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14 解毒剤

 14 解毒剤



 父と子が涙を流して抱擁をするのを見て、武村はホッと一安心する。

 結果的に五つの究極生命体となってしまった麗花はどうするつもりなのだと、

 隣の新島に聞きたかったが、彼もそれを察して怖い表情を造る。

 一度、五つの究極生命体を宿した少女が人間に戻れることなどあるのであろうか。

 だが、そうしなければ過ちを犯したお嬢様は終わる。

 その時は自分が、手を下そう。後で大総統から恨まれるであろう。

 武村はいざという時、麗花の命を取る事を決意した。

 現状……人間に戻れる手立てが無いのならば、麗花の命を取るしかないのは子供でも分かる事だった。

 大総統からの信頼は失墜することは明白……自分が大将軍を解任されれば新島に後を託そう。

 そこまで考えて、腰に差してある剣に手を掛けた時、隣の新島が武村の足を力強く踏んだ。


「おい! お嬢様の命を奪うのは最後の手段だ。何か方法はある筈だ」


 新島がそう切り出した。新島はお嬢様への情が移ったのは明白。

 仮にも婚約者で婿殿なのだから当然だが、新島は弱き者には元来優しい性格を持っている。

 口は悪く粗暴だが、面倒見がよく一度目を掛けた者には最後まで付き添う。その信頼は確かだ。


「だが、一度究極生命体となった者を元に戻す方法はない。

 大総統……究極生命体は人間を食べる性質を持っています。非常に危険な存在です。

 如何に大総統閣下の御令嬢とはいえ、最早、その命を奪うしかないでしょう」


 武村は下を向き、絶望の色を染める大総統に伝えた。

 大総統は縋りつく様なガイア帝国軍全軍を統括する者とは到底思えないような目で武村と新島を見る。

 その縋りつく哀れな視線は先程の麗花と似ていて血縁関係を物語っていた。

 当の本人である麗花に至っては最早、悲壮なる覚悟を決めている。


「出来れば、新島様の手であの世へと行きたいです。

 お父様、今まで有難うございました。とても有意義な人生でしたよ」


 その場で正座し。鷹匠麗花の覚悟を決めた表情は神掛かったように気品があり、凛としていて美しかった。


「麗花……すまない。お前を救うことが出来ないなんて私は父親失格だ」


 震えるようなか細い声音で大総統はその場に膝を落としてガクッと項垂れる。


「……良い覚悟だ」


 新島は一瞬、怖い表情を造り、その後、慈しむように優しく麗花を抱きしめた。


「どんな結末を迎えようと俺が守る」


 新島は最期にそう言うと、腰に差してある宝剣を抜いて構える。

 最強である新島の剣を構えは総合芸術の様に完成されていて息を飲む程に美しかった。

 一瞬で、一切の痛みを伴う事も無く麗花の命を絶つ気だと武村は目に移った。

 その時だった。武村たちの背後から音も無く、一人の人物が現れた。


「ちょっと待った!」


 フード付きのコートを着た小柄な女が、待ったをかけた。

 武村は一目で誰だか分かった。麗花を究極生命体にした元凶にして武村の昔の彼女。


 ――御言……折角の再会だが、俺が蹴りを付けてやる。


 武村は剣を抜いて構える。昔の彼女に刃を向ける覚悟はとうに持ち合わせていた。

 フード付きのコートとは状況を舐めている。

 昔から不気味な少女だった。それは相変わらずのようで武村は正直、調子が狂わなかった。


「御言……お前が、麗花お嬢様を唆したのだな? 動くな! 斬り捨てるぞ!」


 武村は居丈高に叫ぶと今にも斬り掛かろうとする手の震えを抑えるのに必死だった。

 御言はそんな武村を見て悲しそうな目をする。そんな目をされても武村の覚悟は揺るぎない。


「御言だな? 麗花を……こんなガキを破滅に導いたお前の浅はかさは万死に値する。人間最強の全力を持って地獄に送る」


 張り詰めた緊迫した静寂を遮るように凄まじい闘気のオーラが、新島から放たれる。

 最強戦士である彼の怒りのエネルギー量は膨大にして無限大だった。

 新島に次ぐ実力者でもある武村は自分でも敵わないと悟った。

 神掛かった統率力の武村に対し、神掛かった戦闘能力を持つのが新島彰敏戦士団副長であった。


「ちょっと待ってよ。これ見て! 解毒剤だよ! これを飲めば麗花は人間に戻る筈……」


 御言は慌てて小さな錠剤を一同に見せた。

 特に諦めを抱いていた大総統は目の色を変えて御言の掌の一粒の錠剤を目で追っている。

 武村は希望の光が見えたことに安堵し、御言への怒りを押し込めた。


「寄越せ! 交換条件みたいなものを突き付けた瞬間にお前の胴と首は離れている」


 新島の剣幕は凄まじいとしか形容しがたい。解毒剤への執着心は全て麗花の為であった。

 麗花は希望の兆しが見えている状況でも目を瞑って両目から涙をぽたぽたと落としている。

 新島に告白めいたセリフを言われて感極まっているのだろう。


「無条件で勿論あげるよ。私は麗花を助けたつもりだったけど、それは間違いだった。

 私は自分と同じ究極生命体の仲間が欲しかっただけだった。

 他に五つの究極生命体はいるけど、ゴミみたいな連中だし。武村の教えを守ったつもりだったんだけど……」


 御言は正直に言っているのがその場にいる者達全員に伝わる程、真実味があった。

 特に最前線で戦い続けている武村と新島は他の究極生命体が私利私欲しか考えてない連中ばかりなのを知っている。


 ――忠誠心の高い現在の天道……奴だけは別格だが。


 武村は心の中でボソッと呟いたが、天道と御言が折り合いつかないのは予測は出来ると補足した。

 御言は人間であった頃から不気味で不思議な少女であった。

 武村、新島、御言の三人は訓練兵時代からの付き合いで不思議と馬が合った。

 王侯将軍に憧れた事で意気投合、三人で王侯軍に入り、天下の大将軍を目指した。

 だが、王侯軍に入り二年目に御言は消息を絶った。風の噂で戦死したと告げられた。


「御言、お前の今の台詞で究極生命体になっても人間の心を失っていないのは分かった。

 解毒剤を渡してここは立ち去れ……今宵だけは目を瞑ってやろう……」


 武村はそう言い、御言から直接解毒剤を受け取り、新島へと渡した。

 解毒剤を麗花の口に放り込むのは白馬の王子様である新島の役目だ。


「ほらよ。飲み込め」


 新島は麗花の口に雑に放り込んだ。

 麗花はペットボトルの水と共に流し込み、麗花の纏い持つ雰囲気が人間のものへと変化した。


「私……人間に戻れたのね。御言、ごめんなさいね。私の我儘で……貴方を振り回してしまった」


 麗花は立ち上がり、御言に頭を下げた。御言はそんな麗花の頭を優しく撫で撫でする。


「良いの……君と出会えて楽しかった」


 御言は麗花の頭を撫で終わると、抱き寄せて、小さく有難う……と言い、一同に目を配る。


「迷惑をかけたね。今日は引かせてもらうよ。

 次に会う時は敵同士だね。幾ら最強でも私に勝つのは無理かもね」


 最後に気になる台詞を言い、御言はその場から一瞬で消失した。

 一同は呆気に取られつつも訪れた場の静寂に安堵を覚えた。

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