第二十五話 ダメだった。
わん太が出て行ったその夜、私は久しぶりに家で、布団を敷いて寝ることにした。
布団に入って、わん太の事を考える。大丈夫なのかな?
もう魔物が出なくなってたらいいけど。
「わん太一人で大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。アヤが来る前は牛舎で寝ていたし、森でもどこでも勝手に遊びに行っていましたよ」
「ワシは見ておらんが、その黒い魔物以外は大丈夫なはずじゃ。山の中をウロウロして獣と間違えられて撃たれたことがあるらしいが、わん太には銃も効かん。銃で撃たれたのに怪我もせんかった。めちゃくちゃ強い。動物でも魔物でもわん太を殺せる物はおらんはずじゃ」
わん太はこっちでも銃で撃たれた事あるんだ。
私と一緒にいる間だけでも何度か撃たれたり銃を向けられたりしてたなぁ。
フーゴさんの時も私がいなかったらたぶん撃たれていたかも。
そうだ。寝る前に言っておかないと。
「おじいさん、おばあさん。もし私が寝ている時、風の音が強くなった気がしたら、私を起こして欲しいの。ただの風かわん太の風かはわかんなくてもいいから」
「ふむ。風の魔法の事じゃな。わかった。ワシらが気づいたらすぐにアヤを起こす。ゆっくり眠るんじゃ」
「ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみ」
そうは言っても寝付けない。風の音がしないか耳を澄ませる。
わん太と一緒にいる時は常に風が吹いていた。
わん太の魔法が今は効いていない。私の回りに風が吹いていない。
こんなところへ襲いに来る人もいないだろうし、何かがあるとも思えないが、わん太が風で守ってくれていたのが当たり前になっていたのでなんとなく不安になる。
今は静かな夜だ。そのまま時間が経っていく。
ヒューーーーーー
ん? なんだか風の音がするような気がするけど。
もうわん太と離れて数時間かな。
ビューーーーーー
明らかに風の音が強くなってきた。
「アヤ。起きているか? 風が強くなっている気がする」
「起きてる。外に出てみるね」
おじいさん達と一緒に外に出てみると、少し遠くで風を切り裂くような音がする。
ビュオオオオオオ!!
こんなに風が吹く事は無いはず。
絶対わん太が近くに来ている。
家の前でランプを持ち、三人でわん太が出てくるのを待っている。
物凄い風と共にわん太が現れた。身体に巻き付いている真っ黒な魔物と戦いながらこっちに走ってくる!!
「な……なんじゃあれは? あれをアヤがなんとか出来るのか?」
「大丈夫。見ていて」
二人から離れ、わん太が来るのを待つ。
これで三度目だ。だけど今回は死ぬつもりじゃない。わん太を助けられるはず。
「わん太!!」
大きな声でわん太を呼ぶ。わん太は既に血まみれだ。
私に向かって一直線に走ってきた。
目を閉じて、両手を大きく広げる。
「アヤ!! アヤ!! 逃げるんじゃ!!」
おじいさんの声が聞こえる。
微かに指先に何かが触れた。
ボシュッ!!
目を開けると血まみれのわん太が倒れていた。黒い魔物は消えている。
ハァハァと舌を出して息をしている。苦しそうだ。
背中の毛皮がえぐられていて肉が見える。
おじいさんはこっちを見ている。おばあさんは手で顔を覆っている。
また黒い魔物が出てきた。間違いない。おじいさんもおばあさんも見ている。私がいる時は出てこないのに、わん太一人になると出てきてしまう。
そして、私が触れると魔物は消える。これも確定だ。
私には何かの力があるのかも知れない。
倒れたままのわん太に話しかける。
「やっぱりダメだったね」
ハァハァと息をするわん太。
「ダメだったんだゾ。でも、ありがとう。助かったんだゾ」
真っ白な身体が血まみれだ。
ハァハァと苦しそうなので納屋に入れる。
朝になったら川に行って血を洗おう。
「ワシも見た。黒い魔物を。そして魔物はアヤが触れた瞬間に間違いなく消えた」
「わん太。大丈夫かい?すぐに薬を持ってくるからね」
オロオロしながらおばあさんが薬を探しに行く。
「バーちゃん。大丈夫なんだゾ。もう治ったゾ」
あれだけえぐれていた背中の傷が既に塞がっている。
治癒能力?再生能力って言うのだろうか、怪我はすぐに治ってしまう。
「今日は私もここで寝るね。私がいれば大丈夫だから」
魔物が出なくなる方法は今の所一緒にいるしかない。
渋るおじいさんとおばあさんに無理やり家に戻ってもらう。
おじいさん達が出ていった後、わん太がぼそりと喋った。
「アヤ。どうしたらいいかわかんないんだゾ」
当然私にもわかるわけがない。
どうすればいいかはわからないけど、おじいさんの言う通り私が死ぬ前に何とかしなければいけない。
ここで生活して、私は幸せかも知れないけど。私が死んでしまったらその後わん太は……
「ねぇ。わん太はここにずっと居たい?」
「もちろん居たいゾ」
「だけど、ここであの魔物が出てきたら、みんなに迷惑がかかると思うの。村の人も怖がる。あの黒いのは魔物としか思えない。わん太から離れて村の人を襲わないとも限らない」
「村のみんなに迷惑はかけたくないんだゾ」
わん太は野良犬とは言え、この村に住み、ご飯を貰い、働いている。
この村を大切に思っている。
自分の事で迷惑をかけたくないのはわかる。
「ねぇ。村を出て、魔物を退治する方法を探しに行かない?」




