第四十五話 演技を変えよう
気が付くと、わん太の背中から降ろされて、マットの上に寝かされていた。
ここは? 昨日ご飯を食べた倉庫だ。
「アヤ。大丈夫か? 悪かったんだゾ」
珍しくわん太がしょぼくれて反省している。
尻尾を丸めて耳がへにょんとなっている。
「ダメでしょわん太!! アヤちゃんにもしもの事があったらどうするの!!」
あらら。ナオさんに怒られちゃった。
なんだかナオさんが凄く疲れた顔している。
「ナオさん違うの。今回は私がわん太にお願いしたの」
「アヤちゃんが? 綱から飛んで火の輪くぐるように言ったの?」
いや。そんな事言う訳が無い。
「そこまでは言わないけど、ナオさん達に負けない位凄い演技を見せようねってお願いしたの。それでちょっとわん太が頑張りすぎちゃっただけなの」
「そうだったんだ。うーん…… まぁ、アヤちゃんもわん太も怪我してないし、無事でよかった」
「怪我してないんだゾ!!」
「怪我してなくてもびっくりしすぎて心臓が止まる人もいるのよ!!」
「あー。ジーちゃんも言ってたんだゾ。びっくりするとワシもバーさんも心臓が止まるからおとなしくしているように何度も言われたんだゾ!!」
犬のわん太におとなしくする様に言うのが無理な気もする。
たぶんわん太に悪気は無いんだろう。
いろんな基準が人間とは違いすぎる。
はぁ~。怪我はしてないけど、流石に怖かった。
「団長さん、ごめんなさい。あの後どうなったの?」
「えっと。正直言うと、俺達も演技なのか事故なのかがわからなくて、お客さんもシーンとなっちゃって。わん太は綱から火の輪に飛び込んだ後、アヤを背中に乗せたままで、また玉に乗っかって裏に戻ってきたんだ」
「アヤが気絶しちゃったからどうすればいいのかわからなかったんだゾ!!」
気絶していても落とさないで玉乗りしてくれる。流石わん太。
まぁ確かに今までも、背中で私が寝ていても勝手に進んで行くんだから同じような物なのかな。
「アヤも怪我はしてなさそうだったし、わん太は普通に玉乗りして帰ってきたけど。お客さんが静まり返っちゃったから、コージとナオにもう一度空中ブランコやらせたんだよ」
あぁ。それでナオさん疲れているんだ。
コージさんも疲れた顔はしているけど、笑顔で話しかけてくれる。
「大丈夫。気にしなくていいよ。それよりアヤちゃん午後の部はもうやめとく?」
うーん。どうしよう。
私とわん太が顔を出した時の大歓声を思い出す。
わん太を楽しみにしている人がいる。
チケットも完売だ。それなのにわん太が出ないのは申し訳ない。
出来れば出たいなぁ。
「ねぇ。わん太。もうちょっと他になんか出来ないの?」
「空中ブランコは出来ないんだゾ!!」
わかってる。ブランコをつかむ手が無いし。大きすぎてブランコの間に入れない。
「細い木の枝の上とか水の上も走れるんだから、綱渡りは得意でしょ?」
「簡単なんだゾ!!」
綱から飛び降りたりしなければ。まぁ飛び降りてもいいけど暴走するんじゃなくて私の指示で飛び降りてくれたら綱渡りでもいいな。
だけど。普通の綱渡りじゃダメだ。わん太と私じゃないと出来ないような綱渡りじゃ無いと!!
なんかいい方法ないかな? わん太もおとなしく言う事聞いてくれて、お客さんもびっくりするような綱渡り。
私だって頑張らないと!!
最悪わん太が綱から落ちても私は怪我する事は無いだろうし。
わん太も怪我しないと思う。わん太は怪我してもすぐに治っちゃうからいいや。
二人で出来る事はわかんないけど、プロがたくさんいるんだし誰かに手伝ってもらえるかな?
「コージさん。ナイフ投げみたいにリンゴとか投げたら綱の上まで届く?」
「俺はずっと野球やってたから届くけど。もしかしてわん太が綱の上で口でキャッチするのかな?」
「わん太出来そう?」
「簡単だゾ!! リンゴ大好きなんだゾ!!」
「降りる時はちゃんと象かキリンの背中を使って降りるのよ? 一気に飛び降りないでよ?」
「大丈夫だゾ!!」
綱渡りしながらリンゴを食べるぐらいなら大丈夫よね。
コージさんのナイフ投げも百発百中だし、私も乗っているだけでいいし。
「よし。じゃあ全員でご飯を食べてから、練習も兼ねた午後の公演の準備だ。コージはわん太が口でキャッチ出来る距離や、飲み込むまでの時間を把握するんだ。演技の主役はわん太でも、主導権はコージだからな。わん太の背中にアヤが乗っている事を忘れるな。投げる食べ物の選別はわん太に任せる。アユはわん太から食べられる物を聞いて買ってくるんだ。アヤは安全を第一に考えて、わん太の上でどういう姿勢でどうすればお客さんが喜んでくれるかを自分なりに考えてくれ」
「はい!!」
団長さんからの指示が出された。
私もしっかりと返事した。
サーカスの一員になった気分だ。
私に出来る事は少ないけど頑張ろう。




