6 偽物(鷹匠翼)
6 偽物(鷹匠翼)
翼は目の前の老いぼれ、持ち前の鷹のような鋭い瞳で鬼瓦訓練教官を見下すように睨んだ。
鬼瓦は返すように鋭い眼光をぎらつかせながら、沸々と強者のオーラを発し始めている。
武村戦士長には遠く及ばないものの、自分は帝王の血を覚醒させ、力に目覚めた。
目の前の醜い老いぼれ等、赤子の手をひねるかの如くである。
その自信を深めたのは他でもない、最強の戦士と称される新島彰敏副戦士長に褒められたことに起因する。
間違いない。目の前の醜い老いぼれは武村戦士長よりも遥かに足元にも及ばない程に弱い。
比べる事も失礼でおこがましい。あの時の武村戦士長は紛れもなく大将軍であった。
素直に敵わないと思った、と翼は小さく呟いた。
鬼瓦は所詮、用意された自分の踏み台ですらないとさえ、思い至り、華麗に剣を構える。
その動作は一流の師匠に付き、長年に及び培われたものだ。
「作戦は決まったか? それではこちらから行くぞ!」
鬼瓦は大将軍のオーラを纏い、木剣を構えた瞬間、翼の首にストンと当てようとした刹那、
翼は一歩引いた動作から一転、真剣で鬼瓦の手首を何のためらいも見せずに切り捨てた。
鬼瓦は己の右腕を失った動揺で、その場に崩れ項垂れていた。
その鬼瓦の首に翼は容赦なく剣を当てる。
勝敗は最早、誰がどう見ても決した。油断以外の何物でもなかった。
「腕が! 腕が! 腕が! 命ばかりは! 命ばかりはお助けを! それに私は大将軍だぞ! 無礼者が!」
いつしか鬼瓦は泣きわめいていた。こんな男が、天下の大将軍ではないと翼は吐き捨てた。
「偽物が!」
翼は剣を握る手を強める。この男は大将軍の名を汚した。
翼が夢見る大将軍とは、養父、武村戦士長のような存在だ。
あの圧倒的な強さと数多の戦場を駆け抜けた大将軍としての誇りの高さに憧れていたのだ。
目の前の老いぼれが、天下の大将軍とは認めたくはなかった。
「そこまでだ。余り、調子に乗るなよ」
老いぼれに剣を当てていた翼を新島彰敏が、物凄い剣幕で弾き飛ばす。
弾き飛ばされた衝撃で、翼は自分が何をしていたのかを理解した。
「新島様!」
新島彰敏はいつもの雰囲気ではなかった。初めて、尊敬する彼に怒られたのだ。
翼は力なく下を向く。
「確かにコイツは将軍の名と重みを汚した。
ハッキリ言って、てめえの言う通り偽物だ。だがな、お前は格下のコイツをいたぶる権利は持ってはいねえ」
新島彰敏は厳しい声音で、そう戒めた。
「私は……」
確かに自分は終始、相手を舐めていた。
相手を侮り、舐めていたぶる行為は許されるべきではない行いだ。
戦場では通用しないと言う事を言いたいのだと即答理解した。
「俺はお前みたいに自分の力を過信し、命を失った連中を数えきれないように見てきた。だが、勝負に勝ったのはお前だ」
新島彰敏はそれだけ言うと去っていった。
会場の皆は翼が大いなる力を開花させたことを知った。その中の一人に尊敬する父もいた。
今回はここまで
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