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38 結末

 38 結末



 宮殿内に討ち入り、始祖桜華の先兵を武村と新島は難なく屠っていく。

 大将軍以上の力を持つ二人に取っては有象無象、豆腐の様に斬撃で切り刻む。

 そして遂に始祖桜華が待つ大広間まで辿り着いた。

 既に先に突入していた翼は何やら、始祖桜華と談話していた。

 宝玉が鏤められた玉座に足を組んで座り、長い黒髪を編み込み、鷹のような鋭い瞳、これがガイア帝国の始祖……。


「翼君、君のお仲間が来たようだね。彼等にも私の目的を聞かせようか」


 始祖桜華は饒舌に軽い言葉を使う。武村から見た始祖桜華は正に小娘であった。

 こんな可愛らしい見た目の女性が、ガイア帝国を一代で建国した始祖桜華なのかと、愕然として開いた口が塞がらなかった。

 そし玉座に佇む始祖桜華の両脇で、二人の側近が此方を見据えている。

 右に控えるのは武村の昔なじみの『生命道』光の軍師、平城御言。

 左には漆黒のローブを纏い、フードを深く被って様子が伺えない。

 しかし、武村は知っていた。新島が倒した『天道』最上級大臣王土日向直属の部下『闇軍師』。


「始祖桜華! この期に及んで対話など論外だ。俺が切り刻んでやる!」


 猛った新島が殺気を迸らせて、始祖桜華を威圧する。だが、始祖桜華は何処吹く風だ。


「君が新島君だね? あまり犬のように吠えるなよ。弱く見えるよ」


 始祖桜華はニコリと笑顔で微笑んで新島をあしらう。

 それを見て、新島は歯軋りをして苦虫を噛み潰したようにしていた。

 それは武村とて同じ。始祖桜華の佇まいに調子が狂うからだ。


「さて……私がガイア帝国の始祖桜華だ。

 弱者を虐げ、強き者達が謳歌する世を作る事だ。

 君達、三人はその条件を満たしている。私と共に来い。

 栄えある新生ガイア帝国の貴族として迎え入れよう」


 始祖桜華は自分たちを取り込む気だった。彼女の最期の目標は天界へと征服することだと翡翠から秘密裏に聞いた。

 戦力を少しでも得たいのだろう。これまでに五つの究極生命体の大半が倒れた。

 これ以上は配下の消耗を防ぎたい。そんな意図が見え隠れする。

 始祖桜華……可愛らしい見た目と反して、先を見据えた大局観は流石だ。

 伊達に世界を征服していない。自分たちの上を行く機知。


「愚問だな……俺達はお前には屈しない。

 お前を倒し、皇帝陛下の実の妹君である鷹匠翼を帝位につかせ、善政を敷いて貰う。

 お前はいらない。神々が住まう聖域である天界侵攻は絶対に許さない! まずは俺が、露払いとして攻めるぞ!」


 武村は一歩前に出て、漆黒のマントを翻し、背中の魔剣を手に構える。

 翼と新島に目線で、まずは先陣を切ると言う意思を伝え、指示する。

 そんな武村を始祖桜華は虫を見るような不快な表情で、こてりと首を傾けた。


「愚民共が……神々を超えし超越者である私に刃向うとは愚かな。

 この始祖桜華に楯突いた罪は万死に値する。ゆけ! 闇軍師君! 君の出番だよ。武村君を削除するんだ」


 始祖桜華が可愛い見た目とは裏腹に強気な物言いで指示を飛ばした。

 玉座の左に立つローブを纏い、フードで表情が伺えない青年が、武村の前に立つ。

 闇軍師……闇の暗黒力を溢れださせ、その身に纏う。伝説の闇の衣だった。

 伝承で伝えられる闇の衣とは、あらゆる耐性を持ち、ダメージを通さない最強のブースト。

 まさか、こんな局面で最強と呼ばれる闇の衣を纏った戦士が自分と相対するとは武村は思いもしなかった。

 それに彼は『天道』王土日向の直属の家臣だった。武村たちに復讐の一撃を食らわしたいであろう。

 そう思うと身震いする。彼の怒りのエネルギーは凄まじく。その場を震わせ、鳴動するような殺気が滲み出ていた。


「良くも我が主君、王土日向様を! 貴様らは死刑だ。

 私が偉大なる始祖桜華様の先兵として、削除してくれよう。

 我が名は闇軍師! 莫大なる闇の力の全てを味合わせてくれよう!」


 武村は意に返さずに闇軍師を一刀両断しようとしたが、闇軍師の身体に纏う闇の衣は切れず、手ごたえも無かった。

 これが、闇軍師。同じ闇使いでも、付け焼刃の元訓練教官、鬼瓦とはまるで違う。


「フッ! 私の闇の衣は全てのダメージを軽減する最強のブースト。

 今度は此方から行くぞ。邪悪なる暗黒竜!」


 竜の形を模した暗黒の炎が、猛然と迫り、武村を火あぶりとする。

 極大暗黒系魔法。鬼瓦ですら到達出来なかった人跡未踏の極致。

 この若者は老境に至った鬼瓦を遥かに超越するのかと、武村は顔を歪めて苦悶する。

 武村は全身から覇気を迸らせ、やり過ごした。再び、剣を構えて、闇軍師を見つめる。

 目の前の青年は思ったより、強いと思った。

 闇軍師……表情が伺えないが、武村の勘で、新島や翼と同じ強さを感じた。

 もしや、帝王の血脈なのではと、推測を立てた。ならば聞いてみるしかない。


「お前は皇帝陛下の血族だろう? 何故始祖桜華に従う?

 お前が翼の兄ならば、妹を大事にするべきだろう。

 今からでも遅くはない。魔道の道から引き返し、妹やガイア帝国の民を守るべきだ」


 武村は戦闘による敵の撃破よりも、対話を持って、解決に至る方向へ切り替えた。

 その言葉にハッとした表情を浮かべた闇軍師はフードを取る。

 それは翼や桜華の面影を感じさせ、誰もが傅く鷹のような瞳を持っていた。

 瞳から後悔の涙を浮かべている。隷属の腕輪は王土日向が死んだことにより、効力は失っているからだ。


「私は……僕は実はそこにいる翼と桜華の実の兄です。

 こんな戦いは無意味です。始祖桜華様、無駄に殺しあって何の意味があるんです。

 私は武村殿のお蔭で目が覚めました。翼を守る為に彼らに付きます」


 まさかの勧誘が成功してしまった。武村は心の内でほくそ笑む。

 やはり、何よりも対話が重要であった。翡翠からのアドバイスだ。それに救われた。

 まともに戦えば火を見るより明らか。戦わずに勝つのが最上の策。当り前の言葉だ。自らの交渉術に酔いしれる武村。


「翼……今度は兄さんがお前を守るからな」


「兄上……」


 突然の姉弟の邂逅に翼は抱擁を交わす。それを新島と武村は微笑ましく見つめていた。


「じゃあ、そう言う事で。私も武村たちに付きます。解毒剤飲んじゃいますね」


 平城御言は解毒剤を飲み、あっさりと此方に寝返ってしまった。

 後は始祖桜華のみ。彼女を納得させる言葉が見つからない。始祖桜華は確固たる信念で生きているからだ。

 新島と翼の視線が突き刺さる。武村が説得に失敗すれば始祖桜華との戦闘が待っているからだ。


「始祖桜華。もう良いだろう? お前の野望に付き合う者はいない。

 実力や恐怖で従えても、それは一時的なものに過ぎない。

 お前は過去の遺物だ。始祖桜華よ、もう安らかに眠れ。

 棘だらけの人生はもう終わったのだ。お前が築いたガイア帝国は俺達が永久に守る」


 武村のその言葉に始祖桜華は何かを悟ったような穏やかなものへと変わる。


「……そうか。我が子孫たちは皆、立派に育ったのだね。

 私は千年前の人間だ。存在は許されない。先に死んだ王侯君だって寿命は尽きたのだ。

 私は過去の遺物だ。この身体を桜華に返そう。

 暗愚な娘だったが、私の持つ力の一部を残してあげる。

 さらばだ。始祖桜華は皆を何時でも見守っている」


 始祖桜華がそう呟くと、身体が不思議な煌々とした眩い光に包まれる。暫くすると、元の桜華に戻った。

 武村を始め、皆がその光景を瞑目し、静かに見届ける。そして、ここに五百年戦争は終わる。

 五百年に渡る大規模な戦乱の歴史を閉じたのは、武村達であった。

 新生ガイア帝国は武村たちが始祖桜華より力の一部を貰った桜華を盛り立て、その歴史を永遠に結ぶ。




 END

これにて完結となります。

読んでくださりありがとうございました。

ローファンタジーは難しいと感じました。

次回作でお会いしましょう。

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