第四十二話 ピエロ?
翌朝。
続々とみんなが倉庫に集まってきた。
昨日の6人と、他の見習いや雑用の方も来てくれたようだ。
コージさんがみんなの前に立つ。
「全員に連絡だ。一つ、ヨッシーさんが少し体調を崩して本格的な出演はしばらく出来ない。もう一つ、今日から新しい団員が増える。即戦力で動いてもらうので見習い期間は無しだ。アヤちゃんとわん太、こっちへ」
言われるがままにみんなの前に立つ。
「全員よく聞け!! 団長が北極から連れてきた子供のオオカミと、オオカミ使いの少女だ。昨日見た者もいるだろう。団長が極秘で動いてなんとかここまで連れてきてくれた。もし誰かに何かを聞かれたらそう答えるんだ」
私はオオカミ使いか。わん太は子供のオオカミ?
そういえば犬とオオカミって何が違うんだろ?
「裏で色々ゴタゴタもあったし、わん太目当ての貴族も多数いる。どこから連れてきたとかどうやって連れてきたとか、本当の事はお前達には教えられないが、これからアヤちゃんとわん太はKKKの団員だ。アヤちゃん挨拶出来るかな?」
「私はアヤ。犬はわん太です。大きいけどただの犬です。宜しくお願いします」
「ありがとう。基本的にアヤちゃんとわん太の世話や演技指導、その他全て俺達がやる。アヤちゃん達が困っていたら助けてやってほしいが、余計な詮索は絶対に禁止だ。いらない情報を貴族達に流すわけにはいかないからな。以上だ。全員今日の準備を始めろ。解散!!」
全員がキビキビと準備を始める為に、それぞれの道具を持って出て行った。
アユさんが今日の演目順を書いた紙を持ってきた。
私達の出番のところはまだ何も書かれていない。
団長さんが説明してくれる。
「今日はこの順番だよ。俺の挨拶から始まって、全員で入場、コージとナオの空中ブランコから始まって、象の玉乗り、ナオの綱渡り、アーボの手品、コージのナイフ投げ、ライオンの火の輪くぐり、その次がアヤとわん太の出番だ」
「私達はどうすればいいの?」
「わん太がどこまで動けるのかわかんないけど。昨日見た感じ綱渡りと火の輪くぐりは出来るよね?」
「なんでも出来るんだゾ」
「なんでもって、あんた何が出来るの? アーボさんみたいに玉乗り出来るの?」
「やってみるんだゾ」
転がっているボールに乗っかり、四本の足で器用にコロコロと転がしていく。
そしてそのまま隣のボールに飛び移った!!
「おお。やっぱり凄いな。俺より玉乗り上手いんじゃないか?」
「アーボも出来るだろ。皿回ししながら玉から玉へ」
「俺も出来ますけど、こんな大きな犬が玉乗りするだけでも見ごたえありますよ。アヤちゃんは演技中のわん太に乗れるの?」
「うん。いつも私が乗ったままでわん太はどこでも行くから大丈夫。枝から枝に飛び移ったりするし、綱も火の輪も大丈夫。普段はもっと危ない事しているよ」
わん太がボールからボールへとぴょんぴょん飛んで見せる。
「もっと危ない事……じゃあ、わん太の出番を説明するよ。まずはオープニングでアヤを乗せて入場だ。ここは出るだけだよ」
「うん。私は乗っているだけで、わん太も着いて行くだけ」
「次は、コージのナイフ投げの後に登場、俺がアヤとわん太を北極から来たって紹介する。この時はわん太は玉乗り、アヤはさらにわん太の上に乗ってもらう」
「私は乗っているだけ。わん太は玉乗りしているだけ」
「そして、ライオン達が火の輪をくぐったあと、わん太もアヤを乗せたまま火の輪をくぐってもらいそのまま退場だ」
「私は乗っているだけ。わん太は火の輪をくぐるだけ。簡単ね」
「簡単なんだゾ」
開場前に練習をする事になった。
わん太の上に乗りながら、テントへ移動。
簡単に順番と立ち位置を教えて貰う。
入退場するルートや待機場所だ。
入場時、玉乗りしているわん太の背中に乗る。
ここはみんなと一緒に顔を見せるだけらしい。
入場後、団長さんの挨拶の後は一度裏に戻って一旦休憩。
コージさんのナイフ投げの後、わん太は私を乗せて玉乗りしながら登場、団長さんが私たちを紹介してくれた後、ライオン達が火の輪くぐり、その次に私を乗せたわん太も火の輪をくぐってポーズを取る。
数回繰り返したが特に問題無し。
私も乗っているだけだし、わん太の運動神経がいいのも知っているので別に怖くは無い。
こないだは暴走したから怖かったけど、最初から何をするのかわかっているのなら平気だ。
コージさんと団長さんが驚きながら話しているのが聞こえる。
「団長、もはや俺達いらないですよ。アヤちゃんとわん太だけでサーカス団成り立ちますよ」
「そうだね。俺達不要だよ。クビだよ。再就職出来るかな」
「俺は若いから何かありそうですけど、団長は年寄りだから仕事無いですよ。引退してもう老人たちとお茶でも飲んでいて下さい」
「お前は本当に失礼な奴だな!! 俺は悲しいよ」
なんだか悲痛な会話が聞こえるけど、わん太と一緒に頑張ってお客さんに喜んでもらって、楽をさせてあげようと思う。
「どうぞ。これが出演時の衣装ですよ」
アユさんが衣装を持ってきてくれた。
物凄く派手なキラキラの衣装だ。
アーボさんの服になんとなく似ている。子供用のピエロの衣装かな?
隣でアーボさんがピエロのお化粧をしている。
「アヤちゃんもピエロのお化粧してあげようか? 俺とお揃いの顔になるよ」
う……うーん。ピエロか。
私の顔のアザを気にして言ってくれているのかな。
どっちがいいんだろ?
「団長さん、私の顔のアザなんだけど、見られないようにピエロのお化粧した方がいいかな?」
「ん?どっちでもいいと思うけど。アザなんか気にしなくていいよ。アザがあっても顔を覚えてもらえた方が長期的に見たらいい事もあるかも知れないし。どこかでアヤを見た人が、あの子サーカスで巨大なオオカミを操って凄い演技していた女の子だ!! って覚えてもらえる方がいいと思うよ」
「確かにコージさん達は道を歩いているだけでみんなにキャーキャー言われるけど。俺なんて化粧落として歩いていたら誰一人見向きもしてくれないよ」
「お前なんかピエロの格好をして歩いていても、誰にも何にも言われないよ」
「団長……ひどいっス。俺も頑張ってはいるんだけどなぁ」
どうしよう。団長さんはしなくてもいいと言ってくれている。
もしも顔を覚えてもらえたら、そして顔のアザを見ても、私を嫌わないでくれたら。
どんなに嬉しいだろう。
チャンスは何度も巡ってくるかはわからない。
今は……チャンス?
わん太とサーカスしたら、みんなびっくりすると思う。いや!!絶対にびっくりする!!
プロのサーカス団のみんながびっくりする位だから、お客さんはもっとびっくりするだろう。
顔のアザを気味悪がられるんじゃなくて、巨大オオカミを操る女の子って覚えてもらえるのかな?
「アーボさんありがとう。でもピエロはやめとく」
「そう? じゃあ服だけで。着替えて準備しよう。もうすぐ時間だ」
「わかった。着替えて来るね。わん太ちょっとこっちに来て!!」
覚えてもらいたい。みんなをびっくりさせなければいけない。
アーボさん達すらも想像出来ないような演技を見てもらおう!!
まぁ、どうせ私はなにも出来ない。全部わん太任せだ。
サーカスの人も一緒にびっくりさせよう。わん太と作戦会議だ!!
「あんたが玉乗りして出てくる時に、私は背中の上にまたがるのじゃなくて、背中の上に立って登場したいの。出来る?」
「大丈夫だゾ。簡単なんだゾ!!」
「なるべくみんなを驚かせたいの。頼んだわよ!!」
「大丈夫なんだゾ!! みんなを驚かせるんだゾ!! でもどうせなら俺の頭の上に立つ方がかっこいいんだゾ!!」
「頭の上? 落とさないでよ?」
「落とすわけがないんだゾ!! 背中でも頭でも一緒だし、絶対大丈夫だゾ!!」
頭の上か。背中に立つより頭の上の方がかっこいいのかな?
わん太が私を落とすとも思えないし、背中より頭の方が目立ちそうだ。
お客さんが続々と入場している。
「うわぁ。こりゃまた大盛況だな。昨日のアヤとわん太を見た人が喋っちゃったんだろうな。アユ、チケットの売れ行きはどうかな?」
「チケットは今日の公演分全て完売です。買えなかった人が明日の分でいいから売って欲しいって大変でした。団長がうちに新しい家族が増えたとか言っちゃったからじゃないですか?」
「そうだよね。アヤがうちに入ってくれなかったら大変な事になっていたな。まぁ結果オーライだ。アヤもわん太も頼むよ」
「頑張る!!」
「俺も頑張るんだゾ!! みんなをビックリさせるんだゾ!! ものすごーくビックリさせるんだゾ!!」
そう。頑張って、みんなに顔を覚えてもらおう。
呪われたガキじゃなくって、サーカスの子供と呼んでもらいたい。




