第六十話 オヤジ~!!
「団長!! あいつだ!! イソギンチャク付きだ!!」
デカい!! これはわん太でも無理だろう。デカすぎる!!
他のカニもわん太よりデカいけど、背中に花の咲いているカニは、手足を入れれば本当にゾウと同じくらいの大きさだ!!
背中のあれがイソギンチャク? イソギンチャクって何だろう?
触手の様な物がウネウネと動いている。
花に見えなくも無いけど単純に気持ち悪い。
無言でコージさんが近づき、バットで周りにいた巨大ガニを蹴散らした。
慌ててオヤジも銛で援護する。オヤジの太い腕も伊達では無く、近くのカニの甲羅を貫いていく。
団長さんは黙って見ている。
コージさんとオヤジが周りのカニを数匹倒した後、コージさんがイソギンチャク付きのカニの正面に近づきバットをブンブンと振り回し威嚇する。
カニも負けずにジャキンジャキンとハサミを打ち鳴らす!!
デカさの割に動きが俊敏だ。
そもそも腕が長くて間合いに入るだけでも難しそうだ。
カニが大きく広げたハサミをコージさんに振り下ろす!!
踊るようなステップでかわした瞬間、ハサミに向かってバットを叩きつける!!
ギーンと言う鈍い音が鳴るが、甲羅が硬く割れない。
カニは二つの大きなハサミを次々に振り回しながら、コージさんを追いかける。
ハサミが長く、しかも連続攻撃なのでコージさんも迂闊には近づけない。
カニがコージさんに気を取られている隙にオヤジが動き出した!!
大きな銛を構え、素早くカニの背後に回り込んだその時!!
いきなりオヤジが銛を落としたと思ったら、倒れて苦しみだした!!
イソギンチャクの触手が倒れたオヤジを捕まえた!!
更にコージさんが倒れてしまったオヤジに一瞬気を取られた隙に、カニが逆にコージさんのバットを挟み込んだ!! バットが真ん中からへしゃげて曲げられてしまった!!
団長が叫ぶ!!
「コージ!! 戻れ!!」
ヤバい。コージさんもヤバいけどオヤジがもっとヤバい!!
「わん太!!」
声をかけた瞬間、わん太がオヤジの元へ走ってオヤジを咥え、イソギンチャクから引きはがした!!
イソギンチャクがわん太に触手を伸ばしてくる!!
なんとか攻撃される前にオヤジを咥えたまま距離を取る。
更に周りにうじゃうじゃと大型のカニも集まってきた。
バットを落としてしまったコージさんは、もう攻撃手段が無い。
「よし、ここまでだ。コージ、わん太、撤退しよう」
苦しんでいるオヤジを背中に乗せてわん太も素直に逃げてくれた。
近くまで見に来ていた漁師達が、慌ててわん太からオヤジを降ろしてどこかへ運んで行ったので、私がわん太に乗っかり集会場へと戻る。
「あいつだゾ。俺もあの花にやられたんだゾ」
「オヤジと花は離れていたと思ったけど。なんか飛ばしてくるの?」
「来るんだゾ。素早くて風でもわからなかったんだゾ。刺さるとまともに動けなくなるんだゾ」
わん太でも動けなくなるのか。オヤジは大丈夫かな?
「小型のカニはもうわん太が殺してくれているし、生きている残りが見る限りは100匹程度でしたね。漁師達も協力してくれるだろうから、普通の個体は何とかなると思いますが」
「問題はあのデカい奴だよね。ハサミでコージのバットも折られちゃったし、後ろのイソギンチャクは毒飛ばしてくるし。どうやって倒すんだよ?」
「団長の刀でスパンとぶった切れませんか?」
「思ったより動きが速かった。お前のバットを簡単にへし折るくらいだから力も強いし強度も高い。先にイソギンチャクを殺そうにもあの毒はかなり厄介だよ。鎧とかで毒を防いだとしても、動きにくい上に、ハサミでズタズタにされそうだよ」
「他のカニを皆殺しにしても、あいつを残したら結局一緒ですからね。せっかくわん太が小さいのを全部ぶっ倒してくれたんだし、俺達がここにいる間にイソギンチャク付きを何とか倒せればいいんですが」
「よし、カニ味噌をあてにして一杯やりながら考えるか」
「いいですね。みんなと一緒に作戦会議と行きましょう」
二人はお酒を飲む気だ。
私はもう食欲がない。
集会場へ戻ると大変な騒ぎになっていた。
オヤジは命には別状は無いけど熱が出て、集会場の近くの自分の家に連れていかれてしまった。
オヤジと言う頭を失った漁師達は、纏める者がいないのでかなり荒れている中、みんなで私達の晩御飯の準備をしてくれている。団長さんも調理に加わった。
慣れた手つきでサクサクと魚を捌いてくれた。
美味しそうな魚やエビがたくさん並んでいる。
私はあんまり食欲がない。
「団長さんよ、オヤジがやられちまった。もうあんたしか頼る物がいないんだ。すまねぇが力を貸してくれ。オヤジから、全員あんたの指示に従うように言われている」
「今、カニの魔物の様子見てきたんだ。俺達で作戦立てるよ。慌てても今すぐにはどうにもならないのと、俺達も興行で来ているし、団員や動物の事もある。本業を蔑ろには出来ない。だけどオヤジさんの頼みだ。責任もってやっつけてくるから、カニ鍋の用意だけして待っててくれ」
カニ鍋。お鍋か。
どれだけ美味しくても絶対に食べたくないなぁ。
「俺達に出来る事があれば何でも言ってくれ。あとオオカミがオヤジを助けてくれたんだってな。助けてもらったはずなのに、オオカミとオオカミ使いには絶対に逆らうなとかうなされ続けているんだがどうしたんだ?」
「明日海に行ったらわかると思うよ。その子がオオカミ使いだ。オヤジを助けてくれたんだよ」
漁師達がみんなで私に頭を下げに来た。
みんな真っ黒に日焼けしていて強面だ。
「さっきオヤジから聞いたんだ。アヤちゃんとわん太だよな。オヤジを助けてくれて有難う。オヤジが食われる寸前だったって言っていた」
え? 食われる?
あの花は物を食べるの!?
「ねぇ。あのイソギンチャク? はオヤジを食べようとしていたの?」
「そうだ。普通のイソギンチャクは魚を食べるんだが。あいつは人も食う。もう何人か食われているからな。それで立ち入り禁止にしたんだ」
花のくせに人を食べるのか。花じゃないのかな?
普通のイソギンチャクが魚を食べるのなら、あの大きなイソギンチャクも魚を食べるはず。
私の目の前には美味しそうな魚料理がたくさん並んでいる。
もしかして、この魚も食べるんじゃないのかな?
いい事を思いついた。




