第十話 ならず者
「うん。大丈夫みたいだね。入っていいよ。村の人もびっくりするだろうし、騒ぎは起こさないように頼むよ。」
何とか入れてもらえた。
やはり見た目と言う物は大事らしい。
女の子である私がアザのせいで嫌われて、こんな大きな犬が受け入れられてしまう。
ワンタになりたいとは思わないけど、ちょっと羨ましい。
私にしか聞こえないようにワンタが話しかけてきた。
「喉が渇いたんだゾ」
村の人に尋ねる。
「すみません。犬にお水あげたいんですけど、どこかお水を貰えるところありませんか?」
「水なら村の共用の井戸があるから、勝手に使っても大丈夫。そこで汲むといいよ」
井戸の場所を教えてもらう。
滑車に引っ掛けたロープのついたバケツを井戸に落として水を入れ、ロープを引き上げる様だ。近くにいた男の人が手伝ってくれる。
「犬に水をやるのかい? 入れ物かなにかある?」
確か、洗面器とコップを持ってきたはず。マジックバッグから洗面器を取り出してお願いすると、水を入れてくれる。
ワンタは洗面器でも気にせずガブガブ飲んでいる。喉が渇いていたのだろう。
私もコップに入れてもらう。冷たくて美味しい。
ワンタは何杯もおかわりしている。
でもいくら身体が大きいとは言え、こんなに水を飲むのだろうか?
「こんなに大きい犬は初めて見たよ。大きいけど大人しい犬だね」
男の人はワンタが満足するまで手伝ってくれた。
水を飲み終えたので買い物に向かう。
知らない人がワンタに触ったりしているが、ワンタも気にする様子も無く大人しくしている。
ワンタに乗ったまま少し歩くと露店がある場所に出た。
買い物がしたい。マジックバッグとバレると盗まれてしまうかも知れないので、人から見えないように、バッグの中から数枚金貨を出してポケットに入れる。
いろんな露店がある。金貨があるので何でも買えると思う。
孤児院では金貨も銀貨も見た事さえなかった。もちろん持つのも使うのも初めてだ。
ワンタから降りて、何か良い物が無いか探していると、動きやすそうな靴があった。
服も靴も孤児院で貰ったお古の物で、特に靴はすり減ってボロボロだったので、新しいのが欲しい。
ワンタは後ろで知らない人に撫でられている。私の周りにはずっと風が吹いている。ワンタはこっちを見ている。
店主さんに話しかける。
「おじさん、この靴ちょうだい」
「はい、銅貨1枚だよ」
金貨なら大丈夫だろう。お釣りとかわかんないけど。
膨らんだポケットから金貨を出す。
「ん? これは大金貨? お嬢ちゃんが何でこんな物を持っているのかな?」
え? 大金貨? 金貨じゃないのかな?
金貨も銀貨も今まで見たことも無かった。ボロボロの服の子が確かに大金を持っているのがおかしいと思うのかも。実際ワンタが盗んできたみたいなものだし。
「どこで大金貨を手に入れたのかな? 親がどこかにいるの?」
答えられない。どうしよう。やっぱり子供だとただの買い物さえ出来ない。
店主の顔に突風が吹いた。
「なっ!! なんだ??」
ワンタと店主さんの目が合う。ワンタは近くの村人達に触られたり撫でられたりしている。
大人しく、全く動かない。
だが、明らかにこっちを見ている?
「えっと。お嬢ちゃんは……」
喋ろうとした瞬間、また突風が顔にあたる。
やっぱり犬はこっちを見ている。
やはり魔物か?
だが、私以外誰一人警戒していない?
「すみません。もういいです」
大金貨を持っている理由を返答出来ないので、大金貨もそのままワンタに駆け寄る。
ワンタに乗ると勝手に歩き出す。
店主は、しばらく大金貨を持ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
遠くから、大金貨と少女と犬を見ていた二人の男がニヤリと笑った。
「ヒュー!! あのガキ、大金貨を持ってやがる!! ポケットの中に何枚も入っているように見えたぞ」
「大方どこぞの孤児が盗んできたんだろ。おしおきしてやる必要があるな!!」
男たちは店に近寄ると、呆然と立ちすくむ店主に怒鳴りつけた!!
「おい!! お前!! 今品物渡さずに金だけ受け取っただろ!!」
「あ……いや。これは……」
「警備員を呼ぶか? 俺達は見ていたんだぜ? 子供から金を巻き上げるような真似しやがって!!」
「いや……」
「貸せ!! 俺たちがあの子に返してやるよ!! 嫌なら今すぐ警備員を呼ぶだけだ!!」
答えられない店主は、大人しく大金貨を渡す。
何か話してしまうとあの白い魔物に危害を加えられる恐れがある。
店主も別に奪うつもりでは無かった。だけどボロボロの服を着た子供が大金貨を持っているのはどう考えてもおかしかった。
「俺たちがあの子にきっちり返してやる!! お前は余計な事を喋るんじゃねーぞ!!」
男たちは、子供と犬の方に駆け寄っていく。
こいつらもまともな人間とは思えない。
子供に返すのだろうか? あの子はポケットから大金貨を出した。ポケットの中には何枚か入っていたように見えた。
店の品物をそのままに、男たちの跡をつけた。
大金貨を取り上げた二人の男が、二人の女と話している。
「あのガキ、大金貨を持ってやがる。ガキを森の奥に連れ込んで欲しいんだ。俺達じゃ怖がられるからお前らで頼む。デカい犬も顔にアザのある顔のガキも見た事は無い。どこかの村から流れてきた孤児かなんかだと思う」
「いつもの場所でいいの? わかった。先に待ってて」
買い物を諦めたアヤとワンタの元に二人の女が歩いてきた。
「こんにちは。こんな大きな犬見たことないけど、この村は初めて? 案内しようか?」
親切な村の人かな。女性だし、ワンタを撫でてくれている。
「お願いします。靴が欲しいんだけど」
「靴だったらいいところがあるよ。ちょっと遠いけど安くていいのが揃っている。私たちについてきて」
親切な人だ。大人の人が一緒だったら買い物も出来るかも知れない。
この人にお金を渡して買ってもらおう。
「親は近くにいないの?」
「いない。孤児なの。おじいさんの住んでいる村に行く予定」
「孤児!? そうなんだ~!!」
女たちがニヤリと笑った。




