第五十八話 花?
「いや。花にやられたゾ」
「花ってなによ? カニじゃないの?」
「カニの花だゾ。たぶん毒だと思うゾ」
花? 花ってなんだろ? 毒の花?
私も見たいけど一人じゃ行けないしなぁ。
「負けて逃げてきたの?」
「俺も頑張って小型のカニはやっつけたんだゾ。あと俺と同じくらいのサイズのも何匹かは叩き潰してきたんだけど、一匹だけゾウと同じくらいの大きさのデカい奴が出てきたんだゾ」
あぁ。大きくて重い魔物は、風が効かないから苦手って言っていたなぁ。
でもゾウと同じくらい!? 大きすぎる。
「風が効かないなら体当たりとかは?」
「長いハサミで逆に挟まれそうになるんだゾ。それで後ろに回ったら背中に花が咲いててそこから何かを飛ばされて身体が動かなくなったんだゾ」
カニの背中に花?
植物も魔物になるのかな?
よくわからない。わん太にこれ以上聞いてもたぶんわからないだろう。
集会場に行くまでに川に立ち寄り、ジャブジャブとわん太の身体の血を洗い流す。
川にみんなが集まってきた。
「アヤちゃん!! わん太!! 大丈夫か?」
昨日のゴリラオヤジだ。誰かがオヤジに報告したんだろう。
「ごめんなさい。わん太が魔物見つけたらしいの」
「アヤちゃんは行かなかったのか?」
「私は市場でお菓子食べていたから見てない」
うーん。わん太を放し飼いにしたから怒られるだろうか。
人とか噛んでないから大丈夫だとは思うけど。
「そのオオカミが魔物と戦ってくれたのか? 海辺がとんでもない事になっているってみんなが騒いでいるぞ」
「私は市場でお菓子食べていたから見てないけど、たぶんやられて帰ってきた」
「そうか……カニにやられたか。もしかしたら、そのオオカミだったら勝てるかと思ったんだけどな。わん太は大丈夫なのか? 大丈夫だったら一度集会場に戻ってくれ。さっき団長達が到着した」
団長さん来たから、集会場に戻ろう。
集会場に着くと、たくさんのごつい男の人が集まっていた。
オヤジが集めた海の男らしい。
団長とコージさん、ナオさんもいる。
ヨッシーさんアーボさんとアユさんは別行動かな。
「アヤ。わん太。大丈夫だったかい?」
団長さんだ。とりあえず謝る方がいいのかな。
「団長さん。ごめんなさい。わん太が早く海に行きたいって逃げちゃって。止まらなかったの」
「ん? 昨日の話か。二人が無事だったらいいよ」
相変わらず団長さんは優しい。
犬だからしょうがないけど、早く海に行きたいから逃げたり、勝手に海に行って戦ったりして。
私は最早何を謝るべきなのかも、よくわからなくなっている。
カニの件はもう大人の人に任せよう。
ゴリラオヤジが話し出した。
「すまんが団長、いいかな? 事情を説明させてくれ」
オヤジが熱く語り出す。
顔がゴリラみたいで怖い。話をまとめると、
山には山の、海には海の魔物が昔からいる。
船上や海中で遭遇する事もあるし、海辺に出て来る物もいる。
カニの魔物も昨日今日、急に発生したのではなく、今までも出て来る事はもちろんあった。
出てきたらみんなで武器を持って叩き潰して殺していたらしい。
「俺達だって海の男だ!! 魔物もサメも今まで何匹も殺してきた。もちろんやられる事もあるが、極上の海産物はここでしか取れないんだ。何人かがやられたとしてもビビッて引っ込んだりはしない」
しかし!! 数か月前に、超巨大なカニの魔物が出てきて何人か犠牲になってしまった。
みんなで倒そうと思って戦ったが、甲羅が硬すぎて、武器が全く通らず、刃が立たない。
そして超巨大なカニが暴れるので、小型のカニも倒せないままどんどん増え続け、港周辺を壊されて占拠されてしまった。今は海辺は立ち入り禁止にしているのでもうどうなっているのかわからない。
カニは海から一定の距離までしか離れないのでこっちまで攻めて来る事は無い。
「巨大なカニだが、それだけじゃないんだ!! 背中に巨大なイソギンチャクをしょってやがる!! 背後から近づくと、イソギンチャクが毒を飛ばしてきて刺さったら動けなくなっちまって食われたり、そのまま海に引きずり込まれるんだ。もう何人もやられている」
「毒?」
「オオカミ使い、なんか知っているのか?」
「いや。さっきわん太が花の毒にやられたって言っていたから」
「え? お前オオカミと本当に会話出来るのか?」
しまった!! どうしよう。わん太が話す事がバレちゃいそうだ。
「おやっさん。その子は本物のオオカミ使いです。オオカミと意思疎通が出来ます。おやっさん達が空や海を見ただけで明日の天気や進んでいる方角や、魚のいる場所を知る事が出来るのと似たような物だと思って下さい」
コージさんが助け舟を出してくれた。
「そうなのか? すげぇ能力だな。 それで花の毒ってのは? 確かにイソギンチャクは花に見えなくも無い。オオカミは奴に遭遇したのか?」
「うん。でもやられちゃったみたい。毒でやられたんだって」
「普通のカニじゃなくあいつにやられたのか。あれは別格だ。イソギンチャクに触れると毒で動けなくなるんだ!!」
「イソギンチャクって言う魔物と、カニは別の魔物なの?」
「そうだ。巨大なカニの魔物の背中に寄生した別の魔物だ。共存している。おかげで通常のカニよりも手ごわい相手になっている」
目を瞑って、黙って聞いていた団長が目を開けた。
「よし、ちょっと今から俺とコージで見るだけ見て来るよ。その後どうするか決めるよ」
「団長、それなら俺も見に行くよ。俺達だって一人は行った方がいい。今日は偵察だけだからお前らは近づくなよ。カニの来ないところで待機していろ!!」




