第二十三話 狩り
村へ来て、数週間。
ナンテン村での生活にも段々慣れてきた。
毎日村の中を散歩して、わん太の畑仕事を見ながら私も出来る事をお手伝いする。
村の人で私の顔を見て嫌そうな顔をする人は一人もいなかった。
優しく親切な村の人達。美味しいご飯。
孤児院にいた時、こんな生活が出来るなんて夢にも思わなかった。
村の人とわん太に感謝する。
わん太が吐き出した石の亀の事を、村の人に聞きまわったが誰も知らないと言う事だった。
そもそも本当に生き物だったのかもわからないし、亀の形をした石をわん太が飲み込んだだけじゃないかとも思う。
ただ、私が一つだけ気づいたことがある。石を吐き出してから、わん太が水を飲まなくなった。
前は朝起きると尋常じゃ無い程の水を飲み続けていたけど、今は身体も大きいからその位は飲むだろうと言う通常の量になっている。石と関係があるのかわからない。
そして、わん太が自分で言うには石を吐き出してから、体内の魔力がアップしている気がするらしい。
体内に石があったから体調が悪かっただけだろうと思うけど、魔力がアップ?
そもそも私はもちろん魔法なんて使えない。魔力は一切無いと思うので魔力がどうとか言われてもわからない。ただわん太の調子が良くなった事は良い事な気がする。
朝からわん太がご機嫌でウキウキしている。
「今日は獲物を取りに行くんだゾ!!」
「お肉なら村の人達が美味しい牛も馬も鶏も毎日食べさせてくれるじゃない?」
「俺は犬だから狩りがしたいんだゾ!! 自分で狩った生き物を食べるんだゾ!!」
狩りがしたい?オオカミの血でも混ざっているのかしら?
お肉毎日食べているのに。
朝ご飯を食べた後、わん太がおじいさんに話しかける。
「ジーちゃん。晩飯の肉を俺が取ってくるんだゾ!!」
「おお。材料を取ってきてくれるのか。アヤも行くのか?」
「アヤがいないと黒い魔物が出てきた時、俺が大変な事になるんだゾ!!」
「まぁお前がいれば何かあっても大丈夫な気はするが、アヤは女の子だから、絶対に怪我とかさせんようにな。」
「わかった。大丈夫だゾ」
「アヤもわん太もお昼ご飯はどうするの?森へ行くならおにぎり位なら作るよ?」
「じゃあお願い。マジックバッグに入れて持っていくね」
おばあさんが巨大なおにぎりをたくさん作ってくれた。
「たくさん作ったけど。余ったらわん太がいくらでも食べるから大丈夫」
わん太の分もある。竹の筒で出来た水筒とおにぎりをマジックバッグに山盛り入れて、久しぶりにわん太とお出かけだ。
「わん太。気を付けていくんじゃぞ。アヤも怪我をせんようにな」
わん太の背中に乗って一緒に村を出る。
ずっと風が吹き続けている。風を頼りに獲物を探しているのかな?
森の中をウロウロするが何もいない。
「村の近くの森って動物とか魔物とかいるの?」
「村の近くには滅多にいないゾ。元々は色々いたんだけど、俺が全部狩りつくして村に持って帰ってみんなで食いつくしたんだゾ!!」
うん。わん太ならやりそうだ。
「森の中の獲物全部狩っちゃったの?」
「そんなわけないゾ。村の中に変なのが入ってくると畑を荒らされたり、魔物だったら村の人を襲うのから村の近くだけマーキングして俺の縄張りにしたんだゾ」
村の近くだけ縄張りにしたから何も近寄れないんだ。
村から離れたら魔物いるのかな。変な動物や魔物いたら嫌だな。
森の中は、人間が作った道があるわけではなく、木々の隙間を通ったり獣の歩いた跡を進むしかない。ゆっくり進むのね。と思って油断していたら、わん太がいきなり木の上に飛び上がった!!
「上から行くんだゾ!!」
「ちょっと!! それは飛ぶ前に言いなさいよ!!」
わん太が走っても飛んでも、どう動いても、私の身体がフラフラしたり落ちそうになったりはしない。一応首輪とか近くの毛をつかんではいるけど、放したからと言って落ちる事は無い。
常に重心はわん太の背中に吸い付いているように固定されているけど。急に飛んだりすると、単純にビックリする。
木の枝や岩や壁やいろんな所を足場に飛ぶように掛けていく。
村から結構離れた所まで来る。
「うーん。小さい獲物しかいないんだゾ」
「何がいるの?小さいのでもいいんじゃない?」
「野ウサギとかネズミとか小さい鳥だゾ」
ウサギはいいけどネズミは嫌だな。小さい鳥は食べる所がなさそうだな。
「もうちょっと向こうに行くゾ。洞窟に何かいるかも知れないんだゾ」
ど……洞窟!? もしかしてまた蝙蝠いるんじゃないの?
「蝙蝠いないよね?」
「大丈夫だゾ!! 洞窟の蝙蝠は俺が全部やっつけたんだゾ!!」
「前はいたって事じゃないの!!」
「前はいたけど、ずっと昔に全滅させたからもういないんだゾ」
「でも嫌よ!! 洞窟には行かないで!!」
「うーん。洞窟をねぐらにする動物が結構いるんだけど。しょうがないんだゾ」
蝙蝠がいたら気持ち悪いので洞窟はやめてもらう。またいるかも知れないし。
いたらいたでわん太は捕まえるだろうし、食べるかも知れない。
その後もウロウロするが、大きな獲物はすぐには見つからない様だ。
お土産にするのでウサギや鳥じゃなく、大きいのが欲しいらしい。
なかなか捕まえられないので気分転換。
「わん太、おにぎり食べない?」
「食べるんだゾ!!」
わん太から降りて、木陰で一緒におにぎりを食べる。
何度見ても巨大な米粒だ。小豆ぐらいある。
私とわん太、五個ずつだ。
大きいおにぎり五個が私ので、メロンくらいの超巨大おにぎり五個がわん太のだ。
私のおにぎりでも大きすぎる。昔の私なら一個だって食べきれないが、体の調子が良くなっている今の私だったら、二個くらいは食べられそう。
わん太は超巨大おにぎりにがっついている。
「美味いんだゾ!! 中にシャケが入っているんだゾ!!」
私のおにぎりにもシャケが入っている。
わん太は犬なのに魚の種類まで理解している。
勉強も教えたらもっと賢くなるのかな?
ガツガツ!! バクバクッ!!
気持ちのいい食べっぷり。
私も頑張って二個食べた。満腹だ。残りはわん太にあげる。
「美味しかったね。ごちそうさま」
「ごちそうさまだゾ!! 頑張って晩御飯もつかまえるんだゾ!!」
満腹になったわん太が風を大きくした。
周囲を探っているらしい。
「いたんだゾ。ここで待ってるんだゾ」
えー。何がいたんだろ?わん太が一人でどこかへ行ってしまった。
私の周りに風が吹いているから、何か来たらわかるんだろうし。戻ってくると思うけど。
多少心細い。
しばらくすると、わん太が何かでっかい獲物を咥えて持って帰ってきた。
「わん太、それなんなの?」
「タヌキだゾ。こんなでっかいのはなかなかいないんだゾ!! 急いで帰るんだゾ!!」




