第五十話 怪しい気配
わん太の新たな技も出来た。
団長さんとコージさんの指示で、テント内の邪魔にならない位置に、アーボさんが細くて見えない糸を数本張ってくれた。
遠くからだと見えない位細いのに、凄く頑丈な糸。
手品でアーボさんがぶら下がったり、物を吊るして浮かせたりする糸らしい。
手品の種なので、作り方も使い方も極秘だけど、わん太の為に協力してくれた。
邪魔にならない位置に張ってあるけど、わん太は風で糸の位置がわかり、糸を足場に飛び上がる!!
もちろん私やわん太がひっかかる事も無いし、糸の位置が絶妙なので、サーカスの邪魔にもならない。
客席から見ると、私を乗せたオオカミが空を飛んでいるかのように見えるらしい。
アドリブで、いきなりヨッシーさんが投げたリンゴをわん太が糸を足場にジャンプして咥えた時は、私もびっくりさせられた。
公演にも慣れて、いくつ目かの街での事、サーカスを終えて次の街へ行く準備をしていると、役場の方らしき人や、商人や貴族の使いらしい人達が何十人も団長を囲んでいる。
みんな困った様子で団長に頼みごとがあるようだ。
役場の方も頭をかきかき、困った様子で団長に頭を下げ、どこかへ行ってしまった。
コージさんが団長に話しかける。
「団長、どうしました?」
「なんだかさぁ。道中に野盗だか追いはぎみたいなのがいて暴れ回ってるんだって。コージとヨッシーでちょっとやっつけてこいよ」
「どこにいるんですか?」
「いや。隠れているからわかんないけど、次の街に行くまでのどこかにいるかもだって。野盗のくせに人数も多くて商人や街の人も何人も殺されてて、困っているんだって。これボスの人相書きだから覚えてね」
「今どき人相書きなんて言いませんよ。なんだか悪そうな顔していますね」
「うちも最近儲かっているから狙われちゃうかも知れないんだよ」
「団長の悪名は世間に轟いているから、うちにはちょっかいかけてこないと思いますけど」
「なんで悪名なんだよ。名声だろ。俺達だけの話じゃなくて、みんなが困っているんだって。見つけたらなんとかしてくれよ」
「いやいや。コージさんやヨッシーさんがいくら強いと言っても、うちはただのサーカスだから正義の味方じゃないですからね。そういう事は衛兵にでも任せた方がいいんですよ」
わん太の頭を撫でながらアーボさんが返事をする。
「アーボ。俺達は正義の味方だよ!! 俺達はサムライなんだよ!!」
「団長影響されやすいからなぁ。なんか変な芝居でも見ただけじゃないんですか?」
「地球の平和は俺達が守る!!」
団長さんがビシッとポーズを決めている。
だけど、正義の味方!? 本気なのかどうなのか?
私達みたいな孤児の子供と野良犬を助けてくれるくらいだ。親切だし強いから困っている人を助けてもおかしくはないけど。
どこまで本気なのかはわからない。
「わん太がパパっとやっつけてきなさいよ」
「えー。俺は犬だからそんなの無理だゾ」
即答だ。面倒くさいのかな。
ナンテン村のおじいさんとかがやってくれって言えばやるかも知れないけど。
まぁ正直、治安とかは国とか貴族とか、衛兵とかがやればいい事だし、うちの団員が怪我したら困るし。
私達がどうこうするものでも無いのかも知れない。
翌朝。
次の街へ向けての移動を開始する。
「全員準備はいいか? 出発するぞ!!」
コージさんから号令がかかり、みんなで次の街へと向かう。
私はずっとわん太に乗っているだけなので全く疲れないけど。歩くみんなは大変だと思う。
象もライオンも自分で歩く。人を襲ったりしないようにヨッシーさんが見ているし荷台に鎖で繋がれているので逃げたりは出来ない。
街から街へは数日かかるので、道中で宿泊する事になる。
食事を取り、簡易のテント内で睡眠を取る。
私はいつも通りテントの外だ。わん太の背中で一緒に寝ている。
辺りにはそよそよと風が吹いている。
わん太の上で寝ていると、急にわん太に起こされた。
「アヤ。起きるんだゾ」
いきなりわん太が話し出した。




