第三十八話 倒してくれるかも!?
「じゃあ、わん太が喋ったのか? まさか魔物か?」
一気に緊迫した雰囲気になってしまった。
小さい犬だったら大丈夫なんだろうけど、大きいわん太が話すとやっぱりみんなびっくりするんだ。どうしよう?
動かなかった団長さんが立ち上がり、わん太に近づく!!
「団長!! 気を付けてください!!」
「団長!! 危ない!!」
みんなが心配して声をかけるが、そのままわん太に近づいて頭を撫でる。
「全員落ち着け。大丈夫だ」
わん太は大人しく撫でられている。
団長さんが頭を撫でた事で全員落ち着きを取り戻した。
「ごめんなさい。実はわん太は人の言葉喋るんだ。魔物じゃないよ。でもヨッシーさんの実家にも喋る動物いるんだよね?」
「あ……あぁ。ヨッシーさんの家で飼っているのはオウムって言う鳥だけど。知らないかな?」
あー!! オウムかー。確かに人の言葉喋るけど……わん太が話すのとは全然別の話だ。
「びっくりさせてごめんなさい。わん太は人の言葉が理解できるし、わん太自身も話す事が出来るの。みんなびっくりするから村の人以外の前では喋らないようにって言っておいたのだけど」
「喋ってしまったんだゾ。オウムってなんなんだゾ?」
「オウムはどうでもいいの!! 喋っちゃダメって言ったでしょ!!」
「わん太はほんとに喋るんだ。でも口は動いていなくない?」
「確かに動いていませんね」
ナオさんとアユさんが手を繋いで話している。まだちょっと怖いのかも知れない。
「団長さん……えっと。あの……その……」
ダメだ。やっぱり言葉が出てこない。
悪い犬じゃないと思うんだけど。
「喋る犬ってだけだよ。こうやって撫でても大人しいし、別に俺達を食おうってんじゃない。大丈夫だよ」
団長さんだけあって根性が座っているのかな。
犬が喋ったくらいじゃ気にしないらしい。
アーボさんと目が合う。
「アヤちゃん、さっき、聞きたい事はたくさんあるって言っていたけど。何を知りたいのかな? なんか困っていることがあるの?」
困っている。困っているどころでは無い。
子供だけだと買い物もろくに出来ないし攫われそうになるし。
頼れる人もいないしどこに行けばいいのかどうすればいいのか全く分からない。
でも人に言っていいのかどうなのかわからないし。
「困っているんだゾ!!」
うわっ。また喋り出した!!
「もう!! 人前で喋っちゃダメって言っているでしょ!!」
パニックになりそうだ。
急に飛び出してサーカスしたりいきなり喋り出したり。
今すぐ逃げてナンテン村に帰りたい。
いろんな隠し事をしながら旅を続けるのは無理だ。
わん太を撫でながら、団長さんが話し出す。
「俺達は困っている子供を見捨てて放置する程冷たくは無い。アヤが困っていて心の扉を閉じてしまっているのなら、開いて貰えるように努力する。Kid Kicky Key団長として約束する。団員全員に次ぐ。今からここで見る事聞く事、全て他言無用だ」
「はい」
全員が返事をしてくれた。
「どうかな? 話しにくい事は別に話さなくてもいい。俺達は旅のサーカス団。それなりに顔も広い。俺達が力になれるかはわからないけど、力になれる人を紹介できるかも知れない」
他言無用って他の人に内緒にしてくれるって事だよね。
どうしよう。話してしまえば楽になれるのかも知れないけど。
みんな優しい。私の顔のアザを見ても誰も何も言わない。
サーカスであれだけの無茶をしても一言も怒られなかったどころか、美味しいご飯までご馳走になった。
今だってわん太が急に喋り出しても私を責める人は一人もいない。
「じゃあ……あの。どこから話せばいいんだろう。長くなってもいい?」
「大丈夫だよ。その犬はどう見ても特別だ。誰もが欲しがるだろうし、恐れるだろう。アヤちゃん自身も何か困っている事があるのかな?話せる部分だけでもいい」
こうなったら、全部話した方が楽だろう。
私自身は何か疾しい事をしたわけじゃない。
もしかしたら私を追っている人もいるかも知れない。団長さん達に隠し事をして迷惑をかけるのは嫌だ。時間はかかるかも知れないけど、全部知ってもらおう。
大人の人だから、何かいい案を出してくれるかも知れない。
「本当は私は元々孤児で、本当の親は顔も見た事も無いの。孤児院で育ったんだけど、顔のアザを気味悪がられて里親も見つからなくって。」
ぽつりぽつりと話し出した。
生まれつきの顔のアザ、孤児院での生活。
人身売買の村の事、そこからどこかの貴族に売られる予定だった事。
売られていれば死んでいたけどわん太が助けてくれた事。
ナンテン村におじいさんとおばあさんがいて、帰る家がある事。
わん太が耕した畑の作物は異常に大きく育ち、美味しくなる事。
そして、わん太自身の身体の話。
喋る事、魔法で風を思い通りに操れる事、そよ風を吹かせ続けて風の中に入った者を確認したり、暴風を吹かせて物を壊すことも出来る。
今吹いている風は隙間風じゃ無くわん太の魔法。
こないだ子爵様と揉めて捉えられそうになった時辺りを壊しちゃった事。
サーカスで見せたように身体を軽くして、木の上を飛ぶように走れる事。
野生の大蛇と戦う最中、呪われた森に潜り込んでしまい、大蛇を殺して食べて、森の中で他にも果実を食べたら身体に異変が起きて、体内から黒い魔物が出現するようになって、わん太と魔物で殺し合いになる事。
わん太も魔物も怪我をしても異常に身体が再生する事。
アヤが触れると魔物が消え、アヤがわん太に触れている間は魔物が出てこない事。
そして、わん太の身体を治す為に二人で旅をしている事。
話し出すと止まらなかった。思い出せる限りを一気に話し終えた。
「わかった。全員にもう一度言う。今聞いた話は全て他言無用だ。誰にも話さないようにここだけの秘密にしてくれ。アヤは今日泊まる家が無いのなら宿屋を準備しよう。ナオとアユの部屋で泊まるといい。わん太はこの倉庫で。コージ、見習い達はここには入らないように言っておいてくれ。そして全員これ以上の詮索はしないように」
「わかりました」
「泊めてもらえるのはありがたいけど、私とわん太が長時間離れると黒い魔物が……」
「あぁ。そうだったか。魔物かー。見ない事には信じられないけど。どうしようかな? コージはどう思う?」
「団長、倉庫に入った時に話していた風も隙間風じゃなく、わん太の魔法なんですよね? 結界を張っている感じの魔法になるのかな。どうせなら黒い魔物もこの際全員自分の目で見た方がいいんじゃないですか? 全部が話だけで信じられる物でも無いですし、アヤちゃんとわん太が離れたらどうなるのかも知っておいた方がいいと思うんですよ」
「危ないんだゾ!! 魔物は俺が制御出来る物じゃ無いから。俺以外の人を襲うのかどうかもわからないし、俺自身も傷まみれになるんだゾ」
「いや。コージの言う通り、一度は見ておきたい。怪我してもわん太の傷は治るんだろ?なんらかの理由でアヤちゃんとわん太が離れてしまう可能性もあるから。先に黒い魔物を見てみないとこちらも対策の立てようがない」
「俺はピエロしか出来ないけど、団長やヨッシーさんは動物を使役するプロだからね。鎖に繋いでしまうとか、檻に入れてしまえばわん太と引き離す事も可能かも知れない。ヨッシーさん蛇くらいなら何とでもなりますよね?」
ヨッシーさんがウンウンと頷く。
もう喋らなくなってしまったようだ。酔いがさめたのかな。
「なんなら団長が黒い魔物だけぶった切って殺してしまえばそれが一番ベストですよね?」
「傷なら治るけど、クビチョンパしちゃえば復活は出来ないと思う。俺も刀を振るうのは久しぶりだな。試してみよう」
「アヤちゃん、わん太、いいかな?」
「いいんだゾ。でもみんなが怪我しないようにするんだゾ」
「私も大丈夫」
こうして黒い魔物の確認作業が始まった。




