第三十四話 貴族様の謝罪
「何でもする!! 本当に何でもするから!! 頼むから風を止めてくれ!!」
子爵様と取り巻きが青ざめている。
ケイトさんと仲間達も真っ青だ。
みんなの顔を見回した後、わん太の頭の毛を軽く引っ張ってみた。
ピタッ
「風が止まった? まさか本当に?」
子爵様はガタガタ震えている。
たまたま風が吹いたわけじゃないって事はわかってくれたはず。
何軒も家が壊れている。
「私もわん太も何も知らない。わん太は神様じゃないし、何かが起こっても私もわん太も知らない」
「や……やはり神が!? 神が怒っていらっしゃるのか!? 」
案外信心深い貴族様の様だ。
わん太を虐めたから神の怒りに触れたと思っているらしい。
周りにいる全ての人が青ざめてガタガタ震えている。
「すまなかった!! ケイトとその仲間達も迷惑をかけた。申し訳ない。そして二度と召し上げるなどとは言わないと約束する!!」
「私たちの事を調べないでね。変な噂立てない方がいいよ。何があっても私は知らないから」
「わかった!! 誰にも何も言わぬ!!」
まぁ、犬を叩いたら風が吹いたとか言った所で誰かが信じるわけでもないだろうし。
もうどうでもいいや。
「わん太。畑仕事に戻るよ」
戻ろうとしたその時。
「すまん。農業の大切さは私もわかっている。この街を支えてくれている大切な台所だ。犬の力に目が眩み、私個人で便利に使いたいと私利私欲も入ってしまった。まず街の農家を助けてくれた事を感謝すべきだった」
「わん太が助けなくても、子爵様が助けてあげれば?」
「そうだ。私も私が出来る事をすべきだった。反省する。飼い主殿と犬、ケイトとその仲間達、この後屋敷に顔を出してもらえるか?」
「はい。わかりました」
ケイトさん達は行くらしい。行くしかないのかな。
私とわん太はそれよりも畑仕事が優先だ。
「私達は行かない。畑仕事に戻るよ」
「そ……そうか。すまなかった。もしも何かあったら私の所まで来て欲しい。力になれる事もあるかも知れない」
あまり一緒に居たくなかったし私達は先に畑に戻る。
みんな大丈夫かな? 怒られていたら嫌だな。
誰もいない畑に戻る。
「叩かれたとこ大丈夫? 痛くない?」
「俺は銃で撃たれても平気なんだゾ。棒なんか痛くないんだゾ」
頑丈な犬だ。羨ましい。
畑仕事をしている間に夕方になり、ケイトさん達が戻ってきた。
荷車を曳いている。
「わん太、大丈夫だったかい?」
「大丈夫だよ。わん太は頑丈だし。その荷車は何?」
「子爵様からのプレゼントだよ。お詫びの印だって」
荷車には鋤や鍬、シャベルや大きなハサミ等いろいろな道具が乗っている。
「わん太が耕してくれたけど、私達もまだまだ動ける。たくさん道具を頂いたしこれからも困った時は相談に乗っていただけるそうだ。そしてこれはアヤちゃんへ」
包みを渡された。中にはたくさんの金貨とペンダントが入っている。
「顔のアザの事を罵った事を詫びていたよ。子爵家の紋章が入ったペンダントだ。つけていれば街の中はどこでも自由に歩けるって。街の北側にも行けるらしい。困った時はペンダントを見せるといいらしい」
別に北側に行く用事は無いけど。獣医さんとか学者さんがいるなら北側だろう。
金貨も山ほどあるからいらないなぁ。
「ありがとう。金貨は私もわん太もいらないからみんなで分けて」
「いやいや。そんなわけにはいかないよ」
「そのお金は神様が農業に使うように言ってるよ」
「神様が!?」
ケイトさん達の顔が引きつっている。
先ほどの竜巻を思い出しているのだろう。
「まさか本当に? いや。余計な詮索はしないでおく。仕事に使った方がいいのかな?」
「私がお菓子とかに使うと大変な事になるんだって。ペンダントだけ頂くね」
ペンダントをつけてみる。高いのか安いのかわからないけど変な紋章が入っている。
どこでも行けるのかー
でも貴族と揉めちゃったし、見ていた人から変な噂も広まるだろう。
「私達、もうそんなに長くいられないけどわん太が耕した畑で美味しい野菜作ってね。野菜が出来たら子爵様にご馳走してあげて」
「わかった。頑張って美味しい野菜作るよ」
ここにいるのもあと数日かな。情報は得られそうにないし、長居するとややこしくなりそうだ。
次はどこに向かおう? 畑仕事ばかりしていてもしょうがない。
その後、数日間わん太が畑を耕し続け、とりあえずケイトさんとその仲間達の畑は耕し終わった。みんな大喜びだった。
わん太に畑仕事をさせたい農家はたくさんあったらしいが、子爵様が禁止令を出してくれたらしく、私達に話しかけて来るのはケイトさんとその仲間達に限られていた。
子爵様側もその後は一切関わってこなかった。
「アヤちゃん、わん太。本当に有難う。この土だったら間違いなく美味しい野菜が取れる。子爵様からもたくさん道具を頂いた。全部アヤちゃんとわん太のおかげだ」
「こちらこそ泊めてくれて有難う。大きい野菜が取れたらまた食べに来るね」
「お礼がしたいが今のワシらには何も渡せる物が無い。野菜が出来て売れたらその時は必ずお礼をさせてもらう。いつでもこの街に来てくれ。大歓迎する」
「有難う。またわん太と遊びに来るから。おじいさんのとこに戻るね」
みんなから有難う、有難うと口々に感謝の言葉を述べられた。
私は全く何もしていないのにくすぐったい気持ちだった。
ケイトさん達にお別れを言ってわん太に乗る。
買い物をしながら次の行先を決めよう。




