17 武村の過去
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17 武村の過去
武村は正式にガイア帝国軍大元帥となった。
ガイア帝国の中で武村が大元帥となるのを反対する声は何処にも無かった
軍備再編の為の任命式は宮殿で行われ、主な武官や文官は全員帝都に集められた。
宮殿は贅を尽くされた造りで、とても究極生命体との戦いで国力を低下させているとは思えなかった。
「これより任命式を始める!」
つまらなそうに玉座に座している翼と瓜二つの少女……ガイア帝国皇帝桜華の隣にいる娘に皆が注目した。
鳶色の髪と瞳を持つ理知的な少女は十三歳ぐらいの年頃だが、この場を仕切っている……いや、支配していると言った方が正しいだろう。
――鳶色の髪に瞳……王土の民か。
忌まわしき脅威……神孝太郎博士も王土の民として知られる。
だが、不思議なことに王土の民は全く差別されていない。
それは王土の民が圧倒的な知能を持つからだ。
最早、王土の民の知恵が無ければ国力を維持できないとまで言われる程に王土の民が優秀だからだ。
何を隠そう、武村も僅かに王土の民の血を受け継いでいる。
父が、王土の民の末裔だった。家族は幸せに暮らしていたが、ある日、平和な日常は音を立てて崩れた。
神孝太郎博士の魔の手が及び、父が反ガイア思想を植え付けられたのだ。
生粋のガイア帝国民であった母と武村は捨てられ、父は神孝太郎一党の幹部となったようである。
武村が三歳ぐらいの頃の話しである。
――そうだ。俺は父を取り戻すために将軍を目指したのだった。
目の前で仕切っている理知的な王土の民の末裔の少女を見ながら過去を思い出した。
母と自分が王土の民の末裔である父に捨てられた時に母は大泣きした。
そしてまだ幼い武村に言ったのだ。何故か、あの時の母の言葉が鮮明に覚えている。
『剣太郎……私たちが捨てられたのは全て、神孝太郎のせいだ。
アイツを殺しさえすればお前のお父さんは帰ってきて、私達親子三人で暮らせるんだよ』
その母の言葉を今でも武村は時々思い出す。武村は母の期待に応えて父を取り戻すために訓練兵に志願した。
だが、幼少の武村は落ちこぼれだった。王土の民の血を僅かに引いていた武村は座学はトップだった。
しかし、それ以外はまるで駄目。模擬戦闘も射撃訓練も、格闘術も体力もまるで駄目だった。
当時の教官から戦士としての資質が無いとハッキリ言われた。
そんな武村はある少年と出会った。
優雅な佇まいを見せながら、意外に粗暴で口の悪さが相反する何とも言えないような不思議な少年だった。
有名だったので名前はすぐに分かった。新島彰敏……訓練兵の中でも最高の逸材だと周囲から絶賛されていた。
訓練兵になってから、成績を常に一位をキープする程の天才。
興味を持った武村は新島に声を掛けたが、新島は怖い表情を見せるだけだった。
新島は武村にまるで興味が無かったのかもしれない。
武村は天才の新島に張り合った。新島に……彼のいる遥か高みに頂に立ちたかったのかもしれない。
そんな時、武村を変える転機が訪れた。
ガイア帝国の英雄である王侯将軍が特別講師としてやってきたのだ。
講義が終わった帰り、誰もいない廊下で勇気を振り絞って王侯将軍に話しかけた。
『お主……王土の民の血を引いておるな。これは面白き逸材……』
王侯将軍は武村が王土の民の血を引いているのをすぐに看破した。
それから武村は王侯将軍と交流を持つことになった。
王侯将軍は武村に独自のトレーニングメニューを課した。
筋力トレーニングで、武村は六尺を超える程にガタイが良くなり、精悍な面構えとなった。
そして初めて新島を抜いて成績がトップになり、さらには訓練兵会長にも当選した。
周囲の見る目も変わり、新島も武村の存在を認知するようになった。
その後も新島とは成績トップ争いを演じて、お互いに意識しあった。
いつしか、武村は訓練兵の皆の兄貴分となっていた。武村も随分と頼れる男を演じた。
屈強な肉体を持つ、皆を纏める頼れるリーダーという社交性仮面を身に着けた。
その後も本来の自分を押し殺して頼れる完璧な男を演じた。
武村は一人の少女と恋仲になった。平城御言……不気味な出で立ちの少女だった。
フード付きのコートを着て、不思議としか言えない存在。
それぞれ性格がバラバラの武村、新島、平城御言はいつしか信頼しあえる仲となり、将軍の座を目指して共に歩んできた。
武村は見事、首席で卒業する栄誉を得た。母は涙を流して喜んだ。
『貴方は私達の誇りよ。親子三人で暮らせる日も遠くはないわ』
母の感激した言葉に武村はさらに自信を付けた。
御言は訓練兵を卒業し、王侯軍に入って二年目の途中で生死不明となったが、武村は悲しみに浸っている余裕はなかった。
早く将軍になって神孝太郎博士を倒して父を取り戻し、親子三人で暮らすという目標があったからだ。
御言が生死不明となって三年後、武村は将軍となった。
それも王侯将軍の側近の一人に連なる。そこに新島もいて、後に訓練教官となる鬼瓦もいた。
ある日、それは唐突に起こった。大規模な遠征の時に五つの究極生命体となった父が武村の率いる軍の前で立ち塞がったのだ。
『父さん!』
在りし日の父の顔を思い出して、武村は父に将軍となった事を告げた。
父は『暗黒道』を継承しており、敵意剥き出しで襲って来た。
『王土の民を虐げた屑どもめ……お前達親子など俺の汚点でしかないわ!』
武村は父の言葉に愕然とした。
神孝太郎博士を倒しさえすればまた親子で暮らせると思っていたのは幻想であった。
親子で血みどろの死闘を繰り広げ、最後まで立っていたのは武村であった。
武村はこの手で父を殺した。この手で刎ねた父の首を両手で抱えて武村は涙した。
そんな過去を武村は王土の民の血を引く目の前の少女……最上級大臣である王土日向を見て在りし日の過去が脳裏に駆け巡った。
任命式に臨む武村は暫し過去を思い出し、薄っすらと涙した。
親子三人で暮らすと言いう夢は呆気なく潰えた。
だが、父を洗脳した神孝太郎を倒す事で母を救えるかもしれないと。
母はもう父が戻ってこず、親子三人で暮らすという夢が潰えた事を知り、彼女の精神は破綻をきたした。
一時期は危ない状況であったが、今は実家で静養し、精神が落ち着いてきた。
そんな母に早く武官の極みである大元帥となった自分を見せてやりたいという想いがあった。
「武村大将軍、前へ!」
理知的な印象を受ける王土日向の少女特有の柔らかさと利発さを含んだ声音が宮殿の隅々まで響いた。
武村はそれに従い、壇上へと上がり、片膝を付いて礼を言う。
「鷹匠翼徳大総統がその座を退く際、武村大将軍に後を託すと報告を受けた。
そして武村大将軍はこれまでに十分すぎる程の功を積んでいると聞き及んでいる。
よって、武村大将軍を『大元帥』に任命し、ガイア帝国軍全軍と十万の兵を与える事とする」
柔らかな声音に厳かさを添えた日向の宣言に宮殿中は歓声が巻き起こり、熱気を帯びるのを感じた。
誰もが武村を称え、賞賛し、そして大いにその活躍に期待した。
「はっ! 謹んでお受けいたします。有り難く」
武村の眼には涙が滲み、これまでの出来事の歴史が蘇っては消えた。
幼くして父に母と共に捨てられ、再び親子三人で暮らすために訓練兵に志願し、将軍を目指した。
落ちこぼれだった自分を王侯将軍に才能を見出され、必死に努力をして頼れる完璧な男を演じ続けた。
訓練兵を首席で卒業し、王侯軍に入り、頭角を現し、王侯将軍の側近に成り活躍。将軍の座を得る。
軍を率い最初の遠征で幼い頃自分達親子を捨てた父と遭遇する。
再会した父は最早、人間ではなかった。武村は死闘の末、父の首を刎ね、両手でその首を抱えて涙した。
それから妻と娘を得る。しかし、娘、翡翠は十歳の時に交通事故にあい、この世を去る。
武村の人生は壮絶な過去で彩られていた。だが、新島を始め、多くの仲間と出会えた。
それぞれの想いを受け継いで生きる。それが武村の生き様である。
――翡翠……父さんは今、大元帥となったぞ。
幼くして失った大切な娘、翡翠の名を心の内で呼んだ。宮殿内は歓声の渦。
きっと天国にいる妻と娘も喜んでいると武村は信じ続けた。




