第四話 助けて欲しいんだゾ!!
後ろでガチャリと鍵の閉まる音がした。
あの白い魔物は何だったんだろう?
私が魔物の前に飛び出した瞬間、白い魔物は私を避けたように見えた。
白い魔物は人間の言葉を話した。口は動いていなかった。
声は聞こえていた気がするけど。音として聞こえていたのではない気がする。
脳内に直接声が聞こえた気がした。
黒い魔物は確かにいた。白い魔物と戦っていた。私が触れた瞬間に黒い魔物だけが煙のように消えた。
だけど……どれだけ考えても、もう無駄な事だ。答えは私にはわからない。
閉じ込められた部屋とは言え、フカフカの清潔な温かい布団。
しかし興奮し目が冴えて眠れない。
明日は貴族様が迎えに来るのだろうか?
あの白い犬はジーちゃんのところに帰ると言っていた。
ジーちゃんは普通の人間なのかな。ジーちゃんはどこにいるんだろう?
延々と似たような事を繰り返し考えていた。
おそらくもう夜中だ。
また外が騒がしくなっている。
ビュービューと凄まじい風の音がする。
もしかして魔物!?
家から誰かが出ていく音がする。
もしも魔物なら、おそらく私以外全員が出て行ったはず。魔物が来たら集会場に逃げ込むって言っていた。
すぐそばで、バキバキと何かが壊れる音がする。
この家が壊されている音だ。魔物が怒って壊しに来たのかも。
あの白い魔物が狂暴化して暴れているのだろう。
バキバキッ!!
唐突に壁がぶち抜かれた。
また白い魔物が血まみれになっていて黒い大蛇が巻き付いている。
何が起こっているのか私にはさっぱりわからない。
「助けて欲しいんだゾ!!」
今のは……白い魔物の声!!
意識はあるの?でも助けてと言われても、私がこんな大きな大蛇をどうにも出来るわけがないのに。
あの時は、死ぬ覚悟だった。今も状況は変わらない。
ここで殺されるか、貴族様に殺されるかの違いなら。
思い切ってもう一度両手を広げ、白い魔物に飛びついた。
そして魔物に触れた瞬間!!
ボシュッ!!
夕方と同じく、黒い魔物だけが煙のように消えた?
ヘナヘナと座り込む白い魔物。
周りにゆっくりと風が渦巻いているのがわかる。
白い身体は血まみれだが、意識があるのか、目を開けている。
ハァハァと息を切らしている。
そして……
「ありがとう。助かったんだゾ」
魔物がお礼を!?
私を攻撃しに来たのではなく、助けてもらいに来たの?
「何をしていたの?」
「また黒い魔物が……何故か俺の身体の中から出てきたんだゾ。あの魔物は噛んでも爪で引き裂いてもどんどん怪我が治るんだゾ。俺も普通の蛇の魔物とかは殺せるけど、あの魔物は死なないんだゾ」
「あの蛇は魔物なの?」
「魔物だと思うけど、でも魔物でもなんだか生き物と言う感じじゃないんだゾ」
「ワンタは魔物じゃないの?」
「俺は普通の犬だゾ?」
「普通の犬は喋らないわよ?」
「俺は普通の犬だけど喋れるんだゾ。喋れるとは言っても、ジーちゃん達みたいに声で喋ってるわけじゃなく、魔力で言葉を伝えているんだろうってジーちゃんが言ってたゾ」
確かにワンタの口は動かない。そして聞こえてくると言うか伝わってくる言葉は耳ではなく頭の中に直接響いてくる。
魔力で言葉を伝えている?
魔力があるんだから、やっぱりワンタも魔物なのだろうか?
全然わからない。
「昼間にお前があの魔物に触れた瞬間、確かにあの魔物は消えたんだゾ。お前の攻撃以外は効かないんだゾ。俺がどれだけ攻撃しても、ずっと回復し続けて俺を殺そうとするんだゾ」
「私が触れたら消えちゃったけど、どう言う事?」
「わかんないゾ。逆に俺の身体が蛇に攻撃されても回復し続けるんだゾ。噛みつかれても傷がどんどん治っていくし、俺も自分に何が起こっているのかわからないゾ」
魔物がしゃべるだけでも意味がわからないのに。
ワンタが何を言っているのかわからない。
話しているワンタ自身も自分の置かれた状況を理解出来ていないようだ。
ただ、確かに血も止まり、蛇に噛まれたらしき傷はどんどん治っているように見える
。
「何を言っているのか全然わからないよ」
「うーんと。昼間、お前が魔物を消してくれた後、ジーちゃんのいる村に帰ろうと思ったんだゾ。腹が減ったのでエサを探しながら歩いていたら、あの黒い魔物がまた俺の身体から出てきて、殺し合いになったんだゾ。だけどお互い怪我が治り続けていくからお互い死ぬこともなく、ひたすら戦いが続くんだゾ。すぐに昼間の事を思い出して、もしかしてもう一度助けてくれるかもって思ってこの村に戻ってきて匂いを頼りにこの家を壊してしまったゾ」
「私が助けると思って戻ってきたの? 私にそんな力ないよ?」
「でも、今も実際お前が触れた瞬間に、黒い魔物が消えたんだゾ。お前が助けてくれたんだと思うゾ」
悲壮な顔で少女は言った。
「私にそんな力ないと思うよ。あんな大きな蛇を倒せる力があったら、こんなところで自分が死ぬのを待っているわけが無いんだから」