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第五話 私も助けて欲しいの

「私にそんな力ないと思うよ。あんな大きな蛇を倒せる力があったら、こんなところで自分が死ぬのを待っているわけが無いんだから」


「死ぬのを待っている?」



「詳しい事は私もわかんないんだ。でも。私は死ぬしかないみたい」

「よくわからないけど、死なれると困るんだゾ」

「なんでワンタが困るのよ?」


「黒い魔物がまた出てきたら、お前が消してくれる以外どうしていいのかわかんないんだゾ。俺の身体も回復していくんだけどめちゃくちゃ痛いし飯も食えなくなるし、魔物がジーちゃん達を襲う可能性もあるから村に帰る事すら出来なくなるんだゾ」


 もちろん私だって死にたいわけじゃない。

 だけど、子供の私には一人で生きていく力は無い。

 この村から逃げることも、孤児院に戻る事も出来ない。

 頼れる人は誰もいない。諦めるしか無い。


「ごめんね。助けてあげたいけど。そんな力どころか、自分が生きていく力も私は持ってないの」

「いや。それは困るんだゾ。何故お前が死ぬのかわからないけど、死なれちゃ困るんだゾ。俺は強いから、お前を殺しに来る魔物がいるのなら俺がやっつけるゾ」


「私を殺しに来るのが魔物だったらお願いしたいんだけど。残念ながら私を殺すのは魔物じゃなくて人間なの」


「人間? 普通の人間?」


「貴族様だよ。普通の人間。私を殺す理由はわからないんだけど……私は殺される」

「人間だったら簡単な話だゾ? 俺は黒い魔物には勝てないけど、人間なんか俺の相手にはならないんだゾ?」




 ……確かに。この白い魔物は強い。


 昼間、銃声も鳴り響いていた、たぶん撃たれていたけどその怪我も治っている。

 今も黒い魔物に噛まれた傷がみるみる治っていく。

 鍛えた人間が武器を持って戦っても、この魔物に勝てるとは思えない。


 だけど。もしもこの魔物が味方についてくれても。

 子供の私がどうやって生きていけばいいのか。

 自分が大人になるまで誰かが面倒を見てくれるのか。


 顔に刻まれた【呪】の一文字。


 実の親にも見捨てられた、呪われたこの顔を見て、育ててくれる人がいるとは思えない。

 孤児院でも、不吉だと忌み嫌われたこのアザを受け入れてくれる人などいるんだろうか?


「なぁ。死ぬ理由とかはよくわかんないけど。俺を助けてほしいんだゾ。もちろん俺もお前の味方になるゾ。約束するゾ。この先黒い魔物がもしも出なくても俺はお前の味方になるんだゾ!! お前を殺しに来た奴は全員俺が噛み殺すから、頼むから俺と一緒に来てほしいんだゾ!!」



 味方になってくれるんだ。噛み殺さなくてもいいけど。

 この子が犬じゃなく人だったら喜んでお願いしたい話なんだけど。


「ゴメンね。私は子供なの。一人で生きていく力がないの。私を育ててくれる人がいれば別だけど。」

「育ててくれる人? それならジーちゃん達なら間違いないゾ。俺にもエサくれるんだゾ!!」


 ……うーん


 確かに、この大きな喋る魔物を見て、怖がるどころか名前を付けてエサをあげる人がいる。

 どう見ても魔物なのに。

 もしかしてこの魔物にエサをあげる人が本当にいるのなら。私にもご飯をくれるのかも知れない。

「頼むんだゾ!! 俺と一緒に来てほしいんだゾ!!」


 悲痛な顔でワンタが叫ぶ!!

 必死なのだろう。


 どの道………ここにいても、たぶん私は殺される!!

 昼間も殺されるところだったし、今だってみんなはこの魔物から集会場に逃げたのに、私は助けてもらえない。

 そして貴族様のところに行けば私は結局死ぬらしい。


 他人に殺されるくらいなら。いっその事、この犬と一緒にいた方がマシなのかも知れない。


 考えている時間はあまり無い。

 魔物が暴れなくなったらさっきの男達が出て来るだろう。

 逃げるのなら早い方がいい。


「いいわ。ワンタのおじいさんを紹介して。でも、私の顔のアザを見れば、育ててくれないかも知れないし。私は人間だからワンタみたいに強くない。人でも魔物でも動物でも襲われたらすぐに死んじゃうからワンタが私を守ってね」

「任せておくんだゾ!! 俺がずっとお前の味方だゾ!!」


「私の名前はアヤって言うの」

「アヤか。わかったゾ。そうと決まれば出発するゾ。この村の人に挨拶とかはいいのか?」


 挨拶はしたくないけど。この村の人に私は顔を覚えられている。

 このアザを一度見れば顔を忘れるわけもない

 男たちも拉致とか言っていたし、なんか物騒だ。

 貴族様って誰だろう? 貴族様が私を追ってくる可能性もある。

 追って来られたら、おじいさん達に迷惑をかけるわけにもいかない。


 集会場に行けば何かわかるかも知れないけど。

 ワンタと一緒だったら大丈夫なのかな。


 あの男達もワンタを怖がっていた。

 もしも、私を追ってきそうな感じだったらワンタに脅しつけてもらえば大丈夫かも。


「この村が何なのか。何の為に存在しているのかと、何故私が死ぬのか、理由を知っておきたいの。私は貴族様に殺されるらしい。集会場ってとこがあるらしいんだけど。そこに行けばわかるかも。」

「よくわかんないけど、集会場に行けばいいのか? でも集会場がどこか俺にはわかんないゾ」


「集会場はたぶん大きな建物だと思うんだけど。村人がそこに集まっているの。村のどこかに無いかな?」

「今、人が集まっている場所なら風と臭いでわかるゾ。村の真ん中にある建物だと思う。アヤは足が遅そうだから俺の背中に乗るといいゾ」


 ワンタが伏せの状態になった。乗れと言う事なのだろう。



 でも……


 魔物に乗る?

 乗れるのだろうか。さっきの男が馬に乗っていたのとはわけが違う。


 でも!! もうここまで来たら何でもありだ!!

 思い切って背中に乗る。

 つかむところが毛しか無い。毛を引っ張って怒らないかな。


「ワンタ。持つところが無いの。毛を引っ張ってもいい?」

「大丈夫だゾ!! 行くんだゾ!!」


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