第十三話 袖の下
「行くんだゾ!!」
ワンタが歩き出した。
気合を入れた掛け声だったが、相変わらずマイペースでノソノソと歩いている。
私は乗っているだけなので楽でいい。
「おかしいんだゾ。この辺には動物の気配がほとんど無いんだゾ?」
動物がいない森? 私はいてもいなくてもどっちでもいい。
いない方が動物に襲われる心配が無いかも知れない。
道は大きな川沿いを走っている。
どこまで行っても川に橋が無い。大きな川なので橋がかけられないのだろう。
流れが速そうだけど。船なら行けるかな? でも船は見当たらない。
そのまま数時間歩いて、夕方頃、雲行きが怪しくなってきた。
ゴロゴロ……ゴロゴロ……ピカッ!! ドドーン!!
空が暗くなり、雷が鳴り出した。
「雷だゾ!! すぐに雨が来るから休める所を探すゾ!!」
空が見る見る真っ暗になって行く。
パラパラと雨が降り始めた。
ワンタが道を外れ、唐突に川に飛び込んだ!?
いや、水の上を走り出した!! 一気に向こう岸まで渡ってしまった。
「ワンタは水の上を走れるの??」
「短い距離だったら走れるゾ。身体を軽くしてスピードを上げて一気に走り切るんだゾ」
身体を軽くする?そういう魔法か何かだろうか。
確かに以前、細い枝の上を足場に走っていた。あれも身体を軽くしていたのかも知れない。
川を越えると大きな洞窟があった!!
「ワンタ。洞窟があるよ。あそこで雨宿りしよう」
「動物がいない理由がわかったんだゾ。洞窟の中に蝙蝠がたくさんいるゾ。見てるんだゾ」
ワンタが洞窟内で突風を吹かせると、中から慌てて大きな蝙蝠が飛び出してきた。
蝙蝠って小さいスズメぐらいの大きさだと思ってたけど、遠くから見た感じカラスくらいはありそう。
「イヤ~~~~!!!!! 気持ち悪い!!!!」
「蝙蝠嫌いか? 食わず嫌いは損なんだゾ」
なんで食べる前提なのよ!! 蝙蝠なんて飛ぶネズミみたいな物じゃない!!
怒った所でワンタが納得するとは思えないので心の中で反論しておく。
ワンタはネズミも食べるような気がする。
そして大きい。あれ本当に蝙蝠かな?
ワンタが蝙蝠って言っているだけじゃないの?
「あの蝙蝠は肉食だから蝙蝠が近くの動物を食べてしまったから周りに動物が住めなくなっちゃったんだゾ。洞窟の中に山ほどいるんだゾ!!」
「狂暴なの?」
「狂暴だゾ。ジーちゃんの村の近くにもいたけど、人も動物も襲うんだゾ」
小動物だけじゃなくて人も襲うのか。
そんな狂暴な蝙蝠の住処に入るくらいなら雨に打たれた方がマシだ。
洞窟で雨宿りは諦めよう。
ザーザーザー。
ピカッ!! ゴロゴロゴロ~!!
とうとう雨が降ってきた。土砂降りだ。
雷も鳴りまくっている。
ワンタが大きな木を見つけてくれた。
上の方は枝葉が生い茂っているのであまり雨がかからないはず。
次の村までの距離はわからないが、もう動きたくないのでここで一晩明かすことにする。
雷が落ちてこないか心配だが、周りには背の高い木が他にもたくさんあるのでそっちに落ちてくれる事を祈る。
ふと考える。雷って何だろう??
雷の正体を私は知らない。
「雨降ってきたゾ。蝙蝠食べ損ねたゾ」
本当は蝙蝠を捕まえて食べたかったけど、私が濡れないように配慮してくれたのかな。
出来れば蝙蝠食べてほしくないな。
バッグの中のパンやお菓子を一緒に食べて寝ることにする。
ワンタが足りないから蝙蝠食べに行くとか言い出すと嫌なので、食べ物をたくさんあげておいた。雨が降っていて気温が低かったけど、ワンタの身体が暖かいので風邪をひかなくてすみそうだ。
翌朝、雨はやんでいた。
やっぱりワンタは川に行き水を飲む。
朝は喉が渇くらしい。長い時間かけてガブガブ飲んでいる。
私も顔を洗ったりタオルや下着を洗った。
また川の上を走って道に戻った。道は雨でぬかるんでいるがワンタは気にせず歩いている。
汚れても平気なようだ。
しばらく行くと、ロバが引いている荷車がぬかるみにはまり込んで立ち往生している。
商人らしき人が、困った顔で助けを求めているが、誰一人立ち止まらない。
ワンタが後ろから荷車を頭で押すと、ぬかるみから脱出した。
「おお。嬢ちゃんすまねぇな!! えらいもんに乗ってるな!! こりゃ犬か? この辺じゃ見た事無いが向こうへ行くって事はムスカリ街へ行くのか?」
荷車を押したのはワンタだが、私に話しかけて来る。
次の街の名前はムスカリ街って言うのかな。
「うん。初めて行くんだけど、もうすぐかな?」
「もうすぐだが、あそこはお嬢ちゃんじゃ危ないな。入らない方がいいぞ? 街に入る時に入り口で袖の下取られるし、街の中の治安も悪い」
治安悪いんだ。でもワンタがいれば大丈夫だろう。
おじいさんの村まであと、どのくらいあるのかわからない。
昨日ワンタにご飯あげすぎたので出来れば食料を補給したい。
「袖の下って何?」
「賄賂だよ。街に入る時、警備員が難癖つけて、入れないようにされる。お嬢ちゃんと犬だったら間違いなく入り口で止められていちゃもんつけられて入れてもらえないと思う。でも、こそっと多少のお金を警備員に握らせりゃすんなり通してもらえるってわけさ」
「近くに治安が良くて食料買えそうな場所って無い?」
「近くには無いな」
「そうなの。気をつける。ありがとう」
「どうしても行くってのなら止めないが、あの街は素通りした方がいいぜ!! 気を付けてな!!」
袖の下か。マジックバッグの中にはお金たくさんあるからいいんだけど。
大金貨しかない。多少のお金ってどのくらいだろ?
大金貨なら通してくれるとは思うけど。お釣りはくれないよね。
ポケットの中の大金貨を確認し、ムスカリ街へ向かう。
人通りが多くなってきた。ワンタは目立つ。あちこちからジロジロ見られるのは同じだが、話しかけて来る人はいない。視線が痛い。明らかに歓迎されていない気がする。
警備員らしき人が話しかけてきた。
「おい、ちょっと待て!! デカい犬だな。どこへ行く?」
「ムスカリ街に入りたいんだけど」
「街に知り合いでもいるのか? 通行証は? 無いだと? なんの用だ? この犬は魔物だろ!! 街の中の治安を守るのが俺たちの仕事だからな!! こんな魔物を入れさせるわけにはいかない!! とっとと失せろ!!」
警戒されているのかも知れないけど、さっきの商人さんの言う通りだったら、お金を払えば入れてくれるのかも知れない。
もたもたしているとまたワンタが木に突進して脅したりしそうだ。
「えっと。通行証はないんだけど。これでいいの?」
警備員に大金貨を渡してみる。
「んっ? だっ!! 大金貨だと!? おまっ!! どこでこれを!? いや、問題ない。何の問題も無い!! お前は子供のくせに良くわかっている。通行証を渡すから出入りする時はこれを見せればいい。ムスカリ街へようこそ!!」
先程とは打って変わってニコニコ顔で何も言わなくても通行証をくれた。
さっきの人に袖の下の話を聞いていて良かった。
でももうあまり関わりたくないのでさっさと中に入れてもらう。




