18 仲直り(鷹匠翼)
18 仲直り(鷹匠翼)
宮殿の隅の末席で、翼は喜びを抑えきれずにいた。
尊敬する父が、軍事の最高司令官である大元帥の地位に上り詰めたからである。
それがどれだけ凄い事かはまだ掴めず、千人将である翼には果てしなき道のりに見えた。
これから翼は大元帥の娘となるのだ。早く将軍となって父の力になりたかった。
戦いの大天才である父の剣となり、いつか父に認めてもらうのだ。
そう思うと居ても立ってもらえず、宮殿の隅で素振りを始める翼であった。
しかし、幼い時に生き別れた姉とは合わなそうだった。
姿は自分と瓜二つで鏡写しの様だが、自分達姉妹の鷹のような鋭い瞳が輝きを失っている。
そして極めつけはガイア帝国の皇帝である筈で一番偉い立場なのに、臣下に実権を握られ、愚者のような振る舞いで滑稽だった。
それでも自分の姉には変わらない。愛情はある。話がしたい。だけど遠く感じた。
そんな姉への思いを綴っていると後ろから若い娘の声がした。
「翼……ごめんなさい」
突然声を掛けられて振り向いたら、あの騒動の立役者、鷹匠麗花が立っていた。
翼はこの娘を快く思っていなかった。
ガイア帝国軍人である誇りも捨て究極生命体に魂を売り払い、人間の振りをして翼を騙していたのだ。
しかも、将軍の座も肩書も全て、この娘を異常に溺愛する金と権力を持つ父親のおかげ。
この娘は何も自分で成したことが無いではないか。
そして挙句の果てにはあの新島彰敏副戦士長……人間最強であり、皆の憧れである存在を手に入れようとしたのだ。
許せない事だった。父親の権力に縋ってまで目的の物を手に入れようとするとは翼の矜持とは合わない。
「貴方は何も自分で成したことが無い……。
全て偉大な父親が用意した地位と名誉と生まれ持った家柄。
貴方は一体、一つでも自分の力で成したことがありますか?」
物凄い剣幕で麗花の顔を覗き込んだ。麗花は目を瞑って否定はしない。
意外にしおらしいではないか、と翼は思った。
「本当にごめんなさい。私は愚かでした。
貴方達に救われたあの日から後悔ばかりでした。貴方には謝らなければならないと思って……」
麗花は深々と頭を下げた。あのプライドの高い超名門貴族のお嬢様が只の娘に頭を下げる。
以前の麗花だったら考えられない事である。翼はやれやれと言った様子で手を差し伸べる。
麗花は一瞬戸惑いつつ、その手を優しく握った。
流氷が解けるように両者の和解が成立した。だけど新島を……憧れの存在をそう簡単に渡す気はない。
「だけど、新島副戦士長をそう簡単に渡す気はないから」
「ええ、だけど、既に新島様に告白に近い言葉を言われたし」
二人は新島を巡って火花を散らせた。そんな二人を新島が遠くでやれやれと眺めていた。
そのことに二人は知る由も無かった。