32 総崩れ
32 総崩れ
遂にガイア帝国決戦が巻き起こった。神博士一派と武村率いるガイア帝国軍。
総力戦が幕を開けた。最初はガイア帝国軍有利との戦況が展開する。
武村は丘の上に陣取り、采配を振る。先鋒隊、翼の軍に増援部隊を送り、兵站を築いていた。
視力が常人の倍もある武村は翼が剣で究極生命体を難なく豆腐の様に切り裂いていくのを見て末恐ろしく感じた。
究極生命体は強い。更に始祖道である神博士は無尽蔵に究極生命体を操り、逐次投入をする。
だが、翼一人で千人の究極生命体を屠るのを見て、やはり始祖桜華の血脈が脈づいているのだと判断した。
「勝てます! 勝てますよ! 大元帥閣下」
武村の隣で副官の真面目そうな表情を崩した至理は狂喜する。
至理は有能な後任の副官だが、前任の副官である新島よりは数段劣る。
確かに至理の言う通り、一騎当千である翼の活躍によって、戦況は一方的に此方に傾いている。
「ああ、至理よ! 我々の勝ちはほぼ確定したと言ってもいいだろう。
よし! この機に乗じて、一気に敵を駆逐する。全軍に総攻撃の狼煙を挙げよ!」
武村は椅子から立ち上がり、総攻撃の狼煙を挙げさせた。モクモクと本陣から煙が立ち込める。
ガイア帝国軍は二十万の兵力で進撃した。進撃のガイア帝国軍。
だが、その時だった。青空に煌々とした七色の光が走った。
何とも不思議な光だった。まるで輝く流星のような光……武村は幻想的な光にハッとした。
あれは武村が十年前……自分達親子を捨てた父が、死に際に放った一言。
『剣太郎よ……お前達ガイア帝国の栄華は長くはない。
我々、王土の民の叡智は国一つを滅ぼす事が出来る太古の兵器を開発中だ。
それが、一度行使されればガイア帝国軍は一瞬で全滅だ。束の間の平和を味わっておくのだな』
父の死に際に放った一言が脳裏に過った。
あれが、父の言っていた平気であるならば、ガイア帝国は終わりだ。
油断だった。博士は誘き出されたのだ。その時、帝都からの急使が武村の元へと跪いた。
「報告! 帝都にて王土の民の一派が反乱を起こし、帝都を急襲しております!」
急使の報告により、ガイア帝国は窮地に立たされていることを知った武村は愕然と項垂れる。
博士がこの決戦に乗ったのはガイア帝国軍全軍を誘きだし、がら空き寸前の帝都を奪取する事だったのだ。
――謀られた! 流石は王土の民の英傑!
武村は博士の思惑が、自らの創造を超えていたのを知り、絶望する。
そして、絶望の余韻に浸ることも許さずに夜空に輝く光のエネルギーが拡散し、武村の視界は真っ白になった。