34 降臨(王土日向)
34 降臨(王土日向)
突然の王土の民の反乱により、帝都は阿鼻叫喚の嵐となっていた。
活気づいていた帝都の町並みは瞬く間に炎に包まれ、戦果に見舞われた。
民たちは今まで虐げていた王土の民から逃げ惑うしかない。
王土日向は帝都の窓から、同志である一万五千の志願兵が、暴虐の限りを尽くすのを見て悦に浸っていた。
長年虐げられていた王土の民が、真っ先に矛先を向けたのは名門、鷹匠家であった。
鷹匠銀翼は三千の兵でゲリラ戦を行い、徹底抗戦したが、捕らえられ、天道である日向自ら食べた。
鷹匠麗花は、処刑台に送られ、明日、公開処刑する予定であった。
――今日でガイア帝国は滅亡する。
日向はそう思い、グラスに注がれた液体に注視する。
日向が今持っているのは始祖桜華の魂が宿る秘薬。
この秘薬を子孫である桜華に飲ませるだけで始祖桜華が憑依して復活するのだ。
桜華を亡き者にした後、王土帝国の運営は自身である日向と、神博士、そして始祖桜華による合議制にする予定だ。
何故わざわざ始祖桜華を復活させるのかと言えば、大帝国であるガイア帝国を治める蓄積……所謂ノウハウが無い為だ。
復活させた事で彼女に恩を売り、彼女のカリスマで帝国の舵取りを任せるためであった。
そうと決まれば早かった。日向はグラスを手に、宮殿に赴き、昼間から酒を煽る桜華に跪き、形だけの礼を取る。
「桜華様、最早ガイア帝国は風前の灯火です」
ハッキリとそう言い、日向は怪しげな液体が入ったグラスを桜華へと献上する。
目の前に差し出されたそれを桜華はキョトンとしてグラスを手に持ち、日向に尋ねる。
「これはもしや、毒では? 日向! 私を害そうとするのか?」
桜華は普段は機微に疎い。だが、危機的状況の中、危険だと察知して叫ぶ。
しかし、非情にも日向は耳を貸さない。
「陛下……暗愚なお前のせいで帝都の民は苦しんだのだ!」
日向は大勢の取り巻きの文官たちに目線で指示を出し、桜華に無理やり飲ませた。
途端に桜華の身体が光に包まれる。煌々とした光に包まれた桜華の眼が猛り、猛禽のようなものとなる。
伝説に違わぬ始祖桜華がその場に降臨した。
「我が名は始祖桜華。世界を制する者。この世は全て我の物」
始祖桜華は玉座から立ち上がり、辺りを見回し、日向と取り巻きの大臣達を見つめる。
「始祖桜華様。最上級大臣、『天道』王土日向にござります。貴方様の覇道をお支えします」
日向はサッと跪き首を垂れる。噂通りの御仁だった。紛れもなく伝説の始祖桜華。
長い黒髪を編み込み、女性にしては長身。鷹のような鋭い瞳は全てを平伏し傅けるものだった。
これが始祖桜華……日向は問答無用で忠誠を誓う。
「ありがとう! 日向君。此方こそよろしく頼むよ」
始祖桜華はニコリと笑顔を作り、日向へと微笑んだ。日向は顔を輝かせた。
初めてだった。自分が、首を垂れ絶対の忠誠を誓う存在が。
「大元帥武村が長女。『刹那道』翡翠にござります。始祖桜華様」
次々と始祖桜華に忠誠を誓う神博士一派が到来を告げる。
「『暗黒道』鬼瓦です。始祖桜華様は御奇麗ですな」
翼に苦汁をなめさせられた訓練教官の鬼瓦は坊主頭を剥げ散らかして『暗黒道』を継承していた。
鬼瓦が変わり果てたのは全て、翼への復讐心だった。執念深さは誰よりもある熟練の手練れだ。
「『生命道』平城御言。始祖桜華様だー!」
天真爛漫な平城御言は始祖桜華を目の前にしてもいつもの雰囲気を崩さない。
緊張感が無さすぎだと、日向は心の中で吐き捨てた。
「『始祖道』神博士と申します。貴方様を主上と崇め、覇道をお支えします」
最期に挨拶したのは全ての元凶、神博士。これで全ての五つの究極生命体は集まった。
始祖桜華は玉座に座り直し、足を汲んで五人の部下を値踏みしている。
日向は些か緊張を催した。主上……始祖桜華様は楽しそうに微笑んでいるが。
「始祖桜華様、現在の状況を簡潔にお伝えします。
ガイア帝国は千年もの間世界に君臨していました。
しかし、政治が乱れ、腐敗が進み、今やガイア帝国は砂上に浮かぶ楼閣にございます。
我々、王土の民はガイア帝国に反旗を翻し、今、ガイア帝国の制圧に成功しました。
始祖桜華様には新生王土帝国の帝として君臨して貰いたいのです」
日向はかなり怯えた様子で始祖桜華に事の顛末を説明した。
ガイア帝国を滅ぼしたのを伝えるのは怖かったが、持ち前の話術で、上手く説明をした。
「……そうか。我が子孫が愚かだった。
そしてガイア帝国は滅んだか。別に良いよ。これからはもっと素晴らしい楽園を築こうよ」
始祖桜華が気にしてなくて日向はホッと胸を撫でおろし、顔を綻ばせる。
「これからの方針は強き者達が特権階級にいる身分制度を作ろうと思う。
強さの基準でCランク以下は家畜……平民だ。それ以上が貴族として君臨する。
君たちはAランクだから、安心して良いよ」
味方とは言え、始祖桜華の言葉に戦慄が走る。
この少女は自らの国民を家畜と宣ったのだ。人を見下す傾向にある日向でもゾクっと体を震わせた。
これに反対の意を示したのは、戦闘能力の低い文官たちだった。
ざわざわと彼らは騒ぎだす。それを始祖桜華は虫を見るかのような目で見下す。
「愚民共が……世の中は力こそが全てなのだ。
知勇兼備でないと貴族とは言えないよ。下世話な愚民共」
始祖桜華は掌を大臣の一人に向け、闘気を帯びた弾丸が弾け、運動不足な大臣の心臓を抉った。
正に力で持って家畜を蹂躙し、跪かせる始祖桜華の矜持に日向は静かに目を閉じた。




