4 最強の戦士
4 最強の戦士
大将軍として、生意気盛んな偽の娘を一蹴した後、やれやれと言った風で、見下ろす余裕が武村にはあった。
「流石は戦士長様だな」
神経質で隙の無い風体の長身の男が素っ気ないパチパチという拍手と共に現れた。
「新島か。貴様、見ていたのか?」
新島彰敏。戦士隊、副戦士長にして最強と称される程の男だ。
その実力は武村を凌駕し、たった一人で4000人以上の戦闘力を誇る。
「残念だが、そのガキ相手に流血し、動揺して震えている様は見ていない」
新島は口が悪いが、武村との信頼は確かであり、強固である。
武村と新島は同期である。新兵の頃から、新島は凄まじい男であった。
究極生命体は一体倒すだけでも並大抵の苦労ではない。
新兵たちの七割は一体も倒せずに彼らの胃袋に収まる。
そんな地獄のような世界が待ち受けているが、新島は何と究極生命体を何百体も倒してきた。
並の兵士が討伐数平均7体ぐらいなのに。熟練の兵士でも20体倒せれば強者である。
破格の戦闘力を有するガイア帝国の勇者。新島は正に人類の希望であった。
ハッキリ言って自我を持たない究極生命体が一度に100体襲ってきても一瞬の内に彼は蹴散らすことが出来る。
だが、幾ら強くても究極生命体の核である神孝太郎博士を倒さなければ究極生命体は溢れ続ける。
それに自我を持つ五つの究極生命体、神孝太郎博士の始祖道、天道、暗黒道、刹那道、生命道は別格であるが。
「新島様!」
新島の存在に気付いた翼が、彼の胸に飛び込んだ。
そんな翼に新島はぶっきらぼうな顔をした。
「強くなったな……絶大な力を誇る戦士長様が、手傷を負わされたとはな」
憧れの副戦士長に褒められて翼は顔を赤らめた。
武村は忌々し気に新島を睨みつけた。間違いない、翼は新島を慕っている。
それは容易に見て取れる。最近の娘はイケメンに弱いらしい。
そして新島も才気あふれる翼を特別視している。
武村だけは知っている。新島も帝王の血を継いでいることに。
そして新島が力に目覚めた時の事は武村の記憶に忘れがたいものとなっていた。
武村は新兵の時にへまをして、究極生命体に殺されかけたことがある。
その時に新島はすさまじい力を発揮して武村を助けた。
どうやら、帝王の血筋の者は力に目覚めるきっかけは様々らしい。
新島は翼の祖父の子だ。余りにも身分の低い娘の子であるために臣籍降下したのだ。
境遇的にも新島は翼と似通っていた。
「翼は力に目覚めた。俺の副官に欲しいくらいだ」
新島は流石にも、翼が力に目覚めた事に気付いた様子であった。
だが、自らの副官にしたいという些か早い気がした。
如何に力に目覚めたとはいえ、いきなり副官になど到底容認できなかった。
「駄目だ。まだ早い。副戦士長の副官クラスだと最低でも千人将クラスだ。
それに兵士となるには訓練兵から始めなければならない。
鬼瓦訓練教官からの認定書が必要だ。俺の娘とはいえ、特別扱いは出来ない」
ハッキリと断じた。この娘は戦場の恐ろしさを未だ知らない。
訓練兵にもなっていない小娘など、究極生命体に命を刈り取られるだけだ。
しかし、翼が力に目覚めたことは事実。
実力だけ見れば凡百の兵士よりは遥かに抜きんでている。
本心では分かっている。自分は若い才能に嫉妬しているだけだ。
それに本当の娘ではない。所詮、偽の娘だ。特別扱いされる器ではない。
武村にもかつては娘がいた。眼に入れても痛くない大変可愛い娘だった。
だが、交通事故で妻と共に亡くなった。その悲しみは相当なものだった。
妻と娘を失った恨みを究極生命体を駆逐することで晴らした。
その結果、努力が実を結び、大将軍の地位に上り詰めたのだ。
もし、娘が生きていたら翼と同じくらいの年頃だろう。
そう思うと物悲しくなった。翼は本当の娘ではない。血の繋がりが無いのだ。
もし、翼が血の繋がった本当の娘であったなら、唸るような資金とコネで今すぐにでも将軍にしただろう。
ハッとして、武村は己の愚かしさを呪った。
――俺は何と心の小さい人間だろう。血の繋がりなど関係ないじゃないか。
翼を引き取る時、俺は無くした娘の分まで愛すと決めたではないか。
ならば、少しでも翼の意に沿えるように手配するのが父親の務めだ。
娘を疎ましく思う気持ちと、力に目覚めた娘に対しての期待。
武村の胸中で相反する気持ちが交錯する。
「分かった……鬼瓦訓練教官と仕合をして勝利したら入隊を認めよう」
「ほう……そいつは面白い!」
新島は愛想のない顔を面白くさせた。確かに翼は帝王の力に目覚めた。
だが、鬼瓦訓練教官は歴戦の猛者。王侯軍第三将として数多の戦場を駆けてきた。
勝てる道理はない。鬼瓦訓練教官とは王侯軍にいた時からの旧知の仲。掛け合ってみよう。
武村は言葉を濁しながら、渋々条件を提示した。
娘の顔がパッと明るくなって喜々とした表情を浮かべている。
鬼瓦訓練教官の実力を知らないで。
「ありがとうございます。父さん!」
そんな娘を武村は複雑な気持ちで撫でた。