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第七話 ジーちゃんの村へ向かおう

 崩れそうな集会場の屋根の上でワンタの背に乗り、最初の家に戻った。

 ワンタの口に何かがぶら下がっている。


「何を咥えているの?」

「あいつらがくれたんだゾ。村の宝のバッグと輪っかだゾ」


 古いバッグと輪っかを咥えている。バッグは空っぽだ。輪っかはブレスレットだろうか?飾りは何もない。二つともワンタのヨダレでベトベトだ。


 村の宝?


 ワンタがバッグを咥えたままなのに声が聞こえる。口は動かない。本当に魔力で話しているんだ。


「上着は持ったよ、バッグとか気になるけど、村の人が追いかけてくるかも知れないし、早く逃げた方がいいのかも」

「ゆっくりで大丈夫だゾ。あいつらは追ってこれないゾ」


「さっき脅しつけたから?」

「もうあの建物から出られないんだゾ。あと誰かが近寄ってきても風の力で俺にはわかるんだゾ!!」


 さっきの体当たりは、屋根の上の私の身も危険なくらいの衝撃だった。

 建物全体が崩れてもおかしくない。ドアも体当たりで歪んでしまったので開かないかも知れない。


 銃で撃たれてもダメージを受けず、体当たりだけで鉄で補強された建物を崩す事が出来る魔物を、わざわざ相手にするとは思えない。もしも人が近づいてきても臭いとか気配で気づくって事かな。




 ランプの明かりを頼りに、ワンタの口からバッグを受け取る。古い空っぽでペラペラのバッグ。中身を見てみる。


「やっぱり空っぽじゃない?」

「輪っかが鍵らしいゾ」


 輪っかが鍵?

 ブレスレットを手首に着ける。アヤの腕は細いのでガバガバだ。

 そしてカバンの中を見ると、金貨の山があった!!


「ワンタ!! 見て見て!! 金貨の山!!!!」


 ワンタに中を見せる。


「空っぽだゾ? 何も入ってないゾ?」


 ワンタには見えない? 確かにさっき私も見えず、空っぽのカバンでしかなかった。

 一枚取り出してワンタに見せると、


「おお!! 何も無いところから金貨が出てきたんだゾ!!」


 やっぱり。このブレスレットを着けている人だけがこのカバンを扱えるんだ。

 山のような金貨が入っているのに重さは全く感じない。

 カバンだけを奪われても中身を取り出す事は出来ないし、見た目も古いペラペラのカバンなので盗まれる心配も少ないはず。


「ここに何かを入れて持っていくわ。泥棒になっちゃうけど、殺される所だったし、ちょっとくらいいいよね」


 何か良い物は無いかと家の中を漁り、ビスケットやチョコレート、瓶に入ったはちみつ、タオルやコップとお皿、銅で出来た洗面器を入れてみる。

 目ぼしい物は少ないが、そもそもバッグに凄い量の金貨があるので、他の村で買い物出来るはず、食べ物は他の村までの数日分あれば大丈夫だと思う。


 バッグは入る量には限りがあるらしく、着替えの下着を入れると一杯になってしまった。

 どれだけ入れても重量は全く増えない。


 ブレスレットは手首だとガバガバなので、足首に着ける。アヤだと足首で丁度いいサイズだ。

「準備完了!! もう出発出来るけど、ワンタに乗る時つかむ所が欲しいわ」



「犬の首輪があるといいんだけど、俺の首は太すぎて入る首輪が無いと思うゾ」


 紐かなんか無いかしら?と思ったら男の人の着替えの服が乱雑に置いてあるのが見える。

 横に高そうなベルトがある。このベルトを首に巻き付けたら嫌がるかな?


「ワンタ、男の人のベルトがあるんだけど。持つところにしたいから首に巻いてもいい?」


「いいんだゾ!! 村の飼い犬はみんな首輪してるんだゾ!! 羨ましいゾ!! 俺は野良犬だから首輪が貰えないんだゾ!!」


 飼い犬が羨ましいのかな。こんな大きかったらそりゃ誰も飼えないけど。散歩も行けないし。ワンタにベルトを巻き付ける。ちょうどいい長さのベルトだ。


「私が持っているとバッグ落としそうだから、バッグを首輪に通して持ってもらっていい?」


「いいんだゾ。オシャレだゾ」


 ワンタの首輪にカバンの紐を通す。腕輪が無ければ空っぽのカバンなので中身が落ちる心配もない。


「準備出来たし、この村を出たいの。おじいさんの村は遠いの?」

「ジーちゃんの村は遠いゾ。場所はなんとなくわかるけど、ここからだいぶ離れているゾ」


「私、ちょっと疲れているから、ここから離れて落ち着いた所で少し休みたい」

「わかったんだゾ。乗るんだゾ」


 上着を着てワンタの背に乗り、首輪を掴むとワンタがゆっくりと森へ続く道に向かい歩き出した。


 思った以上に大きくてフカフカの背中。柔らかく暖かい。

 今日はいろいろな事がありすぎた。

 もう身体も心も限界だったアヤはそのまま眠りに落ちて行った。



 気づいた時は朝だった。

 あの村からどのくらい離れたのだろうか?

 ワンタは寝ている私を落とさないで歩いてくれたようだ。


 ここは……森の中だと思う。ワンタは私の下で寝ている。

 違うか。私がワンタの上で寝ていた。

 乗せたままで重くないのかな?周りにそよそよと風が渦巻いている。


 歩いている犬に乗って寝た人間なんて私だけだろう。

 犬じゃなくても馬に乗って寝た人もいないかも。



 どうでもいい事を考えながらワンタの背から降り、昨日の事、そしてこれからの事を考える。

 おじいさんのいる村は遠いと言っていたけど、さっきの村の人がそこまで追ってくる可能性。

 私に追いかける様な価値があるとは思えないけど、村の情報を知ってしまったので殺しに来るかも。マジックバッグを取られたので取り返しに来る可能性も高い。

 ワンタが脅しつけた位で諦めるような人達とは思えないけど。


 そして、ワンタが言うジーちゃんに会えたとしても。私を育ててくれるのだろうか?おじいさんは普通の人間なのかな?


 そして、一番よくわからないのがワンタと黒い大蛇。

 黒い大蛇は間違いなく確かにいた。私にも見えた。そして私が触れると消えた。

 偶然? 何か原因がある? また出てくる? もう出てこない?

 私がワンタに乗っている時に大蛇が出てきて私が噛まれたら間違いなく死んでしまう。

 出てくる条件、消える条件がある?


 色々な事を考えていると、ワンタが目を開けた。


「おはようだゾ」


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