは目をつぶって悲鳴にならない叫び声を上げた。

しかし何も感じず、ゆっくり目を開ける。目の前に不気味な斧の刃がギラリと光っている。


「はは…!まだだ…!いきなり楽しみを台無しにするわけないじゃないか!ははははははははははは…!!」


全身で息をするキキの身体は汗でびっしょりで顔は真っ青だった。


「500年…500年…。気の遠くなるほどの時間だ。なんのために生きているのか分からなくなって随分経つ。キキちゃん、君のことはこの後食べるとして、あの鬱陶しい猫をどうするか。あいつはちょっと面倒だ」


食べる…?

食べるとはどういうことだ…?何を言っているのか分からなくなった。じゃあ、さっき殺された子はコイツに食べられたのか?人が人を食べるなんて自分が知っている世界ではあり得ない。


「わけの分からないといった顔をしているね。人が人を食べるなんてという顔だ。だがね、私は人じゃない。私はね、鬼の子さ。鬼だからね、人間しか食べないのだよ。我々が食物連鎖の頂点…我々が地上最強だと思っていた。我々に盾突く人間どもに出会うまでは。」


キキは早坂の手の中で不気味に光る斧の刃が気になり仕方がなかったが、聞き逃すとまずい話のように感じ、必死に話に耳を傾けた。


「その昔、私たちはある島に住んでいた。時々本土に渡り食料となる人間を攫ってくる。気ままに暮らしていたのさ。そんな生活を何年か過ごしていた時、島から攫ってきた人間の一人がこんな事を言った。『今にお前たちを退治に勇敢な侍が来る。報いを受けろ』ってね。最初はただの戯言だと思っていた。だけどそれからまた何年かすると、食料を調達に行った仲間が戻らない。不思議に思い、もう一度仲間を向かわせた。すると、海岸に仲間の首が串刺しにされて並んでいた。偵察に行った仲間が慌てて戻りただ事ではないと判断した。しかし、時既に遅し。死の遣いはもうすぐそこまで迫っていた。」


早坂の額に少し汗が浮かんでいる。


「ついにその日が来た。やつら、たった四人で我々鬼に挑んできた。初めて見る姿に我々は戸惑った。二人はまるで獣なのか人間なのかよく分からない姿をしている。一人は鳥のようだった。奴らから発する殺気を感じた時にはもう遅かった。あれよあれよと、島の半分が侵略され、500近くの同胞がやられた。」


早坂の身体がワナワナと震えだした。


「中でも桁違いに強かったのが、他でもない人間の侍だった。奴はたった一人で500の半分を切り捨てた。たった一人だぞ…!気違いだ。刻々と迫りくる奴らを城から見下ろすと、辺り一面血の匂い、無残に殺された同胞の亡骸が広がり、まさにこの世の地獄かと思った。鬼が地獄を恐れるなんて馬鹿馬鹿しい話だが、私はその光景に恐怖し、足が竦んだ。自分は今日死ぬんだと。」


キキは早坂の話に戸惑い、どう反応していいのか全く分からなかった。獣?侍?一体何の話をしているのだ。もしそれが本当ならばこいつはどのくらい生きているのだ?本当に人間ではないのか?


「もう駄目だと思った時兄が逃がしてくれてね。私は助かったが、兄や仲間はみんな死んだ」


早坂は手に持った斧を固く握りしめ天井の光を見つめている。


「少し喋り過ぎた」


早坂は少し疲れた様子でキキの方に向き直った。


「もういいだろう」


キキはぶんぶんと頭を振った。

「ふー!ふぐ…!」


早坂は淡々とした表情で斧を振り上げそのままキキの左腕を切り落とした。


世界の崩れる音がした。








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