第二十六話 旅に出るんだゾ
「ねぇ。村を出て、魔物を退治する方法を探しに行かない?」
黙り込むわん太。長年住んだ村を出たくない気持ちと、迷惑をかけてしまう可能性を天秤にかけているのだろう。
「別に一生戻らないってわけじゃないよ。魔物を退治できたり、出てこられなくする方法がわかればここに戻るから。だけど、その方法は探す必要がある。私たちがここで考えても、村の人に聞いてもわからないと思う」
「そんな方法があればいいけど。無かったらどうしようもないんだゾ」
「あるか無いかはわからない、あるとしても私達が探し当てられるかわからない。でも探さなかったら絶対に見つからないと思う」
出来れば私もここで暮らしたい。この村から出たくはない。
私自身、顔のアザのせいで人と関わるのは得意ではないし、私が来たら嫌がる人も多いだろう。
他の場所へ行った時、私一人だったら。
孤児の子供が一人。お金があるのに買い物すらまともにさせてもらえなかった。
宿にも泊まれないだろう。そもそも体力が無いので、歩いて他の場所に行く事も出来ない。
すぐにどうにもならなくなるのは目に見えている。
だけど、わん太と一緒なら、これからもなんとかなるはず。
なんともならなかったらわん太に乗って逃げちゃえばいい。
帰る場所も出来た。ナンテン村のおじいさんとおばあさんの家。
わん太のおかげで貴族様に売られずに済んだ。
他の村でもわん太がいなければどんな目にあっていたかわからない。
既に殺されていたと思う。
わん太には感謝している。
魔物を消すなら私が生きている間に方法を探し当てるしかない。
「影と果物を食べて体内に魔物が住み着いたのなら、治す果物や薬もあるかも知れない。世の中にはお医者さんとか魔法に詳しい人とか魔物に詳しい人とかいるかも知れない。そして魔物が消えてからナンテン村に一緒に戻ろう」
「ちょっと考えるんだゾ」
「うん。今日は寝よう。おやすみ」
「おやすみだゾ」
わん太の背中に乗り、朝まで眠りにつく。
翌朝、わん太が先に起きていた。
先に起きたのか、もしかすると一睡もせずに考えていたのかも知れない。
「おはよう」
「おはようだゾ」
いつものわん太だ。
考えた結果を聞いた方がいいのかわからない。
旅に出るか出ないか。もしかすると他の選択肢を考えているかも知れない。
別に数日悩んだっていいんだし、すぐには聞かない事にする。
朝ご飯を持って二人が納屋に来てくれた。
「わん太、アヤ、大丈夫か?」
「大丈夫だゾ。悪かったんだゾ」
「私も大丈夫。ごめんね」
「アヤもわん太も謝る事など何も無い。お前達が何かしたわけでは無いんじゃから」
みんなでご飯を食べた後、おじいさんと一緒に血まみれのわん太を洗いに川に行く。
村の人は朝から畑仕事をしている。お年寄りばかりだ。
川に着くと、わん太は川でジャブジャブと泳いでいる。
おじいさんに気になっていた事を質問してみる。
「おじいさん、何故この村は若い人がいないの?」
小さい子供もいないし、私の親ぐらいであろう年代の人もいない。
若い人でも50代とかだと思う。
「ナンテン村は国境近くの小さな村じゃ。仕事は畑仕事しかない。昔は野盗や魔物も出てきたし、土地も痩せていて作物の育ちも悪かった。あまりいい環境ではなかったんじゃ」
ポツポツとおじいさんが話し出す。
「アヤが生まれる数年前、この国、王国ロビンの先代の王が亡くなり、息子である今の王と先代の王の嫁、レイン王妃が政治の中心となったんじゃ。そしてその頃から、領土拡大の為の戦争を始めると言う噂が立ち始めたんじゃ。国境にあるこの村は戦争が始まれば最前線となる。戦争が始まった時点で被害は免れん」
「戦争!?」
「戦争じゃ。村の近くに拠点を置かれ、兵舎が出来た。そして隣国からも近くまで兵が派兵されておったらしい。ワシら年寄りは、戦いの巻き添えを避ける為に大半の若者を村から追いだした。渋る物もおったがここに居ても何一ついい事が無い。老い先短いワシらは、逆に新たな場所で、新しい生活を始めるのが難しいが、若者は別じゃ。戦争が始まる前に若者を追い出した直後にわん太がこの村に来たんじゃ」
若い人が戦争の巻き添えにならないように村から追い出した。
おじいさん達は出ていく力が無かったから残ったんだ。
わん太が来た時の話って言う事は10年前くらいの話か。
「それで戦争は起こったの?」
「起こらんかった。後で聞いたところ、戦争を推し進めていたのは国王では無く、王妃じゃった。王妃が苛烈な性格であちこちで領土拡大の為の戦争を起こそうとしておったが、ナンテン村自体も痩せた土地で産業も何も無いが、隣国に攻め入った所でもっと何も無いという事がわかってやめたらしい。」
戦争が起こっていたら……どうなっていたかはわからないけど。
まぁ起こらなくて良かったのかな。
「隣の国も痩せた土地だったの?」
「ワシらも行ったわけじゃないが、噂では呪われた森が広がっていて人間が住める部分が、呪われた森と森の間に点在するような地形で、ここから近場だけを奪った所でメリットが無いのと、あと単純に戦略的に攻めにくいと言う事らしい。逃げ道の無い細い道を行けば単純に狙い撃ちにされっぱなしになるからじゃ」
お隣さんもこんな変な所に攻めて来るなって思っていたかも知れないな。
そもそも領土奪っても呪われた森とかだと意味がないのだろう。
呪われた森って何なんだろう??
今聞いても話が脱線しすぎるので、いつか自分で調べてみよう。
「戦争起こらなかったんだし。若い人戻って来てもらわないの?」
「戦争はなんとか回避されたが、しばらくは兵士がうろついておったし、今はわん太のおかげでいなくなったが、昔は魔物や野盗がまだおったんじゃ。魔物に襲われたり、野盗に若い娘が攫われたり物や金を盗られたり、場合によっては殺されたり。酷い環境じゃった」
「戻ってきても、あんまりいい生活出来なかったんだ」
「どうせここにいても畑仕事しか無い。それなら大きな町へ行った方が未来がある。そう思ったんじゃ。若者が消えて畑もどんどん減り、寂れていく一方だったんじゃが。わん太が人の言葉を話すようになって、仕事を手伝ってくれるようになったんじゃ」
「わん太が若い人の代わりに畑仕事してくれたんだね」
「代わりどころか。見ればわかるがわん太一匹でこの村全部の仕事をこなす勢いで働いてくれる。わん太が耕した取れる作物は全て巨大じゃ。食うとみんな健康になった。しばらくすると、やっかいな魔物は全て退治し、野盗も全員……」
「おじいさん!!」
ん? 野盗も……?
「野盗も全員……追い払ってこの村に近づけないようにしてくれた。みんなが過ごしやすい村をわん太が作ってくれたんじゃ」
若者は戦争に巻き込まれないように王都や大きな街に出て行ったから村の人口が減ってしまった。
だけど寂れそうになった村をわん太が復興させてくれたんだ。
「わん太が魔物や野盗を追い払ってくれるとわかっていたら、若者を追い出したりはせんかったんじゃが、もうしょうがない。村の若者たちはみんな大きな街で幸せに生きていると信じておる」
若い人は、どこかの街にいるんだ。
今の住みやすい村を見ればもしかしたら戻ってきたい人もいるかも。
「洗ってきたんだゾ。ピカピカだゾ」
わん太が川から出てきた。血まみれだった身体は綺麗になっている。別にピカピカ光ってはいない。
「とりあえず納屋に戻ろう。相談したい事があるの」
川から家に戻るとおばあさんが納屋にお茶とお菓子を持ってきてくれる。
そして、唐突にわん太が話し始めた。
「旅に出るんだゾ」




