3 偽の娘
3 偽の娘
武村戦士長は皇帝陛下の双子の片割れである鷹匠翼を引き取った。
それから程なくして皇帝陛下は崩御され、武村が引き取った鷹匠翼の片割れが、即位した。
武村は鷹匠翼に英才教育を施し、剣術、座学、格闘術、語学、軍略を全て叩き込んだ。
そのおかげで翼は部隊長クラスの力が備わった。
スポンジが水を吸うかのような何でも吸収して行く様は流石、貴き血脈の神髄を垣間見た。
ある日、翼は武村に挑発的な言葉を投げ出した。
「戦士長、本気でお相手して下さい。私が勝ったら、戦士団への加入をお許しください」
戦士団本部の演習場で、鷹匠翼は歴戦の勇士であり、偽の父である武村に強気な物言いで剣を向けた。
皇族特有の鷹のような鋭い瞳が、真っ直ぐと武村を射抜く。
「大きく出たな。十二歳の子供が、この大将軍であり、武村戦士団の戦士長である私に刃向うとは笑止千万」
武村は生意気な娘を睨み返すと、短剣を手に持ち、それを流れるような動作で静かに構えた。
咄嗟に相対する翼は身構えた。戦士長が放つ威圧に翼の顔から冷や汗が滲み出た。
「生憎、これ以上、低ランクの武器は持ち合わせていなくてな。生意気な偽の娘には相応しかろう」
武村は自分に刃向う娘を逆に挑発して返した。
――生意気な。子供の分際で私に刃向うとは……!
娘の剣を握る手が強張り、震えている。
やはり、まだ実戦経験のない子供に過ぎないか、と武村が瞑目した次の瞬間、
偽の娘の剣を振るう手の震えが止まったと同時に凄まじい速度で踏み込み、一閃。
「何!?」
稲妻が走る程に恐るべき冴え。少女の振るう剣が、武村の頬を僅かに掠めた。
頬から流血が演習場の地面に滴り落ちる。思わず我が目を疑った。
武村は悟った。帝王の血が覚醒したのだと。
翼の普段の力と今の力を天秤に賭けるのは意味が無い。
子飼いの将を育てるつもりだったが、ライオンに首輪をつけているようなものだった。
だが、武村とて、究極生命体を幾度も地獄に送って来た。
その中にはかつての仲間もいる。
帝国ガイアの将軍として幾多の味方を失い、幾万の敵を葬って来た。大将軍としての矜持がある。
未だ戦場を知らない子供に思い知らせてやる必要性があるのだ。
「貴様は演習場での私しか知らない。俺は大将軍だ。戦場に夢を見るお前に俺に勝てる道理はない!」
武村は鋭く踏み込み、神速の如き速度で短剣を翼の心臓部を掠める。
翼は対応が追い付かず、その場に尻もちを付く。
「弱い!」
その後、翼が落とした剣をすかさず手に取り、振り下ろし、わざと外す。
大将軍が放つ剣圧が翼の心の琴線に触れ、勝てる道理はないと彼女は悟ったように呆ける。
自身の状況を理解した翼は、
「参りました」
素直に頭を下げた。先程までの生意気な彼女はもうそこにはいなかった。