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第一話 監禁された少女

「近くで化け物がうろついているらしいな」


「なんだそりゃ? 魔物か?」


 隣の部屋で二人の男が会話している。

 私が閉じ込められている部屋まで声が聞こえてくるので耳を傾けてしまう。


「他の村で噂になっている。血まみれの白い魔物と黒い魔物が二匹で絡み合いながら暴れまくっているって」

「デカいのか?」

「熊くらいの大きさで、なんだか暴風を巻き起こして暴れているようだ」

「人間を襲って食ったりするのならちょうどいい餌があるぜ?」


 ガチャリと鍵があけられ、ドアが開いた。

「なぁ!! 呪われたガキ!! どうせお前はもうすぐ死ぬんだ。魔物に食われても同じだろ!! 逆に魔物に食われた方が楽に死ねるかも知れないから魔物の餌にしてやるよ!! 俺たちに感謝する事だな!!」


「呪われたガキか。このガキは孤児院から来たらしいな。もしかして呪われた森が生み出したから親がいねーのか?」


 いきなりの暴言に言葉も出ない。

 私は男たちの名前も知らない。


「なんにも喋らねーなこのガキは。口が聞けねーのか? なんか喋れよ」

「全く気色の悪いガキだぜ。なんなんだお前の顔は? 刺青か? ラキュール伯爵もなんでこんなガキを……」


「バカッ!! 不用意に名前を出すんじゃねぇ!! 誰かに聞かれたらどうする!!」

「あぁ。すまねぇ。しかし気色の悪い顔だな」


「刺青じゃなくてアザらしいぞ。飯置いておくからしっかり食え。お前は大事な商品なんだからな。しっかり食って元気でいてもらわねーと。半病人じゃ貴族様に満足していただけないからな!!」


「最近は子供でも女でも拉致するのは大変だ。お前みたいな身寄りの無い孤児が一番手っ取り早くて楽なんだよ。だけどお前ガリガリだな。孤児院で飯食わせてもらっていたのか? たくさん食って貴族様の所でしっかり奉公してくれよ!!」


 男達は食事を持ってきてくれた。

 孤児院では食べたことの無いような豪華な食事。


「ここでの食事がお前の最後のまともな食事かも知れないからな!! よく味わって食え!!」


 ガチャリと部屋の鍵が外からかけられた。

 内側からは開けられない仕組みだ。

 ここからは逃げだせないようになっている。



 呪われたガキ………



 私の右の頬には文字のように見えるアザがある。


 刺青を入れたかの様なアザ



【呪】



 生まれた時からずっと私を苦しめ続けるアザ。刺青や怪我ではない。

 生まれつきのただのアザでしかないので、誰かを呪ったりする力がある訳では無い。

 しかし……気味悪がって、誰も近寄ってこない。

 アザを理由に暴言を吐かれ、暴行、嫌がらせを受け続けた。

 孤児院の中でも外でも。

 気味悪がられ、仲間外れにされ続けた。


 私は自分の親の顔も名前も知らない。詳しい事は何も教えてもらえない。

 もしかすると孤児院の人たちも知らないのかも。

 私が生まれた直後にアザを見てそのまま孤児院の前に捨てられていたらしい。


 このアザは…… アザは文字通り呪いなんだろう。私は生まれた時から呪われている。

 アザが私になにかをするわけではないが、アザがあるだけで私の運命が変わってしまった。

 呪いを解く方法はあるのだろうか?

 誰かが呪いを解いてくれる事は無いのかな。もし誰も解いてくれないのなら。

 私が自分で呪いを解く方法を探しに行きたかった。



 私に解呪の力があれば!!

 自分でも、他人でも、道具でもなんでもいいから。

 解呪の力を手に入れられれば私の人生は違ったはず。


 解呪の力が欲しい!!


 だけど……だけど……解呪など出来るはずがない。

 これは元々ただのアザだ。呪われている訳でも何でもない。

 ただのアザだけど。私に取っては呪いの刻印。

 これがなければ私も養子になれたかも。

 そして大人になれば普通の仕事が見つかっていたはず。

 なんなら親に捨てられることもなかったのかも知れない。

 普通の子供の様に普通の家庭で幸せに暮らしていたのかも知れない。



 先日8歳になった。物心がつく前から、ずっと孤児院で生活していた。

 孤児院の中で読み書きを教わった。

 勉強はたくさんした。

 勉強が出来れば、いつか大人になった時に一人で生きていけるようになるはず。

 他の人より優秀であればそれだけいい仕事が見つかるはず。

 たくさんの本を読み、いろんな仕事がある事も知った。

 孤児院出身でも、一生懸命勉強して、賢く優秀であれば。

 大きな商人や学校の先生、役場、医療関係、もしかすると、貴族様に雇っていただけるかも知れない。


 養子を取りたいと考える人達がいる。何らかの事情で子供が出来ない人もいるし、自分の仕事を継がせたり業務拡張の為に養子を取り、子供の頃から技術を仕込んでいくらしい。


 しかし孤児院に面談に来る人全てに顔を見ただけで拒絶され続けた。ただのアザならともかく、「呪」としか読めないアザが顔に刻まれた子供を受け入れてくれる場所は見つかりそうもなかった。

 この生まれついての呪いのせいで私は最初から未来を選択出来なかった。

 もしも特別な能力や才能があれば、また違う道もあったのかも知れないが。

 最初から私には平凡な能力しかなく、また努力しても特別な事は身に着けられなかった。



 しかし、先日の夜中に突然「受け入れ先が見つかった」と馬車に乗せられた。

 孤児院の子供に挨拶も無く、どこをどう走ったかもわからずに、この村に連れて来られた。

 馬車で数日揺られて到着した村。

 人は少ないが、見るからに裕福な村で、広い敷地に大きく立派な家がたくさん並んでいた。

 なぜこんな小さな村がこんなに裕福なんだろうと不思議に思った。

 この村で生活させてもらえるのかと思ったが、この村でしばらく待っていれば貴族様の所から引き取りが来るらしい。

 孤児院と、受取人が直接顔を合わせないようにする中継所の様な場所らしい。



 孤児院の経営も大変で、受け入れ先の見つかりそうも無い、病気をした子や怪我をした子、素行不良の子達が突然消えている事があった。

 院長や先生は「受け入れ先が見つかった」と言っていたが、子供ながら流石に変だとは思っていた。しかし、まさか自分もそうなるとは思っていなかった。


 おそらく孤児院では私も「受け入れ先が見つかった」と言われているのだろう。


 院長が馬車から降ろした私を村の人に渡した後、何かを受け取っていたのを見た。何を受け取ったんだろう?


 ここから、貴族様の所にご奉公に行くとは聞いている。

 いつからいくのだろう?

 今日かも知れないし、数か月先かも知れない。

 さっき男たちは子供や女を拉致するのが大変とかよくわからない事を言っていた。

 拉致された子供もご奉公に行くのだろうか。


 そしてご奉公に行くのにもうすぐ死ぬ?

 よくわからない。何故私が死ぬの?

 最後の飯?奉公先ではご飯が出ない訳じゃないと思うけど。

 魔物に食われた方がマシってどういう事なんだろう?



 男たちが置いていってくれた食事は豪華だった。

 孤児院でこんな豪華な食べ物は出てきたことが無い。

 不味いわけでも毒が入っているわけでもなかった。

 単純に村が豊かだからお金が余っているのかも知れない。

 何故この村はこんなに豊かなんだろう?

 考えてもわからない。

 私は元々身体が弱く病気がちで食も細い。

 美味しい食事だったが半分も食べられず、ベッドに横になって寝てしまった。



 気づくと夕方だった。なんだか外が騒がしい。

 遠くで風の音がする?文字通り空気を切り裂くような風の音。


 これからどうなるんだろう………


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