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第三十二話 貴族様からの呼び出し

 朝早く……では無く、まだ外は暗い。

 何故かわん太が起き出した。


「どうしたの?まだ暗いよ?」

「今日は頑張るんだゾ!! エサを食ってから準備してくるんだゾ!!」

 納屋の扉を開けてどこかに行ってしまった。

 何やら気合が入っている。

 農家の朝は早いのでケイトさんも起きているかも知れない。

 家にお邪魔すると、朝ご飯の用意をしてくれていたので一緒に頂く。


「出来れば、ワシの仲間の畑もわん太にお願いしたい。ワシらがどれだけ耕した所でいい土にはならない。厚かましいのは百も承知だが、アヤちゃんとわん太がいる間に助けてもらいたい」

「わかった。わん太に頑張ってもらうね。今日はとりあえずケイトさんの使う畑を耕してもらうよ」

「ただ、あんまり騒ぎになると、裕福な農家や貴族にわん太とアヤちゃんを連れて行かれそうで心配だ」

「大丈夫。わん太は私の言う事しか聞かないの」


 話している間にどこかで朝食を終えたわん太が戻ってきた。

 なにやら気合が入っている様だ。

「俺がここの野菜をナンテン村に負けない大きさの野菜にしてみせるんだゾ!!」

 昨日見た畑の野菜が小さかったのが気に入らないらしい。


「じゃあ行こう!! わん太頑張ってね!!」


 ザクザクザクザク!!!! バリバリバリバリ!!!!

 荒れ放題の畑。雑草だらけで土も硬いようだが、どんどん耕し続ける。

 ケイトさんが仲間を集めてみんなでわん太を見ている。


 ケイトさんや、ケイトさんの仲間が見守る中、ひたすら耕し続ける。

 朝から気合入っていたし、やっぱり農業が好きなのかも知れない。


「細かくて空気を含み、保水性が高いのに水はけもいい。これほどいい土は街のどこにも無い。深さも十分すぎる程に耕してくれている。雑草も全部根から細切れにされている」

「アヤちゃん、ワシらの畑も頼んでいいのか? お礼は少ししか出来ないけど、野菜が売れたら必ずお返しさせてもらうから!!」


「大丈夫だよ。わん太は体力あるし、何日かかかるとは思うけど、やってくれるよ。大きい野菜が取れるし味も美味しいよ!!」


「こりゃあ次の収穫が楽しみだ。俺達も気合入れて畑仕事しなきゃな!!」 

 ケイトさんも仲間達も嬉しそうだ。


「ワシらは助かるが、アヤちゃん達は何日もここにいていいのかい?」

「おじいさんには言ってあるから大丈夫。心配しないでいいよ」


 話している間にも、わん太はどんどん畑を掘り返して耕していく。

「ねぇ。今作ってる野菜が無駄になっちゃうけど、私達ずっとここにいるわけじゃないし。わん太に全部耕しなおして貰った方が後々大きい野菜獲れるよ」


「そうだな。もう全部耕しなおしてもらっていいか?わん太は本当に農業の神様の遣いかも知れない。もしかしてアヤちゃんが女神なのか?」

「私は女神じゃないけど。ナンテン村でもわん太は農業の神様って言われてたよ」


「本当に神様じゃないのか?あんな大きい犬は見た事も無いし、こんなにいい土を作り出せる方法などわん太にお願いする以外考えられん。どれだけ肥料を撒こうが耕そうが、不可能だ」


 みんなでわん太を拝みだした……

 本当に神様扱いされている。

「変なことしてないで、全部の畑を耕しなおすのなら今出来ている野菜収穫しといたら? わん太は収穫は出来ないよ」


 そうだそうだ。と言って今出来ている野菜を収穫しに行ってしまった。


 お昼になり、みんなでご飯。

 収穫してきた野菜を私に食べさせてくれる。

 わん太にも貴重であろうお肉を焼いてくれる。


「わん太様どうぞ。お肉です」

 わん太ががっついている。美味しそうだ。


 ご飯あげなくても森とか山で勝手になんか食べて来るから大丈夫と説明したけど、農業の神様にお供えだと言う。もうふざけているのか本気なのかわからない。


 私が思うよりはるかに必死なのかも知れない。


 こんな感じで三日間、わん太はケイトさんと仲間達の畑を耕し続けた。

 私とわん太が長く泊っている事にも何も言われなかった。

 下手なことを言って帰られるより、畑が優先なのだろう。


 わん太が目立つので、見学者が増えた。

 そして四日目に貴族からの使者が来た。


「ケイトさんですね。ジャーブル子爵より伝言です。本日午後、畑仕事をする巨大な犬を街広場まで連れてくるようにとの事です」


「ジャーブル子爵って誰?」

「アヤちゃん、この街を治めている子爵様だ。わん太の事が耳に入ったんだろう。子爵様からの命令ならば行かざるを得ない」


 子爵様…… 貴族様か。私を買う予定だった人では無いと思うけど。

 貴族様に良い印象が無い。大丈夫なのかな。


 少し嫌な予感もするけど、貴族様を通じて学者様や獣医と仲良くなれたら、わん太の身体を治す方法を教えて貰えるかも知れない。

 ここでケイトさん達と農作業をし続けるのが目的では無いので行くしかない。


「わかった。連れて行けばいいのね?」

「広場北側の門の前まで連れてきて頂くようお願いします」


 伝言を終えた使者が帰った後、ケイトさんに相談する。


「貴族様の言う事だったらしょうがないけど、何の用だろ?」

「おそらくわん太に作業させたいとか、もしくはわん太が欲しいとかかも知れない。この土を見れば誰だって欲しくなるはず。わん太が欲しいって言われたらどうする?」


「絶対にあげるわけにはいかないよ。私の犬じゃないし。おじいさんだって絶対ダメって言うよ」

「そうなのか。ジャーブル子爵の目的はたぶんわん太を手に入れたいんだとは思うが。子爵と話す時はアヤちゃんも言葉遣いには気を付けて。なるべく機嫌を損ねんように頼むよ。逆らったり逃げたりしたら、犯罪者扱いされてしまうかも知れない」


「わかった。丁寧に話すね。そしていざとなったらわん太と逃げるから大丈夫!!」



 午後になり、わん太と一緒に街広場の北側門前へ向かう。



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