2 とある双子の片割れ
2 とある双子の片割れ
武村は戦士長としての責務を全うする毎日を送っていたが、暇を与えられて帝都に戦士団を連れて戻って来た。
英雄の凱旋に沸き立つ帝都。武村は国民の希望だった。
武村戦士長の名を聞いただけで、賞賛が巻き起こる。
この後、武村は戦士団、駐留兵団、近衛兵団、
王侯軍の四つの兵団を束ねる鷹匠翼徳大総統にお呼ばれを受けていた。
鷹匠翼徳大総統は今の皇帝の外戚である。大総統の邸宅は、帝都の中心街にある。
鷹匠邸の敷地内に入ると、建国の英雄である初代皇帝の銅像が立っていた。
始祖桜華……一代で世界制覇を成し遂げ、ガイア帝国を築いた女性。
始祖桜華の銅像を見上げて、武村は自分がガイア帝国の大将軍である事を誇りに思った。
鷹匠翼徳は皇族への忠誠心の高さで有名である。
自分の娘を皇族に嫁がせて皇帝の外戚に成ることに成功した。
応接間に通された武村は大総統と対面した。
「どうぞ座り給え」
「はい」
鷹匠翼徳大総統はオールバックの頭に整えられた髭を生やしている。
大総統に促されて椅子に座ると給仕が淹れた紅茶が差し出される。
「それで要件とは?」
「他でもない陛下の病状が悪い」
それは武村でも把握している情報であった。
皇帝、華雄は幼い子供を残して危篤に近い状態なのは一部の上層部には知れ渡っている。
愛国心の強い武村は帝国の行く末を憂う気持ちが人一倍強かった。
「そこでだ。陛下には双子の娘がある。だが、陛下が崩御されれば、どちらかの皇女が世継ぎとなろう。
だが、余計な混乱を招く恐れがある為に秘密裏に双子の一人を私が匿った」
鷹匠の言葉に武村は言葉を失った。
その時だった。応接間に一人の娘が顔を出した。
皇帝陛下の面影を残した娘。まだ幼い。だが、皇族に連なる者特有の品の良さがあった。
艶のある黒髪のショート、鷹のような鋭さを持った瞳。間違いない。陛下の娘に相違ない。
「陛下の子が、こんな所に」
恐れ多い事である。貴き血脈である皇帝陛下の子をこの眼で見れることは。
思わず、武村はその場で跪いてしまう。帝国臣民が皇族を見れる機会はそうそうない。
「跪かなくてよい。これより、此方におられる翼様はお主が育てよ。
皇位継承者が二人も、それに顔が同じ双子ならば、余計な混乱を招く。
それを防ぐために、国の英雄であるお主に立派な戦士に育てて欲しいのだ」
大総統は、そう言い深々と武村に頭を下げ、武村は大総統の言葉に言葉を失った。
自分如きが、皇族の娘を育てることが出来るのかという懸念があった。
だが、皇族は力に目覚めた時、常人を遥かに超える力が備わっている。
将来、自分の子飼いの武将を育てておけば憂いが無い。
「皇女殿下。いや、鷹匠翼よ。私と共に来い。最強の武将に育てて見せよう」
そういって、武村は手を差し出した。
「よろしくお願いします」
翼は鷹のような鋭い眼で、武村を見据え、その手を取る。
――皇室育ちの木偶の癖に……何という猛った眼をするというのだ。
武村は一抹の戸惑いを覚えながら、翼を最強の武将に育て上げる事を誓った。