第二十話 状況説明
「アヤちゃんはお風呂にお入り。わん太のご飯はこれだよ」
私はお風呂、わん太は白いご飯と焼いた鶏肉とお味噌汁。巨大な白菜とか人参をそのまま……!?
確かにわん太、犬は雑食って言っていたけど。野菜を丸かじりするんだ。バリバリと美味しそうに齧っている。
大きすぎて家には入れないので外で食べている。
私はお風呂を頂き、その後ご飯を食べる。服は村にいたみんなのお下がりがいくらでもあるらしい。
有難く頂いた。
ちなみに白いご飯もご飯粒が大きい。
わん太のおかげで野菜の発育がいいのかしら?
ご飯も野菜もお肉も凄く美味しい!!
あの巨大な野菜。切ってお味噌汁に入れただけでこんなに美味しいの!?
そもそも白いご飯ってこんなに美味しかったっけ?
本当にわん太が畑を耕しただけでこんなに美味しいご飯になるの?
食事をしながら、おじいさん達に色々聞かれるが、何からどう答えていいのかわからない。本当の事を言えば孤児院に戻されるかも。貴族様の所に売られるかも。
「あの。怒らないで聞いて欲しいんだけど。わん太が……」
もうそれ以上言葉が出ない。
わん太が喋る犬だった。殺されるところだった私を助けてくれた。
わん太の身体は不思議で大怪我しても治ってしまう。
私は孤児院で育った。私を引き取ってくれる人は現れなかった。
人を売り買いする村に連れていかれた。
貴族様に売られて殺される所をわん太が助けてくれた。
わん太と一緒に途中で入った村だって私を攫って売ろうとした。
そして、わん太自身から黒い魔物が出てきて私が触れると消える。
説明しようにもどこから何を言えばいいの?
どこからどう説明したらいいのかわからない。言っていい事と言ってはダメな事がわからない。嘘をついた方がいいんだろうけど、何をどう嘘をつけばいいのか。
「そうか。わん太の事か。疲れているだろうし、とりあえずおやすみ。話は明日聞くからね」
「あの……わん太と一緒に寝てもいい?理由は明日ちゃんと説明するから」
「うーん。別にダメじゃないけど。わん太は大きすぎて家に入らないし、たぶん牛舎で牛と一緒に寝ると思うけどいいのかな?」
私から離れている時に身体から黒い魔物が出てきたら。
間違いなくわん太は私の所に来るだろうけど、その時に家を壊しちゃったりするかも知れない。
おじいさんおばあさんに怪我をさせるかも知れない。
今の所、私が上に乗っている間は黒い魔物は出てこない。
たぶん私が乗っていた方が出てくる可能性は減ると思う。
牛舎に連れて行ってもらい、わん太の上に乗る。
牛もわん太を見慣れているのか普通に寝ている。
「大丈夫かい?この辺は野盗も魔物も出ないけど、何かあったら家に帰ってくるんだよ。わん太!! アヤちゃんが困っていたら助けてあげるんだよ!!」
「大丈夫だゾ!!」
「こらっ!! わん太!! アヤちゃんおやすみ」
おじいさんとおばあさんは家に帰って行った。
……今、わん太は喋った。おばあさんは怒った。
おばあさんもわん太が喋る犬だって事を知っているんだ。
たぶん、私とわん太が話しをしていた事も感づいているはず。
「わん太。どうしたらいいのかわからない。なんて説明すればいいの?」
「全部言っちゃえばいいんだゾ。俺も黒い魔物も怪我が治る事も説明するつもりだゾ」
「喋って大丈夫なの? おじいさん達怒らないかな? 私の事育ててくれるかな?」
「大丈夫だゾ。ナンテン村のみんなは優しいんだゾ」
大丈夫だといいけど。わん太の上で考え事をしていて、いつの間にか寝ていた。
翌日。朝起きて、おじいさんの家に行き、朝ご飯を食べた後、おじいさんとおばあさんに思い切って打ち明けて見る。
「あの。お話いい?」
「いいよ。わん太の所に行こう。その方が話がしやすいと思う」
おじいさんとおばあさんと、わん太と私。
わん太は家の前で待っていた。みんなで村外れの原っぱに移動した。
「アヤちゃん。わん太が喋る犬だって事は知っているんだよね?」
コクリと頷く。
「わかった。わん太。何があった?説明してくれるかい?」
「いいんだゾ。俺の話から行くんだゾ。こないだ森でエサを探してウロウロしていたら超巨大な茶色い蛇が……」
わん太が普通に話をし出した。
巨大な茶色い蛇を追いかけて呪いの森に入り、蛇を倒して食べていると蛇から黒い影が出てきて、影と一緒に果物を食べた事。
その後、わん太の身体から黒い魔物が出るようになってわん太が噛まれる事、噛まれても自分の怪我が勝手に治るようになった事。
アヤが触れると黒い魔物が煙のように消滅する事。
アヤがいないと黒い魔物が出てきた時、対処出来ない事。
魔物はいつ出てくるかわからない事。アヤが一緒だと今のところは出てこない事。
「こんな感じだゾ。アヤがいないと俺は大変なんだゾ。村でアヤを育てて欲しいんだゾ」
「呪われた森に入ってしまったのか? やっぱりお前は強い犬じゃな。蛇と一緒に何を食うたんじゃ? 影と果物? こんな小さな女の子に魔物を消し去る力があるのかい? じゃあ次はアヤちゃんの話もお願いしていいかな?」
「おじいさんも私も。わん太が人の言葉を喋る事を知っているよ。アヤちゃんが知らない事もたくさん知っているからね。ちょっとやそっとじゃ驚かないから大丈夫!!」
大丈夫なのかな? 喋る事以外も、わん太の風の魔法とか、木の枝や水の上を走る事も知っているのかな?
下手に嘘をついたり隠し事をすると、逆に迷惑がかかるかも知れない。
もう全部喋ろう。
私は本物の親を見た事も無く、孤児院で育った事。
顔の呪いのアザで里親になってくれる人も仕事も受け入れ先が無かった事。
人を売り買いする村に連れて行かれ、貴族様に売られる所だった事。
貴族様に売られていればおそらく死んでいた事。わん太が助けてくれた事。
最初に立ち寄った村で、盗んだと疑われて大金貨は使えなかった事、誘拐されそうになってわん太が体当たりで木をへし折った事。
魔蝙蝠の村でも危ない目に合った事。子供だけじゃお金があっても何もできない。
猟師の方たちに出会った事。お金や食料、鹿の角を貰った事。
ペラペラのカバンはマジックバッグ、大金が入っている。わん太と会った村で、わん太がどこからか持ってきた事。
足にはまっているブレスレットを説明し、バッグの中の物を出して見せる。
そして、行く場所がない事。自分を育てて欲しいとお願いした。
「そうか。貴族様まで絡んでいるのかい。ここは国と国の境の際にある辺鄙な村。こんな所までアヤちゃんを探しにきたりはしないと思うよ」
「わん太、呪われた森になんて入るから変な魔物に取りつかれてしまったんじゃぞ。もう入っちゃダメじゃ。そしてお前も助けてもらったのなら、これからはお前がアヤちゃんを守るんじゃぞ」
「大丈夫だゾ。俺がアヤをちゃんと守るんだゾ」
「マジックバッグの事は、村の人間にも秘密じゃ。この村に盗んだりする物はいないけど、他所の人間に話が伝わると誰がくるかわからないし、バッグの持ち主が感づいて取り返しに来るかも知れんからな」
「わかった。そうする。この村の人はわん太が喋る犬ってみんな知ってるの?」
「全員知っているよ。だけど知らないふりしている。普通の犬として接している。実際はたまに喋っているけどね」
「木の上に飛び上がって枝を足場にしたり、水の上を走ったり、風の魔法の事は?」
「それもみんな知ってるよ。だけど知らないふりしているよ。わん太はただの犬だから。魔物と思われちゃ可哀そうだからね」
「こんな犬は地球上どこを探してもおらんがな。ハハハハハ」
喋ったり風を吹かせたり、不思議なわん太の力の事はみんな知っていた。でも知らない振りしてくれているんだ。
魔物なのか動物なのかわからないけど、実際は魔物だと思われたら退治されてしまうかも知れない。
「この村で生活するならワシらの家に住むといい。もうアヤはワシらの孫じゃ!! 可愛い孫が出来た!! アヤと一緒に生活出来るのが楽しみじゃ!!」
「おじいさん、おばあさん。ありがとう」
私も育ててもらえそうだ。私の顔を見ても一切何も言わない。
優しいおじいさんとおばあさんで良かった。




