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第二話 犬?

 これからどうなるんだろう………


 不意にガチャリと鍵が開いた。


「おいガキ!!化け物が来た!!外に出ろ!!」

 有無を言わさず靴と一緒に外に放り出されて、ガチャリと家の鍵をかけられた。

 ドアをドンドンと叩くと、

「早く逃げろ!! 家から離れろ!! 戻ってくるなよ!! 近くに魔物が来たんだ!!」


 化け物なのか魔物なのか。何かが近くをうろついているようだ。

 ヒュンヒュンと風の音がする。魔物の音なの?


 熊くらいの大きさだとか言っていたので、鍵を閉めても、家の壁くらいは壊して入ってくるのかも知れない。

 人を食べる魔物なのかな。私は餌として放り出されたんだ。

 もうこの家には入れてもらえないだろう。


 急いで靴を履き、他の家に逃げ込もうかと思ったが、ふと見ると村の外へ続く道がある。森の中に道がある。どこかに続いているはずだ。


 魔物は隠れているのか森の中にいるのか。今はどこにも見えない。風の音はどんどん強くなる。


 このまま上手く逃げられれば、もしかすると他の村や街、元いた孤児院、どこかに逃げられるのかも知れない。


 このままでは死ぬ。もしも逃げられるのなら。逃げたいに決まっている。

 この村から抜け出せる道を歩いていけばどこかに逃げられる?


 逃げよう!!


 助かりたい一心で必死に走るが、所詮は子供の身体、すぐに体力が切れてへとへとになってしまう。歩くような速度でしか進めない。


 もうなにも考えられない。魔物がこっちに来たら私は殺されてしまうだろう。

 もしも魔物が来なくてもここまで馬車で揺られてきた距離を考えると、自分が歩いていけるとは思えない。どこかにたどり着く前に力尽きて死ぬ。

 魔物じゃなくても動物にやられるかも。

 途中で捕まればやっぱり貴族様の所に連れていかれて死ぬのだろう。

 その前に村から逃げ出そうとした事ですぐに殺されるかも知れない。


 村からドンッドンッと言う音、ドカンと何かが壊れる音がした。

 何の音? 銃声? 普通の人が銃を持っているの?


 魔物が村で暴れている。遠くてよく見えないが、数軒の大きな家の壁や建物が魔物にぶち抜かれ、数人の男性が銃らしき物で応戦しているが、魔物は動きを止めない。

 白い大きな魔物と黒い大きな蛇の様な魔物の二匹が絡まりあって暴れている。

 魔物がぶち抜いた壁や家具か何かが暴風で舞い上がっていく。

 何故あそこだけあんなに風が吹いているの?


 とにかく逃げないと。


 無我夢中で必死に進むが歩くような速度しか出ない。

 逃げないと。家を壊しちゃうような魔物だ。私なんか一溜りも無い。


 ドンッドンッ!!


 後ろで銃声が聞こえる。やっぱり銃だ。村人が撃ってるんだ。

 魔物から逃げよう。道まで辿り着き、少しでも村から離れる方向へ進み続ける。


「ハァ……ハァ……」


 逃げて逃げて…… 逃げ続けて、とうとう歩けなくなった。

 草むらの陰で少し休もうとしゃがみ込む。

 ハァハァと息を吸い込む。喉が渇いたが飲み物は無い。


 これからどうしよう。


 追い出されてからまだ十分も経っていないのにもう歩けない。もっと力があれば。身体が大きければ。大人だったら逃げられるかも知れないのに。

 とりあえず。息が整うまで休む。

 こっちに来ないで。そのまま村で暴れていて。と願い必死で息を整えようとする。


 しかし願いも空しく、ビュンビュン!!ゴオオオオ!!と言う風の音が近づいてくる。

 風の音?魔物が近づいてきている?

 もう風の音だけではなく、私の周りも明らかに風が吹いている。

 渦巻くような強い風が、道端の木々を揺らしている。


 逃げる為に立ち上がろうとするが、疲労で立ち上がる事さえままならない。

 縦横無尽に風が吹き荒れ、周りの木々や草が折れ曲がり砂埃が舞い上がっている。


 村の方で暴れていた白い魔物が走ってくるのが見える。

 白い毛むくじゃらの魔物に黒い大蛇の様な物が巻き付いて二匹で戦っている?

 白い魔物は血まみれだ。どちらから出た血なのかはわからない。

 どっちの血も混ざっているのかも知れない。


 こっちにくる。

 私を襲うのだろうか?

 もう体力が無いので走ることどころか歩く事さえ出来ない。

 風が強すぎてまともに立っていることすら出来ない。


 絶対殺される。


 痛いのは嫌だ。もう何も考えられない。どうせ死ぬなら一瞬で……


 魔物が道を走ってくる。このまま突き飛ばされれば楽に死ねるかも知れない。


 暴れる魔物に殺される為に両手を広げて、木陰からいきなり飛び出し、魔物に触れた……



 その瞬間!!



 ボシュッ!!



 煙のように、黒い大蛇の様な魔物だけが消えた!?

 血まみれの白い魔物は、私が飛び出してきたのにびっくりして、避けようとしたように見えたけど、急に飛び出てきたのを避けきれずほんの少しだけ私の手がどちらかの魔物に触れた。

 そして、触れた瞬間に。黒い魔物は逃げたのではなく、消え去ってしまった!?


 黒い魔物が消えた後。白い魔物はうずくまっている。凄く大きい。

 男たちは熊のように大きいと言っていた。

 私は本物の熊を見たことはないけど。こんなに大きい物なんだろうか?

 血まみれで動かないが息はしている。

 怪我もしている。血の臭いが凄い。

 大蛇のような黒い魔物は私が触れた瞬間に何故か消えてしまい白い魔物だけが残った。

 吹き荒れていた暴風もどんどん静かになった。今はそよ風のようなゆるい風が吹いている。


 私は恐怖でもう全く動けない。白い魔物が動き出したらそのまま食べられるのか。


 呆然と立ち尽くし、白い魔物を見ていると、パチリと目を開けこっちを向いた。



 そして……



「魔物が消えたんだゾ!! 助かったんだゾ!?」




 魔物が喋った!?


 人間の言葉を喋った?魔物って喋るの?消えたって黒い大蛇の事?

 だけど喋るからと言って話が通じるとは思えない。


 白い魔物がむくりと起き、立ち上がった。

 凄く大きい。

 そして……予想外にめちゃくちゃ可愛い!?


 魔物だから。狂暴で凶悪な顔で恐ろしい目つきと鋭い牙や爪を持っていると思っていたのに。


 四つ足で立ち上がったその姿はどう見ても……



 真っ白な子犬!!



 この魔物を。100人に見せれば100人とも子犬と答えるだろう。

 ただ、大きさがとんでもなく大きい。

 四つん這いなのに。背中が私の頭より上にある。

 太くて短い脚、眠そうな目、大きな尻尾、柔らかそうな身体をフワフワの毛皮が包んでいる。

 しまりもやる気も無い、疲れた眠そうな顔。


 大型の犬よりも更に大きい。熊とか馬とかその位の大きさがある真っ白な子犬!?

 子犬をそのまま巨大化したようなアンバランスな魔物がそこにいた。


「あーっ!! 喋ってしまったんだゾ!! ジーちゃんに人前では喋るなって言われてたのに。俺が人の言葉を喋る事は内緒なんだゾ。」


 いきなりペラペラしゃべり出した。しかも犬の口は動かない。

 口を開けてハァハァ息をしながらペラペラ喋っている。声が聞こえる気がするが、恐怖による幻聴なのか?


 先ほどまで恐ろしさで震えて声も出なかったが、ペラペラと喋る魔物を見て、幾分落ち着く。

 喋るからだけではなく、血まみれだとは言え、見た目が可愛い子犬であり、大蛇の様な黒い魔物が消えた事も大きい。黒い魔物はどこに消えたのだろうか?


「魔物もいなくなったし疲れたんだゾ。恐ろしい魔物だったゾ。どれだけ嚙みちぎってもすぐに傷が塞がって攻撃してくるんだゾ」


 白い子犬の様な魔物は黒い大蛇の事を魔物と呼ぶが、この白いのは魔物では無いのだろうか?

 しかし私がこの白い魔物と喋っていいのかがわからない。

 この白いのは魔物なのか? ペラペラと普通に話しかけてくるけど。


「俺はワンタ。見ての通り犬だゾ。ヨロシクだゾ」


 ワンタ? ワンタって名前なのかな?

 ジーちゃんがどうとか言っていたけど、ジーちゃんがつけてくれた名前?

 見ての通り犬だって。見た目は犬だけど?

 巨大な犬だと言われれば確かに犬にしか見えない。


 だけど喋る事と、吹き荒れていた風は何なのか?

 今も風は吹いている。ただの自然の風なのかも知れないけど。

 さっきの風は自然の風とは思えない。

 なんでそんなに大きいの? 蛇の魔物は何だったの?

 この犬は魔物じゃないのかな? そもそも魔物が喋るのかどうかを私は知らない。


 疑問ばかりが頭に浮かぶ。何を喋ればいいのか迷う。

 このまま黙っていても埒が明かない。少女は声を絞り出した。





「あんた……本当に犬なの?」



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