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星影の瞳に映る  作者: 只深
5/9

瞳の中の星影



 ━━━━━━

 光side




 鳴り止まない拍手の中、トロフィーを受け取る。

 最後の姿勢までやり切った更夜はその姿を保ったまま気絶して、病院に運ばれてる。




「彼に、素晴らしかったと伝えてくれ」


 トロフィーを渡してきた審判の人が涙ぐみながら、そう言ってくれる。


「ありがとうございます!!!」



 表彰台から駆け降りて、投げたトロフィーを先生が受け取る。

二人で走りながら、変な笑いが込み上げてくる。



「よくやった!て言うか感動のシーンがこれかよっ!!」

「先生ドンマイ!更夜は?!」

「病院について処置を受けてる。連れてってやる!!」

「やったぜ!」



 なんだ、このテンション。バカみたいだ。足袋を脱ぎ捨てて、スニーカーを履いて、走る。走る。


 もつれそうになる足を叩いて、励まして、ひたすら走る。




「光!こっちだ!」

「先生足早っ!」

「舐めんな!」


 あはは!と二人で思いっきり笑って、ただひたすら走り抜けた。



━━━━━━




「今やっと眠ったところだから、静かにね…」

「はい」



 個室の部屋に通されて、先生と二人でそろそろと中に入る。

 鉢巻を外されて、道着を脱いで…Tシャツで寝かされてる。




「更夜…」



 顔色が良くなった更夜がすやすや寝てる。

 痛み止めが効いたのか?ぴくりとも動かない。


 ドアの外に出た先生と、お医者さんが話してる。


 骨折、打撲…警察…単語だけ聞いてると不安になってくる。

 今になって、俺も体が急に重たくなってきた。

 更夜の顔の横に頭を置いて、サラサラの髪の毛を撫でる。


 痛かっただろ。俺のこと守ってくれて、勝負の約束も守ってくれてありがとう。

 怪我させてごめん。本当にごめん。


 心の中でつぶやく。




「星、親御さんに連絡してやる。影のご両親が今県外にいてな…付き添えないんだ。個室は風呂もついてるし、制服があるからそれに着替えてくれ。影が起きたらナースコール押してやってくれるか」

「はい…」




 更夜にくっつきながら返事を返すと、先生がなんとも言えない複雑な顔になる。



「…思春期特有のものって事もあるんだぞ」


 ふ、と笑ってひたすら更夜の顔を見つめる。




「それでもいいんです。」

「そうか。…明日また、迎えにきてやるからな」


「はい」




 先生が更夜の道着を持って個室から出て行く。


 静かな空間に、更夜の静かな呼吸が広がる。

 額をくっつけて、更夜の呼吸を確かめる。


 同点優勝とか…負けじゃないよな?

 怪我してなかったら負けてたのかな…。

 それでもいい。こうして一緒にいられるなら。更夜が無事でよかった。本当によかった…。





「ん…いてて…」

「更夜?起きた?」


 慌てて身体を起こして、頬をなぞる。

 パチパチ瞬いた薄い色素の茶色い瞳が俺を映してる。




「僕…気絶しちゃったの?」

「うん。凄いよお前。坐した後にそのままの姿でいたんだ。審判の人が泣いて褒めてたぞ」


「あは…そうなの?武士みたいだね?」

「そうだな。正しく武士だ。カッコよかった…」




 けほけほむせる更夜の胸を撫でて、じっと見つめる。ナースコール押すか。



「待って。どっちの勝ち?」


 左手でナースコールを押そうとした手を押さえられて、眉を下げたいつもの情けない顔になってる。




「引き分け。二人とも勝ちだ」

「なぁんだ。僕が勝ったと思ったのに」

「なんだよ。俺が勝ったらダメなのか?」

「だって、僕が言おうと思ってたんだもん」


 もじもじしながらのの字を書いてる。

 何を言うんだ?




「でも、引き分けなら二人とも言えばいいよね?」

「こ、更夜?何を言うつもりなんだ?」



「光と同じこと」




 どきり、と胸が跳ねる。

 心臓の鼓動が速くなって、胸が苦しくなってくる。

 ど、どういうことなんだ?俺と同じって…。





「僕、鈍いでしょ?本当は最初からずっとそうだったのに、やっと気付いたんだ」

「な、何?何を?」


「光から言ってよ。ボク、その、アレ。ちゃんと調べたんだけど。僕の方がボトムっていう位置だと思うんだけど」

「はっ…!?し、調べた!?ボトムって何だ?ネコとかじゃないのか?」



「ああ、うん、そうともいう。て言うか先にキスしちゃってるんだし今更だよねぇ」


「うっ、ごめん…だってあんまり更夜がかわいくて、綺麗で…気づいたらしてた。」

「…ん。は、はやく言って」



 上目遣いで見つめられて、クラクラしてくる。なんだその顔。初めて見た。

 かわいい。かわいい…。


 瞳を閉じて、更夜の唇を食む。

 何度もキスして、小さく呟く。




「更夜のことが好きだ」




 ふっ、と微笑んだ更夜が自分からキスしてくる。




「僕も、光が好き」




 微笑んだ更夜を見つめて、抱きしめる。

 やっと言えた。なんだよ。俺だけじゃなかったのか。


 じわじわと嬉しい気持ちが体を包んでくる。

 胸があったかい。更夜を抱きしめているはずなのに、自分が包まれて行くような気持ちがしてる。


 俺の事が好きだと言ったその一言が、ただ自分の中に満たされていく。





「あの、僕恋人になる?」

「えっ…そうだろ?嫌なのか?」


「ううん。色々と大丈夫かなぁ?って。まだ子供だし」

「別に、もうすぐ卒業するんだし、大人になるだろ?」


「うーん?じゃあいいか…。彼氏さん、よろしくね」



 うわ、彼氏って言った。

 彼氏だって!俺が更夜の彼氏…!!!




「うん…」


 胸がドキドキして止まらない。

 嬉しい。



「これでずっとそばにいられる?」

「うん…」


「あの、それで……今後についてお話ししたいんですが」




 体を離して、しっかりした顔つきになった更夜を眺める。

 お前、こう言う時も冷静なのか。




「僕、進路大学なんだけど。光は?」

「あっ…あーーー。」


 しまった…すっかり忘れてた。

 ヤバい。まずい。振られるかもしれない。

 告白したその日に…。




「んー?なんかありそうだね?」

「いや、その、ごめん。更夜に夢中で本気で忘れてました。本当にごめんなさい」


「なに?怖い。どう言うこと?」


 眉を下げて不安げにしてる更夜。

 ごめん。俺…。




「留学するんだ。イギリスに。足の手術があって…」

「あー。って手術?なに?病気?」


「いや、違う。昔から転びやすくて、それで運動部辞めてたんだ。膝の関節の手術して、それで治るから」

「なぁんだ。…じゃあ仕方ないよ。どのくらい行くの?」



「一年で帰ってくるけど、そのあとは大学に行く。更夜の一年下から始める。そう言えば…って待て。先に先生に診てもらわないと」



「そうだね。忘れてたね」

「俺たち浮かれすぎだな…」



 違いない、と頷く更夜を見つめながら、ナースコールのボタンを押した。




━━━━━━




「…思いが通じた初日に同衾とはこれいかに」

「どう…なんだって?」

「同衾。同じ布団で寝るってこと」

「別に…なんでダメなんだ?」


「ダメってことはないけど…」




 暗闇の中で、目の前で好きな人と身体を寄せ合って、話してるこの状況は確かになんだかドキドキしてる。

 でも、なんか…更夜は通常通りだ。

 ドキドキしてるの俺だけ?



「更夜は俺の事本当に好きなのか?」

「どうして?」


「なんか、落ち着いてるだろ?俺だけソワソワしてる」

「ソワソワしてるの?」



 じっとして見てくる瞳がカーテン越しの月明かりにゆらめいて、蕩けるような光を宿してる。




「うん。まさか俺の事す…すきだなんて思ってなかったし」 

「そうかな…僕光のことずっと見てたでしょ?」


「そう言えば…そうだな。」

「手を繋いでも嫌じゃなかったし」

「うん」


「キスされても嫌じゃなかったし」

「う、うん…」



「伝わらない?本当に?」

「そう言うわけじゃないけど、なんか落ち着いてるし」



「先のこと考えてるだけ。遠距離恋愛でしょ?卒業式まで一緒だとしても半年くらいした後離れ離れだもん」

「…ごめん…」




 胸元に更夜の頭がくっついてくる。

 あったかい…体温が伝わってきて、胸の鼓動がおさまらない。




「ドキドキしてるね」

「更夜が居て、くっついてると思うとこうなっちゃうんだよ。」

「僕だってドキドキしてるよ?」

「…そうなのか?」


 両手で手首を掴まれて、そっと胸に押し当てられる。

 俺と同じで早い鼓動が手のひらの下で脈打っている。




「…ね?」

「本当だ…」


「好きだって言葉にしてから、ずっとこうだよ。光が好きだって言ってくれたから余計に…。

 心が苦しくて、ずっと一緒にいたいけどそう上手くは行かないでしょ?手紙とか、メールとか…そう言うことをするしかないけど、キスしたりくっついたりできなくなると思うと苦しい。

 切なくて、寂しくて…どうしようもなくなる。光が読んだ小説を思い出した。恋とは監獄である、って」




 俺が音読したやつか。おれもまだあの時は理解してなかったな。

 確かに恋に落ちた時はたくさんの音がしていた。



 更夜の歌、ピアノの音、つけられた炎が俺の胸の中の爆弾に火をつけて、波のように攫われていったカケラ達。

 一本の矢が突き刺さったままの心は更夜に射止められてる。


 弓の名士らしいよ。一発で仕留めやがって。




「僕のこと、ちゃんと閉じ込めててよ。離れてても、好きでいさせて。…浮気しないでね」


「しない。更夜の事だけが好きだから…好きでいてもらえるように努力する」

「ん…」



 ぐりぐり顔が押し付けられてくる。

 キスの先は、まだ知らないけど。大人になって、ちゃんとした人として立ったら、その時は更夜の全部をもらうから。




「待っててくれるよな?」

「待つよ。好きだもん…」


 しっかりした体の更夜をだきしめる。

 大きいと思っていた背中が小さく見える。

 今は同じくらいだけど、俺の両親も親族もみんな高身長だ。

 包み込めるような人になって、更夜を抱きしめて…守ってあげたい。




「ごめんな、怪我させて」

「光のせいじゃないでしょ?」 


「うん…でも怪我してなかったら負けたただろ。姿勢の加点がいつもの更夜ならもっとあったはずだから」

「それはそうだねぇ。でも、光が負けてもこうなってた」


「そ、そうか…うん…」



 胸元からのぞいた更夜の目がキラキラしてる。このキラキラエフェクト、多分見えてるの俺だけだよな。



「光の目のなかに僕は星が見えてた」

「ん?星?」


「真っ黒な瞳の中にキラキラ光る星がたくさん見える。光が泣いたら流れ星みたいだった。

 名前の通りに光る星を体の中に置いて、光はずっとキラキラ輝いてるんだ」


 すっ、と爆弾がまた追加される。




「お前、そう言うのサラッと言うのなんなの?クサいセリフ散々言ってもケロッとしてるし」


「クサイかな?でも本当のことだもん。きっとこの星影が見えてるのは僕だけだから。僕の光だから他の人にはあげないよ」

「なんか、色々とドキドキするな…」



「ドキドキするならもっと言う。名前の通りだねぇ。

 夜を更えながら、光の中の星影を見て、その光の輝きを僕だけが見てる。僕だって、ドキドキしちゃうよ」

「本当に…もう…加減してくれ。心臓ががもたない…」


 更夜が喋るたびに顔に熱が集まってくる。

 爆弾がトントン、と大量に置かれる。




「光はかわいいな。僕が喋るとすぐ赤くなるし。僕のことですぐに泣くし」

「むぅ…」

「僕だけにしてね。他の人に見せちゃダメ」



「独占欲?意外だな」

「僕だってこんなの初めてだよ。光の事僕の中に閉じ込めて、誰にも見せたくない。どこにも行かせたくない。」 


「俺も監獄行きか。望むところだ」




 部屋の中に沈黙が満ちる。

 二人して、思わず笑ってしまう。




 密やかな笑いが収まって、優しい月明かりの中見つめあって、自然に唇と唇で触れ合う。


 柔らかい唇がもたらす熱に酔いしれながら瞳を閉じた。

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