第五十三話 走る~走る~!!
そう言えばおじいさん達と一緒に話していたのは。
えっと。海にいるとか言っていた……人魚!!
「そう言えば、おじいさん達の家で人魚の話していたよね。団長さん、人魚ってわかる?」
「あぁ。上半身が人間で下半身が魚なんだよね。美しい歌声で船をおびき寄せて、そのまま沈めちゃうんだよ」
え? 船を沈める? 悪い魔物なのかな?
「そんな事するの? おじいさん達は人魚の肉を食べると不老不死になるって。わん太も年取らないし、怪我も治っちゃうから何かのヒントになるかも? って言っていたの」
「あぁ。そういう伝説もあるよ。肉は猛毒なんだけど、食べても耐えられた人は不老不死になるんだって」
わん太だったら毒蛇くらい食べてそうだし、猛毒でも耐えるかも知れない。
ただ、そんな半分だけ魚の人間なんていると思えない。
流石のわん太でも上半身人間の魚は食べないと思う。
空想上の生き物だろう。
「早く行きたいんだゾ!! どんなところか楽しみだゾ!!」
わん太は嬉しそうだ。
私も海を見てみたい。自分の目で見て、おじいさん達に話してあげたい。
バンブー街への旅を続ける。
数日後。
「あとはこの山を越えればバンブーの街だよ」
また、険しそうな山だ。
山脈と言うのだろうか、迂回出来そうにないので登って越えるしかない。
道は整地されていて広いけど。ひたすら上りなので動物達も人間も大変だ。
私はわん太に乗っているだけなので大丈夫。
ダッシュでわん太が走りまくる。サーカスを置き去りにして走る走る。
「早く行きたいんだゾ!!」
わん太がうるさい。
「私達は連れてってもらっているんだから我慢して!! 早くみんなのとこに戻って!!」
もう我慢できない様だ。普段は短い足でノソノソとゆっくり歩くのに、自分の行きたい場所だと途端に素早くなる。
さっきから先の方まで走って行って、サーカスまで戻る事を何度も繰り返している。
「早く行きたいんだゾ!!」
本当にうるさい。
「みんな一緒じゃ無いと街に入れないからね」
「海の匂いがするんだゾ!!」
海の匂い? するかなぁ。山の向こうだし、私にはわからないけど。
わん太は犬で鼻がいいから匂いもわかるのかも知れない。
みんなの所に戻った瞬間またダッシュで先の方まで走って行く。
後ろでサーカスの人達が笑っているのがわかる。
象やキリンにまで笑われている気がする。恥ずかしい。
「早く行きたいんだゾ!!」
「もう!! あんた一人で行きなさいよ!!」
「行くんだゾ!!」
「イヤァアアアアアア!!!!!」
私を乗せたまま、木の上に飛び乗り、そこから凄いスピードで山を越え出した。
道は曲がりくねっているが、わん太は木の上を一直線に山頂に向けて走って行く。
後ろでコージさんとナオさんが何かを叫んでいるが内容はわからない。
まただ……また暴走しだした……
木々の上を、険しい山をまるで飛ぶように、風の様に進む。
私は一人で行きなさいって言ったのに。いらない事を言うんじゃなかった。
物凄い勢いで山の上に向かう。風が周りに吹き続けているので、危ない魔物は察知してくれるのだろう。こんな所でクマとかに襲われてもコージさん達が来てくれる前にやられちゃう。
一気に山頂まで駆け上がる。
「うわー!! 綺麗!!」
「おおお!! 凄いんだゾ!!」
頂上からの眺めは、一面の海!!
「大きな池があるんじゃなくて、地面が水に囲まれているんだゾ!!」
私も想像していたのと違う光景だった。
海は、陸地よりも大きかったんだ。
青い空と、キラキラ輝く青い水!!
あれが全部塩水なのかな? 塩水だったら飲めないかな?
岩場や砂浜、そして海辺に広がる大きな街。あれがバンブーの街だろう。
高い山を一気に駆け上ったので、流石のわん太も息が荒い。
ハァハァ言ってるし疲れてそうだけど楽しそうだ。海へ行きたいという気持ちが強いのだろう。
「海の中に地面があるゾ!!」
「島って言うのよ。人とかいるのかな?」
「島だゾ!! よし!! まずは泳いであそこに行くんだゾ!!」
いや。無理でしょ。
わん太でも走れる距離じゃなさそうだし。泳がれたら私もびしょびしょになっちゃう。
「クジラに食べられちゃうよ!!」
「クジラと仲良くなるんだゾ!! 行くんだゾ!!」
私は綺麗な景色を見ていたかったけど、わん太がどんどん走って行く。
早く行きた過ぎて我慢出来ない様だ。
物凄い勢いで山を下って行く。
「街から人が俺を指さしているんだゾ!!」
ん~? そんな事言われても私には見えない。
わん太は犬だから視力がいいのかな?
下から見ていたら魔物が飛んできているように見えるのかも知れない。
「魔物だー」とか言われて揉め事になったらどうしよう。団長さん達がいたら大丈夫なんだけど。
一直線に街へと走るわん太は、もう止まりそうにない。
山を降りたが、わん太は走り過ぎてゼーゼー言っている。
流石のわん太でも山を上り下りするのは疲れるらしい。
しかし海への興味が勝つのかそれでも走り続ける。
街の近くまで走ってくると、遠くから街の人が指を指して近くに走ってくる。
ヨッシーさん程じゃないけど屈強な男の人達だ。
トラブルになるのかな。また魔物とか呪われたガキって言われそうだ。
「わん太、どうしよう?」
「なんだか怒っているんだゾ。海に近づくな!! って言ってるんだゾ」
なんでだろう。わん太が魔物と思われているのかな?
でもそれなら、海に近づくなじゃなくて、街に近づくなって言われそうなんだけど。
よくわからないけど、怒っているみたいに見える。
こっちに向かって走ってくる。私達を捕まえる気なのかな?
サーカスも開催するんだし、なるべくトラブルは避けたい。
団長さん達が来たら全部解決するんだから、それまで隠れておこう。
「わん太、団長さん達が来るまで島に隠れよう!!」
「隠れるんだゾ!!」
わん太が海に向かって走り出す。
男の人達が近くまで来ている。
「オオカミ使い~!! 止まれ~!!」って叫んでいるのが私にも聞こえる。
ん? オオカミ使い……!?




