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22 王侯陣営(王侯将星)

 22 王侯陣営(王侯将星)



 王侯はガイア帝国外れの平原で陣を構え、自らを討伐する相手を迎え討つ為に軍を敷いた。

 自分への千年にもわたる恩義を捨て、追放した事への激情が煮えかえっていた。

 それを行ったのが、幼い時から目を掛けてきた武村だと知り、悲しみを堪えた。

 大元帥となった武村の言い分は次のとおりである。


『王侯将軍はガイア帝国の完全支配を成し遂げた英雄であり、千年にも及ぶ戦歴と軍才は他の追随を許さない。

 しかし、五百年間かけても神博士一派を倒すことは出来ない事は紛れもない事実である。

 よって、王侯将軍は大将軍の地位を召し上げ、追放とする』


 大元帥となった武村の沙汰は思いの外、厳しかった。

 あれだけガイア帝国への忠義を示し、千年も戦い続けた。

 よりにもよって教え子であり、我が子同然と可愛がってきた武村に追放処分を言い渡されるとは。

 王侯は激しい憤りを感じるふりをしていた。王侯の思惑は全く別の所にあった。


 ――武村……今まで目を掛けてきた恩を忘れおって。

 だが、これも私が思い浮かべる最高のシナリオへの序章に過ぎない。


 しかし、私怨で戦を起こしてはならない。それは戦のルールである。

 大きな戦をする為には誰もが納得する大義名分が必要なのは子供でも分かる。

 ならばと、王侯は自らの軍に所属している大総統の御令嬢、鷹匠麗花に目を付けた。

 そう、皆が知っている大総統が娘可愛さに将軍の地位を買い与えた小娘である。

 将軍としての力が無い為、役に立たないが自らの軍に所属しており、大総統の娘であることから無下にできない存在であった。


 ――役立たずと思っていたが、この局面において彼女の存在は大きい。


 鷹匠麗花は皇族の血縁であり、今の暗愚な皇帝を廃して皇帝の位につける正当性は十分であった。

 余り賢くない為、神輿として担ぎ上げやすい事も大きかった。

 そう思った王侯は天幕に鷹匠麗花を招き入れた。見目だけは良く、壮麗なお嬢様である。

 冷たく輝く瞳を不安にさせて麗花は天幕へと入って来た。


「鷹匠麗花……いや、皇帝陛下。我らの帝よ。

 これよりガイア帝国を滅ぼし、新たなる王朝を築き上げたいと思います。

 全て、この王侯にお任せを。何も心配することはありませんぞ。陛下……」


 何も心配はいらないと麗花を安心させつつ、大仰に跪いて傅いた。

 王侯が跪くのを前にして、麗花は身体を小刻みに震わせてから、


「私の役目は皇帝陛下ですか。

 恐れ多き事なれど、今のガイア帝国の惨状は都で目にしていました。

 今の暗愚な皇帝陛下では世はまとまりません。

 それは子供の私でも分かります。ならば致し方ありません……」


 麗花は目を伏せて、帝国の窮状を吐露した。

 王侯は麗花が思いの外、感化されてきたことに内心でほくそ笑んだ。

 この娘は影響されやすく思い込みが激しい。

 神輿として担ぐには打ってつけな娘だと王侯は内心で彼女を愚弄した。

 更に情報を何よりの価値と見出す王侯は鷹匠麗花が、農耕奴隷の母を持つ事を知り得ていた。

 王侯の筋書きは、麗花を持ち上げて陛下と。

 心地の良い言葉を囁きつつ、最後の最期で彼女に農耕奴隷の血を引いていることを教える。

 きっとこの娘は絶望するだろう。高貴な名門貴族である鷹匠家の令嬢として我儘放題に育ったのだから。

 自分が偽りのお嬢様だと知った時の彼女の顔を是非とも、いや絶対に見てみたい思惑があった。

 王侯は人が幸福の絶頂にいる時に、最高のタイミングで絶望を与える事が生き甲斐であった。

 軍神と謳われる王侯だが、かなり歪んだ嗜好の持ち主である。


「陛下、貴方様は何もしなくても、この王侯が万事手配いたします」


「全てお任せします。王侯……」


 こうして麗花を担ぎ上げ、戦を始める準備を王侯は整えた。


 ――ふん、思い込みの激しいお嬢様め。神輿は軽い方が良い。


 王侯は心の中で麗花に対して悪態を付きながらも大仰に跪いて見せた。

 それを悟らせない王侯は心を閉ざす術を身に着けているためだ。

 本当は小娘などに従うのはプライドが許さなかったが、それでもひたすら我慢した。

 全て表向きは反乱と見せかけたお嬢様の転落と言う、歪んだ嗜好の王侯が望むシナリオの為に。

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