第九話 最初の村
ワンタの背中に乗り、ジーちゃんの村へ向かう。
私は呪われた森には入れないので、森を迂回するルートだと、おじいさんのいる村までは遠いらしい。数日かかるみたい。
途中にある村に立ち寄って食料を購入出来たらいいな。
所々道が分岐していても、ワンタは全く迷わずどんどん進む。
「俺は犬だから方角はわかるゾ」とか言っていた。
犬だから方角はわかるゾ。の意味が私にはわからない。
短い足でノソノソとマイペースで歩く。
「走らないの?」
「走ると疲れるんだゾ。散歩はゆっくり歩かないと、エサが見つかった時に疲れて追いかけられなくて逃げられちゃうんだゾ。あまりにも疲れていると逆に俺がエサにされちゃうんだゾ」
馬みたいにパカパカ走るのかと思ったら、ゆっくりノソノソと歩いていく。
私達の周囲は、歩いている間も、ずっと風が吹き続けている。常時警戒してくれているようだ。
こんな大きな白い犬が、女の子を乗せて歩いているので目立ってしょうがない。
ただ、人間の子供が乗っているのと、ワンタの見た目が子犬の様な容姿なので、警戒される事は少ないみたい。
触りたいのかなんなのか、近づいてくる人がいるが、ワンタは気づいて素早く逃げてしまう。
追いかけてきたら木の上に飛び上がって枝を足場に森の木の上を飛ぶように進んで行く。細い枝でも折れない、ワンタが魔力でなにかしているのかも知れない。
話しかけられても、私も事情を説明出来るとは思えないし、育ってきた環境のせいもあって、他人を信用出来ないのであまり関わりたくはない。
歩きながらワンタが話しかけてくる。
「アヤは親とか家族はいないのか?」
「いないよ。どこかで生きているかも知れないけど会ったことは無い。私は孤児院で育ったんだ。親がいない子を育ててもらえる場所。そこからあの怖い村に連れていかれて、貴族様に売られる予定だったみたい」
「親がいない子供はみんな売られるのか? 怖いんだゾ」
「みんな売られるわけじゃないよ。普通は養子に引き取ってもらったり、ある程度大きくなったら孤児院を出て、普通の仕事につくよ。いい仕事に就くために孤児院で勉強はたくさんしたんだけど。私は顔にアザがあるから養子も仕事も受け入れ先が無かったんだ」
「アザがあると何か問題があるのか?」
「ワンタは文字読める? 私の顔のアザは、人間が使う文字で、「呪」って漢字にしか見えないの。不吉な文字。生まれた時から呪われているのかな。このアザのせいで受け入れ先がどこにも無かったみたい」
「文字は少ししか読めないゾ。アヤの顔のアザは読めないんだゾ。ジーちゃんはそんなの気にしないゾ」
アザとか呪いとか気にしない人だったらいいな。
もう私にはすがる場所がおじいさんしか思いつかない。
他の孤児院に連れていかれた所で何をされるかわからない。
道に人が増えてきた。どこかの村が近づいているはず。
このまま村に入れるのだろうか? 警戒される?
私はワンタに乗っているだけで歩いていないし、乗り心地がいいので疲れてもいないが、ワンタは私を乗せっぱなしなので疲れているかも知れない。
「着いたんだゾ。俺は喋っちゃいけないってジーちゃんに言われてるんだゾ。基本的にアヤ以外の人間とは話さないゾ。人間が話しかけてきたらアヤが対応するんだゾ」
なんて対応したらいいんだろ? 説明も出来るとは思えないけど。
いざとなったらワンタが何とかしてくれるのかな?
村の入り口で、やっぱり止められる。服装を見た感じ警備の人だと思う。
「こんにちは。ちょっといいかな? これは……犬なのかな? どこへ行くのか教えてもらってもいい?」
「うん。おじいさんのところに行く途中。これはちょっと大きいけど大人しい犬だよ」
子犬と言うには無理がある。大型犬でもどうなんだろう?
「噛んだりしないかな? 村に犬を入れちゃいけないって言う決まりは無いんだけど。見た目は可愛いんだけど、大きいから。」
「絶対に噛んだりしないよ。大人しいよ。触っても大丈夫。」
ワンタがシッポを振りながら警備員にすり寄った。噛んだりしないと言うアピールなのだろう。
撫でてと言わんばかりに頭をこすりつけている。
警備員が撫でている。犬好きの警備員らしい。
「うん。大丈夫みたいだね。入っていいよ。村の人もびっくりするだろうし、騒ぎは起こさないように頼むよ。」






