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第三十三話 風の魔法

 午後になり、わん太と一緒に街広場の北側門前へ向かう。

 ケイトさんと仲間達も一緒に来てくれた。

 わん太から降りて、門前まで歩く。


 広場ではサーカスのテントが立ち、中は大賑わいだ!!

 サーカスが終わるまでには一度くらい見に行けるかな?

 門前に立派な身なりをした人達が大勢いる。


「ほう!! この犬が畑を耕しているのか?」

「私がこの目で見ました。街南方の何も育たないであろう雑草だらけの荒地が見る間にきめ細やかな良質の土に見る間に生まれ変わりました」

 おそらくジャーブル子爵様とわん太を見に来ていた人だろう。


「そうか。その方がケイトだな。飼い主か?」

「いえ、私はその犬に手伝って頂いた畑の持ち主です。飼い主はこの少女です」


「ほう、その少女の犬か。なんだその顔は? 呪われているのか?」 

「生まれつきのアザがあるだけだけど……」


「そうか。まぁどうでもよい。では今をもってその犬をジャーブル家にて召し上げる事にする!! 屋敷に連れてくるように!!」


「え? 召し上げるって何?」

「ア……アヤちゃん!! 召し上げるって言うのはジャーブル子爵にお渡しするって事だよ」

「え? ダメだよ?」


 私の意見は聞かず、従者らしき人がわん太の首輪を引っ張って連れて行こうとする。

 しかしわん太はビクともしない。

「動け!! 動かんか!!」

 人が増え、数名の男の人が動かそうとするが、全く動かない。


「何をしておる? 紐をかけるなり棒で叩くなり動かす方法はあるであろう!!」

 ジャーブル子爵様が無茶を言っている。


「やめた方がいいよ」

 私の言う事は聞かず、紐を持ってきて首に巻き付けて引っ張り出した。

 しかしわん太は一切動かない。


「ええい!! しょうがない。棒を持ってこい!!」

 叩く気なの?

 勝手に取り上げてわん太を叩くとか。何を言っているんだこの人は。

 やはり貴族はまともな人がいないのか?


 ケイトさん達が訴えかけだした。


「お言葉ですが、その犬は本当に農業の神様の遣いかも知れません。手荒な真似はされない方がいいかと思われます」


「神の遣い? デカいだけでただの犬では無いか!! うちで召し上げてこの街の役に立ってもらうのだから喜んでくるべきであろう!! 言う事を聞かない農耕馬に言う事を聞かせるのと同じだ!!」


 ダメだ。話にならない。


 バシッ!!

 本当にわん太を叩きだした!!

 バシッバシッ!!

「動きません!! 娘!! お前が飼い主だな。この犬を動かして屋敷まで連れて来い!!」


 いや。そんな事出来るわけが無いし。貴族って勝手な人しかいないのかな。

「早く命令せんか!!」

 怒鳴りつけられた。すると!!


 ザクッ!!


 わん太が地面をひと搔きした。

 驚く程に地面がえぐれた。

 周りにいた人が全員一気に離れた。


「な……なんだ? この犬は? 私に逆らうつもりか!?」


 人に怪我をさせたら大変だ。ケイトさん達にも迷惑がかかる。

「わん太。暴れちゃダメだよ」


 ボーっとした顔で何かを考えているようだ。


 ビュウウウウウ!!!!

 いきなり風が強くなった!!

 しかも広場より北側。壁の向こうだけ物凄い風が吹き出した。


「な? なんだ? 急に風が強くなったぞ?」


 風はどんどん強くなる。しかも壁の向こうの高級住宅街だけ吹いている。

 広場に立っているサーカスのテントには全く影響が無い。

 しかし騒ぎを聞きつけてサーカスから何人かの人が出てきた。


 こっちを見ている。ピエロだ。ピエロがこっちを見ている。他にもなんだかめちゃごつい筋骨隆々の人もいる。テントを補強しようとしているのかな?

 テントが飛ばないか心配なのかも知れない。


 絶対わん太が何かしている。

 当のわん太はボーっとした顔で明後日の方向を見ている。

 何を考えているんだろう?


「子爵様!! 神の遣いに手を上げたから神の怒りを買ってしまったのかも知れません」

 ケイトさんと仲間達が口々に訴えている。


「神の遣い? 神の怒り? たまたま風が吹いた程度で私がビビるとでも思うのか? その犬を早く……」


 ビュオオオオオオオ!!!

 ついに小さな竜巻が発生した。

 街の北側を少しずつ破壊し出した。

 数軒の家の屋根が吹き飛んでいる。


「ち……ちょっと待ってくれ!! 本当にその犬は神の遣いなのか? お前は飼い主だろう!! 止めろ!! 止めるんだ!!」


 自分勝手な事しか考えられない人だ。

 貴族ってこんなのしかいないの?


「知らない」


 ビュオオオオオオオ!!!

 風は更に強くなっていく。

 見る間に竜巻が大きくなっていく。


 あーあ。もうダメだ……

 面倒だし、わん太に乗って逃げようかな……


「子爵様、向こうの住宅街だけが壊れていっております。このままでは街が本当に廃墟になりかねません!!」

「おい!! 飼い主!! 早く止めんか!!」


「知らない」


 みんな怖がってわん太から離れた。

 わん太の周りには誰もいない

 私はわん太の上に乗る。


 ビュオオオオオオオオ!!! バキバキバキッ!!!

 なんか向こうで色んな物が壊れていく……

 どうしようかな。


「わん太。帰るよ」


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


「ちょっと待ってくれ!! いや、待って下さい!! 私が悪かった!! 何でもするから風を止めてくれ!! 本当に廃墟になってしまう!!」


「知らない」


 バキバキッ!! ゴオオオオオオ!!

 いろいろな物が壊れていく。明らかに壁の向こう側だけ。

 子爵様と関係ない人は大迷惑だろう。


「何でもする!! 本当に何でもするから!! 頼むから風を止めてくれ!!」



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