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星影の瞳に映る  作者: 只深
9/9

漢国

━━━━━━


 更夜side




「部長!ここにいた!凄いことになってるぞ!!」

「むーうー」




 頬を膨らませて、僕は拗ねてる。

 光が毎回電話で寝落ちしてるから。ちゃんと切ってって言ってるのに!いつもいつも切らないで寝ちゃうんだもん。




「なに膨れてんの?また喧嘩か?」

「そー。寝落ちするのやめてくれないんだもん」

「そりゃしょーがねーでしょ。あっちの時差もあるし、疲れてんのに電話してくれてんだろ?」


「そーですけど。そーですけど。」


 疲れてるなら寝ていいのにさ。毎日ちゃんと同じ時間に電話してくるから、心配で仕方ない。




 僕たちはあれから何度か顔を合わせてるけど、僕の卒業待ちで進展はほとんどない。

 もうすぐ卒業を迎える僕は…国際連盟に無事入れてもらえた。

 卒業と同時に光がお迎えに来て、渡米する予定でいる。




 両親にも挨拶に来てくれたし、光の親御さんにも会えたし。

 本当に結婚するつもりみたいで色々準備してくれてるけど、まだ実感はない。




「それで、なにが凄いことになってるの?」 

「あっ!そうだよ!これ見て!」


 駿がスマホに動画を映し出してる。

 ニュース番組?なんだろ?




「俺、英語わかんないけど。翻訳が下に出てくるから文字見て」

「僕渡米予定なんだよ?英語ちゃんと勉強してるよ…」




 今気づいた。真横で女の子たちが山になってるんだけど、なに?僕なんかした?



「何事なの?」

「だからこれ見ろって」




 女性アナウンサーが喋ってるんだけど…あっ、光だ。

 スーツ姿の光が笑顔で椅子に座る。

 徹子の部屋みたいな番組?トークショーみたいだ。


 光の経歴と、いろんな大会を総なめにしてるのを褒められてる。


 あー、かっこいい。光の英語綺麗だな…。

 スーツも似合ってるし、足が長い。

 僕の彼氏だよ。いいでしょ。へへ。




『それで、今日はなにか発表があるとか』

『はい、ようやく準備が整ったんです。俺恋人がいて。高校生の時から付き合ってるんですけど』




「えっ。な、なんでそんな話してるの…」

「まだ!もう少し先だから!部長びっくりするぞ」

「えぇー、なに。怖い」


『高校生からですか!初恋の人とか?』


 光が髪を撫で付けながら、顔が真っ赤になる。ふふ。またやってる。すぐ赤くなるんだから。



『そう、です。俺、初めて好きになった人がずっと好きで。だから、結婚しようと思って』

『結婚!?そ、そうなんですか!?スーパースターの結婚となると大騒ぎになりますよ!』


『あんまり騒がないで欲しいです。彼は有名人ではないので。静かに見守って欲しいな。

 俺の恋人はその道のプロで、俺はその弟子ですけど』


『高校生…ああ!ジャパニーズ弓道されてましたね?』

『そうです。めちゃくちゃ強いんですよ。本当に尊敬してます。弓道は技術だけじゃなく、心の鍛錬が必要なんです。俺が今こうして成績を残せているのも、師匠の指導があったからなんだ』


『素晴らしいですね!師匠であり、恋人であり、高め合える人と出会えるなんて…羨ましいです』



「うりうり」

「や、やめて!もう!恥ずかしい…」


 ニコニコした光がぼくのこと喋ってる。結婚本気なのかぁ。うーん。


『実は喧嘩して数年音信不通だったので最近やっと取り戻したんです』

『はぁーん、なるほどね。と言うか彼?同性なんですか?』

 


『はい。男性同士です。ありがたいことにアメリカは同性婚が許されてますからね。卒業を待つつもりだったんですが…昨日喧嘩しまして。また電話を無視されてます』



「えっ、これ、いつの?」

「昨日放送。喧嘩したの?部長」

「した。寝落ちのやつ」

「あーそれでか…」



『それは心配ですねぇ。もう指輪でも嵌めて連れ去ってきたらいいじゃないですか?公開プロポーズでもしたら逃げられませんね!』

『…それはいいな。なるほど…』



『指輪はもう買ったんですか?』

『婚約指輪は買いました。いや、いいアイディアですね……』

 じっとカメラを見て、光が顎を掴んで考え込んでる。



「うわ、イヤな予感する…」

「いい勘してるよ、部長」


 やめてよ…僕は背筋がゾクゾクしてるんだ。




『更夜、俺明日迎えに行く。首洗って待っててくれ』

『ワーオ!!素敵ですね!!!では結婚報告もぜひお願いします!』

『わかりました。楽しみにしててください』


 にこり、と笑った光の顔が消えて、番組のクレジットが流れる。



 動画の題名、テレビからの転載で…『速報!陸上界のスーパースターに結婚報道!』って書いてある。




「部長、まとめサイト出来てるよ」

「あーあー、聞こえません」

「星光の弓道の師匠、そして恋人、結婚予定の影更夜その人とは」

「嘘でしょ?やめて!わあぁーー!!」  




 女の子の山が増えてる。男の子もいるし。なんで、どうして?

 明日っていつ?明日?まって、今日アップロードじゃない。昨日じゃん…。




 携帯がムームー、とバイブレーションで着信を告げる。

 顔から血の気が引く。国際電話じゃない…。




「部長!ほら!」

「む、むり。携帯壊れたのかなー?」


「俺でちゃお!はい!部長の電話です!」




 駿が勝手に電話に出る。やめて、切って!

 スマホを取り戻そうとするけど、上手に避けて駿が悪い顔になる。



「えーと、今一階のA講堂にいます!そっす!そこからすぐですよ!はーい!」


「ううっ…し、しからば!」


 スマホを取り戻して、カバンを掴んで走り出す。




「無駄っすよ、部長…」

「聞こえません!」


 廊下から黄色い悲鳴。人混みがすごいことになってる。

 だ、だめだ。逃げ場がない。

すごすごと引っ込んで、生唾を飲む。




 講堂の入り口に現れた、長身のかっこいい男の人。

 サングラスをかけて、真っ黒のコート。画像の中で着ていたスーツ。

 …もしかして撮影してそのまま来たの?



「更夜」

「なんで…」


「その顔は動画見たな?駿か?」



「そっすよー!さっき見たばっかりですー!」

「ありがとう。式には招待するからな」

「はぁーい!お幸せに~!」



「な、なに言ってんの!?」

「駿はいいやつだ。呼んでやろうな。」




 光がサングラスを外す。胸ポケットにしまって、僕の右手を握って片膝をつく。


 講堂の中に人がどんどんなだれ込んで来る。




「更夜、俺の師匠で…世界で一番大切な人。俺と結婚して、ずっと一緒にいてください」


 ポケットから指輪を取り出して、目の前に出される。

 シルバーのシンプルなリング…小さな石が星の形で埋まってる。



「ちゃんと給料三ヶ月分にしたぞ。返事ください」

「なっ、なんでそんな…」

「日本の伝統だろ?早く返事くれ」

「早くって、どうして…」



「この後のフライトでとんぼ帰りだから。更夜の部屋の荷物も手配してある。合鍵もらっただろ?」

「嘘でしょ…」



 じっと黙り込んだ光がキラキラの瞳で見つめてくる。星影をたたえたその瞳が、僕を縛り付ける。


 どうしてこんな…急展開なのぉ。

 静まり返った講堂の中に、期待の目線が飛び交っている。




「もう…逃げ道つくってくれやしないんだから…」

「こうでもしなきゃ更夜を閉じ込められないだろ?俺の監獄にさ」


「うん…わかった。こうなったらそうしよう。よろしくお願いします」


 一斉に上がる悲鳴。ちょっと、動画撮らないで!




「指輪してもいいか?」

「もう好きにしてよ…」



 右手の薬指に指輪が嵌められる。

 はまった瞬間、かちり、と鍵が閉まる音がする。


 僕、閉じ込められちゃった。

 高校生の時の、光の声が耳に響く。



「恋に落ちる瞬間は、音がする。

 何かが割れる音、弾ける音、水滴の落ちる音。

 風が囁き、木がざわめく音…。

 その音が聞こえた時にはすでに、恋に落ちているのだ。

 こうなってしまったら、もう…何をしても逃れられない。

 足元から掬われて、真っ逆さまに堕ちていく。

 その先に待つのは煌びやかなものではなく、憎悪、嫌悪、身を焼くような情熱、終わりのない苦しみ。恋とは自心を滅ぼす牢獄である」




 地獄か。それもいいね。光と一緒なら。




 指輪をはめて、ゆっくり撫でた光が立ち上がり、僕の頬をなぞる。

 腰に回った手のひらを感じて、背伸びする。


 柔らかい唇に触れて、光がつぶやく。



「やっと閉じ込められた」


星影の瞳に捉えられた僕は、幸せな気持ちでその瞳を見つめ続けた。


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