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第十六話 煙

 魔蝙蝠の洞窟から離れる為に、夜中なのにワンタを急かした。


 背中に乗っていた私は、いつの間にか寝てしまったらしい。

 ワンタはいつも、寝ている私を落とさずに歩いてくれるので助かる。


 目が覚めると、もう昼前だった。ワンタも歩き疲れたのか寝ていた。

 森の中。周囲にはそよそよと風が渦巻いている。


 洞窟を出てから何時間ほど歩いてくれたのかはわからない。

 洞窟やムスカリ街から離れているといいんだけど。

 魔蝙蝠の群れが飛び去った時の事は、思い出すだけでも気持ちが悪い。


 周りを見渡すと、昨日までとは違い、遠くに山が見える。

 大きな山だ。モクモクと煙が出ている? 火山なのかな? 噴火しないのかな。

 見えるけどまだまだ遠い。

 山まで行くだけでもワンタの歩くペースだと一日以上かかりそうだ。


 しばらくワンタの上でボーっとしていると、ワンタが起きた。


「おはようだゾ」 


「おはよう。ここはどこ?もうあの洞窟からだいぶ離れた?」

「頑張って歩いたんだゾ。この辺は動物の気配もたくさんある。蝙蝠達もここまでは来ていないんだゾ」

「あの山は何? ちょっとだけ煙出ているけど噴火したりしない?」

「モクモク山だゾ。あの山の裏にジーちゃんの村があるんだゾ。ずうっと昔から煙は出っ放しだから大丈夫だゾ!!」


 山まで結構遠いなぁ。

 でもとりあえず洞窟から離れてくれたようでひと安心。

 いつものように川で顔を洗い、残り少ないパンを食べる。

 ワンタも自分で何かを食べに行くようだ。

 私に蝙蝠やネズミを見せると、うるさく言われるので見えないように食べてきてくれるはず。

 変な物食べてなければいいんだけどな。


 しばらくするとワンタが戻ってきた。

「何食べてきたの?」

「ウサギとキノコだゾ!!」


 キノコ……? そういえば雑食って言っていたけど。


「キノコはどうやって食べたの?」

「丸かじりだゾ!! 美味いんだゾ!!」


 まぁそりゃそうだ。キノコスープとか作れるとは思えない。


「キノコも風でわかるの?」

「キノコは匂いだゾ。風でもわかるけど匂いの方が確実だゾ」


 ガブガブと水を飲むワンタを横目に、どうしようか考える。

 マジックバッグの中は空っぽになってしまった。

 木の実を食べるとか、キノコや山菜とかの知識は私には全く無い。

 食べられる野草と言うのがあるのは知っているが、見分けがつかない。

 ワンタにキノコを見つけてもらっても丸かじりする気は無いし、毒キノコとかの可能性もある。ワンタは毒でも気にせず食べそうだ。


 果物があったらなぁ。柿くらいなら流石に私にもわかる。

 毒のある柿なんて無いだろう。最悪でも渋柿なだけだ。

 柿を見つけたらワンタに食べてもらって、美味しいって言ったら私も食べようかな。


 残り少ないパンを食べ終えて出発。山が見える方向へ向かう。

 いつものようにワンタに乗る。全く急がずノソノソと歩いている。

 マイペースな犬だ。

 山に近づいてはいるが、まだ半日以上はかかりそうだ。

 今日は晩御飯抜きだ。ここで一泊しよう。


 翌日も山に向かって歩き続ける。

 ワンタは自分だけ朝ご飯を食べてきたようだ。

 私は水だけ。食べ物が無いのでどうしょうもない。

 ご飯本当に何とかしないと飢えて死んじゃうかも知れない。


 私は孤児院では本当に少食だったのに、ワンタと旅をするようになってから、お腹が空く。体調も何故か良くなったんだけど。一日抜いた位でこんなにお腹が空くのは何故だろう?


 夕方前に山のふもとへ来た。道は山を大きく回るように通っている様だ。

 上に上るルートもあるが、どこ繋がっているのかよくわからない。

 もう夕方。お腹が空いた。食べ物が無い。


「ワンタ、山の上の方って果物無いかな?」

「果物はなかなか無いゾ。絶対無いわけじゃないけど。あっても鳥とかサルが先に食べちゃってると思うゾ」


 まぁそりゃそうだ。そして鳥はいいけどサルは嫌だ。噛まれそうだ。

 犬猿の仲って言うからワンタと仲が悪いかも知れない。


「私が食べられそうな物ってどこかに無いかな?料理とか出来ないからそのまま食べられそうな物」

「そのまま食べられるのは果物しか知らないゾ。俺がジーちゃん達にウサギとか鳥を持っていっても、もちろん料理して食べるし、ジーちゃん達が自分で取ってきた山菜だってやっぱり料理して食べてたんだゾ。ギリギリ山芋は生で食べてたかも知れないゾ」


 うーん。山芋なんか齧りたくないなぁ。


 森の中にも、山の中にも何も無いなら。次の村か街まで我慢するしか無い。

 山を越えたらすぐにおじいさんの村だったら、そこまで我慢するだけだ。


 でもお腹空いたなぁ。


 山の中に果物生ってたらいいけど。見渡す限り緑色だ。赤いリンゴやオレンジのミカンは見当たらない。青リンゴが生っている可能性を考えてみるが、望みは薄いだろう。


 ボーっと山の上を見ていると、山の中腹辺りで、火山ではない煙が上がった?

 黒っぽい煙がゆらゆら揺れている。

 山火事とかではなく、誰かが火をつけているんだと思う。

 たき火なのかな? もしかして!! ご飯を作っているのかも!?


 ワンタと一緒に旅をするようになってから、何故か私は体調が良くなった。

 以前は少食だったのに、お腹が空いてたくさんご飯を食べるようになった。

 ワンタの食欲が私に移ったのかも知れない。

 お腹が空いた。


 ご飯だったら、もしもご飯だったら!!

 山の中でキャンプか何かだろうか?

 もしかして、鳥とかウサギを持っていけば、料理してくれるかも知れない。


「ねぇ。上の方の煙って何だと思う?」

「そんなのわかんないゾ。山頂の煙は火山だけど。小さな煙は人間が起こした火かも知れないゾ」

「あそこまで遠い?私を乗せて行けない?」

「行こうと思えば行けるゾ。ついでに俺もエサを取りに行くんだゾ」


 ワンタが道を外れ、山の方へ進む。

 一応山の上に行く道らしき物があるが、人間が作った道なのか動物が通った跡なのかわからない。ワンタも道へ向かうのかと思ったら、いきなり木の上に飛び乗り、枝を足場に飛ぶように走って行く。

 水の上を走れるのだからこの位は楽勝なのかも知れない。

 周囲はずっと風が吹いている。おそらく風が足場を教えてくれるんだろう。

 鳥とか動物を捕まえる時も風でわかるって言ってた。


「近くにクマがいるんだゾ」

 クマ!? 食べたいとか言い出したらどうしよう?

「私はクマは食べないし、逆に私が食べられるかもだし。近づかないでね」

「俺よりでっかいクマだゾ。大きいし力も強いので怖いんだゾ」


 そういえば、飛ぶ動物には強いけど大きい動物は苦手とか言ってた気がする。

 馬と牛が苦手だから、クマも苦手なんだろう。


 煙が近づいてきた。


「人がいるんだゾ。ジーちゃんに怒られるから、俺はアヤ以外とは話さないんだゾ」


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