第十七話 猟師さん
会話は私がするしかないな。
ムスカリ街の人みたいに変な人じゃなければいいけど。
ワンタがいきなり木から飛び降り、地面に降り立った!!
「ぐわあああああああ!!!!! クマッ!! シロクマッ!?」
たき火らしき物をしていたおじさんが悲鳴をあげた!!
おそらくワンタが見つけたクマの事では無く、ワンタのことをクマだと思っているらしい。
たき火の横に置いてある猟銃を取ろうとしている!! 撃たれちゃう!?
私がクビを伸ばし、顔を出す。ワンタの頭の上から声をかける。
「オジサン、なんか料理してるの?」
「うわあああぁぁぁ……? なっ……なんだ? 女の子……!?」
人間の子供が乗っているのを見て余計にビックリしているオジサン。
猟銃を取ろうとしているが、何か変だ。痛そうに顔をしかめていて、動きがぎこちない。
怪我をしている?
「オジサン怪我してるの?」
「怪我……している。それはシロクマじゃなくて犬なのか?」
「犬だよ。ワンタって言うの。噛んだりしないよ。撃たないでね」
オジサンは汗びっしょりだ。顔に「呪」とアザのある女の子と大きな犬が急に現れたから怖かったのだろう。
何をしていたのか話を聞くと、猪や鹿の毛皮を手に入れる為、狩猟をしている人達の集まりがあって、国の許可を得た猟師達が、自分で獲った獣の毛皮の販売を兼業している。
みんなで山のふもとでキャンプしながら、各々が山の中で獲物を狙い、肉と毛皮を手に入れ、毛皮は街や王都に持ち帰って販売。
肉は遠くまで持ち運ぶ間に腐るので、近くの村で売れれば売るし、自分たちでも食べてしまうらしい。
そしてオジサンは狩猟中に足を滑らせて怪我をしてしまい、狼煙替わりにたき火を焚いて仲間に助けを求めていたとの事だ。
「料理してるんじゃなかったんだ」
煙が料理では無く、ただの狼煙だった事にがっかりする。
「残念ながら料理では無い。煙に気づいてくれれば仲間が助けに来てくれるはずだが。気づいてもすぐに来てくれるわけじゃないから待つしかない。君たちはこんなところで何しているんだ?」
「私はアヤって言うの。ワンタと一緒におじいさんの所まで旅してるんだけど。持ってきたご飯を全部食べてしまって。山の中で煙が出てるのが見えたから、誰かキャンプしてご飯作ってるのかも知れないって思ったの」
「そうなのか…… 女の子がこんな大きな犬に乗っている時点で私には理解出来ないが。もしも食事したいのなら私の仲間の所に行けば食べさせてくれるだろう。申し訳ないが、仲間たちの所へ行って、フーゴが山の中で怪我してるって伝えてもらえないだろうか?」
「フーゴっておじさんの名前? いいけど。さっき本物のクマがウロウロしてたけど。一人で大丈夫?」
「……大丈夫ではない。この足では動けないし、猟銃があっても、子グマならともかく親グマだとかなわない可能性が高い」
「ワンタより大きいんだよ。子グマじゃないと思う」
私は見てないから知らないけど、ワンタが自分より大きいと言うのだから大きいのだろう。
たぶん普通の人だし、助けてあげたい。放っておいてクマとかに食べられるのも可哀そうだ。魔蝙蝠みたいな魔物もいるかもだし。どうしよう?
ワンタが動き出し、オジサンの横で伏せの姿勢になった。
乗せてってくれるつもりだと思うが。私とオジサン二人でも大丈夫かな?
「フーゴさん、ワンタが乗せてってくれるみたい。仲間の所まで案内してくれる?」
「あ……あぁ。案内は出来るが、乗っても本当に大丈夫なのか?」
「乗るのが怖かったら待ってるしかないけど。クマが出たらもっと怖いと思う。私がいつも乗ってるんだから平気だよ」
フーゴさんとしても、究極の選択だろう。
女の子と巨大な犬が安全なのかはわからない。しかしクマが出たら間違いなく一貫の終わりだ。
「すまないが、乗せてってもらっていいか? 道は案内する。山際の道から少し森に入った場所に開けた場所がある。モクモク山での猟の時はいつもそこを拠点に使っているんだ」
置いてあった猟銃とリュックを担ぎ、私の後ろに乗る。
身体のあちこちが痛いのか動きがぎこちない。
「ワンタの毛をつかんでも大丈夫だよ。落ちないようにしてね」
「ちょっと待ってくれ、火事になるとまずいから火は消しておく」
「ワンタ。砂かけて火を消してくれる?」
黙ってワンタが立ち上がり、後ろ足でたき火を踏み消した!!
熱くないのだろうか!?
オジサンの前でワンタと会話するとややこしい事になりそうなので、黙ってみておく。
唖然としているオジサンを乗せ、ワンタが木の上に飛び上がった!!
「うわああっ!! 大丈夫なのか!?」
「うん。大丈夫。ワンタ。山際の道までお願い」
木の上を飛ぶように走り、あっと言う間にふもとまで降り、山際の道へ出る。
「そこをまっすぐ行けば、左手に大きな木があるんだ。そこを曲がってしばらく行くとみんながいるはずだ」
アヤが指示をしなくても、勝手に進むワンタ。
「勝手に進んで行くけど、ワンタは言葉がわかるのか?」
「うん。大丈夫」
山際の道を進むと、大きな木があり、左に曲がるとガヤガヤと声が聞こえる。
これが仲間たちのキャンプらしい。近くに小さな川が流れている。
ゆっくりと道の真ん中を歩くワンタ。
向こうで……全員が銃口をこちらに向けている!!
「おーい!! おーい!! 俺だー!! フーゴだ!!!!」
フーゴさんが精一杯叫びながら大きく手を振る。
身体が痛いのに大変だ。
「フーゴ!? お前なんてもんに乗ってるんだよ!? 白い熊かと思ったら巨大な犬なのか?」
ワンタがゆっくりと近づいていく。
仲間達はどうすればいいのかわからず身構えている。
「ミスっちまった。足を滑らせて受け身を取れずに地面に叩きつけられた。骨は折れてないと思うが歩けなくなってた所をこの子と犬が助けてくれたんだ。大きいけど犬だと思う。間違いなく俺達に危害は加えない」
フーゴさんが乗っていた事で、全員銃口を降ろしてくれた。
森の中を遠くから近づいてくるワンタはやっぱり怖かったのだろう。
「さっきの煙はフーゴだったか。探しに行こうって今話していたんだよ。入れ違いにならずに済んで良かった」
「すまないが、俺の治療を頼む。それとこの子と犬にごちそうする約束なんだ。食事を用意してくれないか?」
「お嬢さんとワンコ。フーゴを助けてくれて有難う。食事の用意はまだなんだ。座って待っていてくれないか?」
オジサン達の食べ物を食べてしまうのは申し訳ない。
ワンタはたくさん食べるはずだ。ワンタから降りる。
「ワンタ、なんか獲ってきて。大きくて美味しそうな奴。ネズミとか蝙蝠とかダメだよ」
ワンタは森の中に消えていった。
「あの犬、大丈夫なのか?どこか行っちゃったけど。わかってるのかな?」
「大丈夫。何か獲ってくると思う。あの子はワンタ。私はアヤって言うの」
「わかった。肉はこっちもあるけど。追加でワンタが何か獲ってきてくれると信じて食事の準備をするよ」




