第十二話 川で一泊
危ない事もあったけど、なんとか無事に食料と靴を手に入れ、村を出る。
もう、夕暮れだ。すぐに夜になるだろう。
「うーん。あの村で一泊したかったんだゾ」
ワンタはぶつぶつ言っているが、あのまま村で止まると男たちの報復が怖いし、大金貨を所持している事の説明も難しい。
そしてもし、宿屋に泊まるとしても、宿代を払う時になんで大金貨を持っている? とかって同じ事になるだろうし、ワンタと一緒に部屋に入れないし、そもそも子供を一人で泊めてくれないだろう。
私が宿にいる間、ワンタから黒い魔物が出てきても対処出来ないし。
黒い魔物を誰かに見られたら、それこそワンタごと魔物と思われて攻撃される。
銃が効かないとは言え、ワンタが逆に人を殺してしまったりする可能性もある。
「しょうがないよ。森の中で寝心地の良さそうなところ無いかな?」
「俺に任せるんだゾ!! 川の近くに行くんだゾ」
川が好きなのかな? 昨日も川の横だった。森の中に入って行く。
少し開けた場所。近くに川があるらしい。水の音がする。
「ここがいいゾ。飯を取ってくるんだゾ」
「ワンタがどこか行っている間に魔物が来たりしない?」
「大丈夫だゾ。何かが近づいたら風が吹き飛ばしてくれるし、近づいてきた動物や魔物が重くて飛ばなくても俺もすぐ戻ってくるんだゾ」
魔法の風が吹いている限り、すぐにワンタが気づいて助けてくれるはずだけど……
とりあえずワンタから降りる。
ワンタが警戒してくれているとは言え、森の中で私みたいな子供が一人でいるのは心細い。
立っているのも疲れるし、ワンタが獲物を捕まえるまで時間もかかるだろうし。どこに座ればいいか。汚れない場所を探してウロウロしていると。
すぐにワンタが戻ってきた。
口に大きな鳥を咥えている。
「捕まえたんだゾ!!」
あっと言う間だった。5分もかかっていないだろう。鳥を取るコツか何かがあるのだろうか?
「ワンタが捕まえたの? そんな簡単に捕まえられるの?」
「獲物の居場所は風が教えてくれるんだゾ。俺は風を操る事が出来るから、虫みたいな軽い生き物と、鳥みたいな空を飛ぶ生き物は俺の相手にならないゾ。軽い物は巻き上げればいいし、飛んでいる物は落としてしまえば簡単に捕まえられるんだゾ」
なるほど。鳥とか虫に強いのね。
虫くらいなら私も頑張ったら勝てそうな気はする。
「逆に重い動物とかは苦手だゾ。大蛇も風ではどうにもならなかったし、馬や牛みたいな風で巻き上げられない、重くて力の強い動物とはあんまり戦いたくないゾ」
うーん。そうなのか。ワンタも大きいけど馬や牛はもっと大きいのもいる。
犬の魔物や蛇の魔物がいるなら馬の魔物とかもいるのかも。
もし馬の魔物が出てきたらどうしよう?
ワンタに頑張ってもらう以外方法は無いんだけど。
捕まえた鳥をバリバリ食べている。
ワンタの口の周りが血まみれで怖い。
私もさっき貰った食パンにイチゴジャムをつけて食べる。
甘くて美味しい。一枚全部食べきった。
「俺も食べたいゾ!!」
シッポをフリフリしながらワンタがよだれを垂らしている。
ワンタも欲しいのか。蛇とか亀とか食べるらしいけど。甘い物も食べるのかな?
「ちょっとだけだよ」
切られた食パンを一枚、ジャムをつけて食べさせてあげる。
「美味いんだゾ!! イチゴのジャムだゾ!!」
美味しいらしい。虫歯にならないかな?
「美味しいゾ!! もっと欲しいんだゾ!!」
甘い物とかはあまり食べないと思うので、珍しいのかな。
犬には良くないのかも知れないけど、容姿が可愛いので甘やかしてたくさんあげてしまう。せっかく貰った食糧がかなり減ってしまった。大きな鳥を食べた後だがワンタにとっては食後のデザートみたいな量なのかも。
逆に私は元々少食だった。孤児院自体が貧乏だったと思うからしょうがないんだけど。美味しい食べ物は出なかったし、出てくる量も少なかった。
その中でも私は病弱で少食だったので出てきた少ない食事さえも今まで食べきれなかった。どこかが悪いわけではないんだけど。身体が弱く病気がちでガリガリだ。
だけど、今日はなんだかお腹がすいている。ワンタの上に乗っているだけで運動は全くしていない。乗っているだけでもお腹がすくのだろうか。
夜も眠りが深い。ワンタの上の寝心地がいいから?
単純に体調がいい気がする。
森の中、地面で寝るのは嫌なので、今日もワンタの背中で眠らせてもらう。
フカフカで温かく気持ちがいい。そよそよと風が吹いている。
そのまま眠りについた。
翌朝、日が高くなってから目覚めた。
良く寝たからか今日も調子がいい。
ワンタはまだ寝ている。よく寝る犬だ。
近くに川があると言っていたから、顔を洗いに行きたい。
うーん。どうしよう?
ワンタが私から離れる時は私の周りに風が吹いている。
でも逆に私の方がワンタから離れたら、もしかしたら風が届かないかも知れない。
森の中だし何がいるかわからない。下手にうろうろするのはやめよう。
しばらくするとワンタも目覚めた。
「おはようだゾ」
「おはよう。犬なのにゆっくり寝るのね。朝の散歩とか行くんじゃないの?」
「俺は野良犬だから一日中散歩するからいいんだゾ。まずは川に行くんだゾ」
「私も行く。乗せてって」
大きな川に着くとワンタが水を飲みだした。
凄い勢いでガブガブ飲んでいる。
身体が大きいから喉が渇くのだろうか。
私も顔を洗い、うがいをし、タオルで顔を拭く。
マジックバッグから下着を取り出し着替える。
脱いだ下着とタオルを川で洗う。
木に引っ掛けると、ワンタが風で乾かしてくれる。魔法って便利だなぁ。
「ねぇ。あんたが寝ている時に、私が歩いてどっか行ったらどうなるの?」
「ん? アヤの回りに風が吹くように魔法を使っているから。アヤが行く方向に風がついて行くだけだゾ?」
「もしも私が向かう方向に危険な動物とか魔物とかいたらわかるの?」
「わかるんだゾ!!」
ふむ。ワンタは常に私の居場所がわかるし、私の周囲も警戒してくれているのか。
ちょっと安心。お腹が空いた。
「私はパン食べるけど、ワンタはどうするの? 川だし、魚取りに行く?」
「適当に何かいたら食べるゾ。お腹が空いたら勝手に何でも食うゾ。」
「何でも食べるの? 昨日はパンとジャム食べてたけど、犬って肉食じゃないの?」
「俺は何でも食うんだゾ。肉も魚も野菜もキノコも果物も。パンもお菓子も何でも食うゾ」
犬って雑食だっけ? ワンタだけなのかな?
自分で犬を飼ったことがないのでわからない。でもキノコなんて食べるのかな?
毒キノコとか見分けつくのかな。鼻がいいから匂いでわかるのかも。
乾いた下着とタオルを取り、マジックバッグに押し込む。
昨日貰った食糧も無理やり押し込んでしまう。
ワンタの背中に乗ると、
「行くんだゾ!!」
ワンタが歩き出した。




