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第六話 皆殺し

「大丈夫だゾ!! 行くんだゾ!!」


 崩れた壁から見える外は真っ暗だ。ゆっくりと立ち上がった、と思った矢先!!

 いきなり崩れた壁を乗り越えて、暗闇を凄いスピードで走り出した!!

 落ちる!! と思ったが、私の身体は一切ぶれず、振動も無い。

 犬とか馬とかじゃない。スピードだけじゃない、私の身体は一切ぶれない。落ちる心配どころか、揺れさえ感じずに疾走していく。


 飛ぶように走り、瞬く間に集会場と思われる場所の前についた。

 全ての窓には鉄格子がかかり、男達がランプの明かりで外の様子を伺っている。

 中に村中の人が集まっているらしいが、人数は外からではわからない。

 おそらく魔物が出たり、災害があった場合のシェルター的な役割を果たしている場所だろう。



 ドンドンッ!!


 いきなり銃声が響き、ワンタが撃たれた!!


 ワンタが即座に屋根に飛び乗った。

 こんな大きな身体で私を乗せたままなのに。凄い運動神経だ。

 部屋の中からじゃここには狙いはつけられない。


「鉄砲だゾ。アヤに当たらなくてよかったゾ」

「ワンタ!!大丈夫なの?」

「当たったけど。あんなものたいした事無いんだゾ。アヤは屋根に降りるんだゾ。あいつらを脅しつけてくるんだゾ。知りたい事はなんだっけ?」


「この村の存在理由と、貴族様が私を殺す理由の二つ。聞いてくれるの?」

「俺にまかせるんだゾ」


 ワンタの背中から降りる。

 念の為、撃たれにくいように私は屋根の上に伏せておく。


 ワンタが下に降りた瞬間、ドンドンドンドンッ!!

 銃声が響き渡る。当たったのかどうかわからないが、ワンタは気にする様子もない。


 脅しつけると言っていたけどどうするのだろう?


 ドカン!!いきなりワンタが建物に体当たりした!!

 屋根まで振動が響く。

 集会場の中が混乱している。


「やっぱり銃が効きません!! 魔物が建物に体当たりしてきました!! さっきは何かが魔物の背中に乗っていたように見えましたが。」


「黒い大蛇の魔物が絡みついているんだろう!! 狼狽えるな!! そう簡単にこの建物は崩されん!! 災害や魔物が出た時の為に、壁一面が鉄板で補強されている!!」


 建物の中にいる人間に聞こえるようにワンタが話しかける


「おい、お前達出てきた方がいいんだゾ。どうなっても知らないゾ」

「なにっ!! 喋った? 魔物が? 言葉が通じる魔物なのか?」


 ドカン!! ワンタが再度建物に突撃!!

 壁が凹み、建物が悲鳴をあげる!!


「入り口はこれなんだゾ!!」


 ドカン!! またも突撃!! 

 鉄で出来ている頑丈な入り口のドアが体当たりでぐにゃりと歪む。

 鉄格子から銃を構えている男達が銃を降ろし両手を上げた。


「待て待て!! 言葉が通じるなら待ってくれ!! 私が村長だ。かなわないのはわかった。銃はもう使わないから待ってくれ!! お前の要求はなんだ?」

「えっと。聞きたい事は二つだゾ。この村は何なんだゾ? なんの為に存在するのかだゾ? それと貴族様はなんで人を殺すんだ? わかっていると思うけど、嘘をついたら全員皆殺しにするんだゾ」


 集会所の中がパニックになっている。


「村長、どうするんですか? 魔物とは言え本当の事を言うわけには……聞きたいことは間違いなく村の商売の事としか思えません」


「あの魔物は明らかに知能がある。銃も効かない。鉄板で補強してある壁なのに、体当たりだけで、壁どころか建物ごと変形している。壁を壊されるのは時間の問題だ。しかし村の商売の事など、あの魔物が知りたい情報とは思えない。しかも貴族様関連まで探ってきた」


「魔物を手懐けている者がいるのでしょうか?」


「おそらく。誰がやらせているのかはわからんが、人間が魔物を操って、この村と貴族様身辺を探っている可能性が高い。魔物だから私達を殺すのに躊躇も罪悪感もないだろう。下手に嘘をついたところでバレたら間違いなく殺される!!」


 ドカン!! ワンタが再度体当たりした。壁はもうベコベコに凹んでいる。柱も歪み、建物ごと崩れてもおかしくない。


「わかった!! 正直に話すからもう体当たりはやめてくれ。お前の知りたい情報と思われる事を話す。この村は村ぐるみで人を売り買いして金に換えている。攫った人間や、買ってきた孤児を販売している」


「人攫いの村か。何故攫った人を貴族様は人を殺すんだ?」


 殺す? 別に殺す為だけに攫う訳じゃないが。これは、あのアザのあるガキの関連だな?

 誰かが魔物を操っている人間に何かを漏らしやがった。

 魔物を使ってラキュール伯爵の周辺を探っているらしい。

 下手な事を言う訳にもいかないが。嘘をつけばこいつは間違いなく村人全員皆殺しにするだろう。


「貴族にもよるが、お得意様によっては結果的に死んでしまう事もあるだろう。身元のわからない人間を高額で購入して頂けるんだ。いろんな用途で購入される。人というか、小さな子供を好まれる方がいる。何をされるのかまでは詳しくはわからないが、買われて生きている者はいないと言う事しかわからない。おそらくおもちゃにして殺してしまうと言う話だ。これでいいか?」


 何も言わずにワンタが屋根の上に飛び乗り、アヤに話しかける。

「聞こえたか? ここは人を攫って販売する村で、貴族様は子供をおもちゃにして殺す為に買うらしいんだゾ」


 人身売買って言うのかしら。聞いた事はあるけど。今まで孤児院からここに連れられて、貴族様に売られた子達は、おもちゃにされて殺されたんだろうか。人間をおもちゃにして殺すとは。想像もつかない。そして私も貴族様に!?


 怖い。もうこんな場所にはいたくない。

 ワンタにだけ聞こえるように、小さな声で話しかける。


「ワンタ、ここを出よう。もうこの人たちと一緒にいるのは怖い。私を殺す予定の貴族様って言うのが誰かわかんないのが気がかりだけど。私がいた家に上着が置いてあるからそれだけ取って出発しよう。もしかしたら家にお金も置いてあるかも知れない」

「金が必要なのか?」


「私は人間だから。お金が無いと生きていけない。ご飯食べられないよ」

「わかったゾ」


 ワンタが音もなく飛び降りると、中から村長と名乗る男が話しかけてくる。


「なぁ。秘密を喋ったんだから助けてくれるよな。」


 いきなりワンタが鉄格子に向かって突進する!!

 ドカン!!

 鉄格子がぐにゃりと変形する。


「金はあるか? あるだけ出すんだゾ」

「ちっちょっと待ってくれ!!金庫に入っているマジックバッグとブレスレットを持ってこい!!」


 ワンタの前に、ブレスレットとマジックバッグが放り投げられる。古いペラペラの空っぽのバッグと何も飾りの無いシンプルなブレスレット


「それは村の隠し財産だ。万が一の時の為にここに隠してあった物だ。見た目はわざと古く作ってあるが、マジックバッグ自体もドワーフに作らせた超一級品だ!! ブレスレットはバッグの鍵になっている。ブレスレットをしている者だけがバッグを使う事が出来る仕組みだ。本当の村の宝と言ってもいい。それを渡すからどうか命だけは勘弁してくれ!!」



 ヒューーーーーー……



 建物の中だけにゆるーく風が吹き出す。


 建物の中を一瞥すると、ワンタはバッグとブレスレットを咥えて屋根に飛び乗り、アヤを背中に乗せて飛ぶように駆け去った。


 残された村人達が呆然と立ちすくむ。


「村長、情報とバッグ、良かったんですか?」


「命には代えられない。情報と金を提供しなければ私たちは殺されていた。この惨状を見れば私達に関連している貴族達も理解してくれるだろうし、はっきり言えば全員が同じ穴の狢、我々を完全に切り捨てるような事は出来ないはずだ。金は惜しいが、また商品を仕入れれば入ってくる。ただ、誰が魔物を操っていて情報がどこに流れるかがわからんのが気がかりだ」


 ビュウウウウウウウウウ……


「なんか風が、強くなっていませんか??」


 建物の中で吹いていた風が、どんどん強くなる。


「ヤバい!! 逃げろ!! ドアを開けろ!! 魔物が何かを仕掛けている!!」


 ガタガタ!!


「ダメです!! 魔物の体当たりでドアが変形して開きません!!」


 強風が吹き荒れる!!

 ゴオオオオオオオオオ!!!!



 部屋の中で竜巻が起こる!!

 ガラスは割れ、机も椅子も棚も何もかもがめちゃくちゃに吹き飛ばされる。


 もちろん人も。





 風がやんだ後、建物の中で動く者はいなかった。


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