精霊王
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さて、レベッカである。
レベッカは生まれた時に精霊王に祝福を受けていて、精霊たちといつも仲良く付き合っている。グレッグはレベッカの人並み外れた美貌によって王家から婚約者となるように王命をうけては大変と、幼い時から病弱で、死にかけているくらいの噂を流してきた。社交も避けているので、今では自由に園芸で働いたりしている。しかし、いつまでもこのままというわけにはいかないとはオードリーとも話していた。
そこに、降って湧いたようにティモシーの存在が出てきた。噂では氷のように冷たい恐ろしい男で、そのため見合いをしても全くまとまらないと言うことで、レベッカがその男の話をした時は非常に心配した。ところが実際会ってみると、穏やかで思慮深く、しかもレベッカにとても優しい。オードリーは手放しで喜んでいる。クロフォード卿はレベッカをぜひ嫁にと言っているが、本人は、家の力で話をされたくない、自分で誠意を持ってレベッカに求婚したいと言っているそうだ。レベッカの気持ちはよくわからなかったが、今朝の感じではまんざらでもなさそうだ。人間的にも良いし、家格も釣り合っているし、まさに良縁であろうが、さて、これからティモシーはレベッカをどう攻め落とすか、グレッグは興味深く見ている。それに、本音を言うと、レベッカは目に入れても痛くない一人娘だ。できることなら嫁になどやらず、ずっと手元に置いてかわいがりたいという、父親の気持ちもあった。
その夜は遅くまで飲んで、ティモシーは日付が変わってから辞去した。
レベッカは少し名残惜しいなと思ったけれど、わがままを言うような性格ではないので笑顔で別れた。ティモシーは翌日はできるだけ早く仕事を終わらせて見舞いに来ると言い残して去った。
レベッカはふっと寂しさを感じた。
夕食後はティモシーはずっと父たちと飲んでいたので、レベッカは一緒ではなかった。明日はもっと一緒の時間があるといいな、と思いながら眠りについた。
ティモシーは帰りの馬車の中で、窓を開けて酔いを冷ましていた。レベッカの父や兄に嫌われたくないと思うので、酒の席でも若干緊張していた。しかし、皆あたたかく仲間にいれてくれていたし、好意的に接してくれたので、心強く思った。
また、アーロンはレベッカの恋人ではないということがわかったのはほっとした。花束を見て嬉しそうな顔をしていたレベッカを見てからずっと気にしていたのだ。
しかし、夕食後はまったくレベッカとの時間がなかったのが寂しかった。
明日は頑張って早く仕事を片付けてレベッカのところに行こうと思った。
翌日はレベッカは体の具合はすっかり元通り、元気になった。
残るは顔の痣だけで、これは年頃の娘にとってはけっこうきつい。
少なくとも濃い色がなくなるまでと、デンバー伯とジョセフィーヌの処罰が決まるまでは家にいることにした。
レベッカ襲撃の件は、デンバー伯はジョセフィーヌガ勝手にやったことで自分は一切関与していない、全く知らなかったと主張していたが、実行犯に支払った金額の出どころをジョセフィーヌに追及したところ、父母も知っていたことを白状したため、デンバー伯も訴追されることとなった。また、デンバー伯に関しては、これ以外にも脱税、収賄、不法取引などの余罪がかなりあるようで、これらをすべて明るみに出してから裁くことになるので、しばらく時間がかかるようだ。特にレベッカ襲撃の件は、クロフォード公爵とホートン侯爵が激怒していて厳しい捜査をしていることから、処罰もかなり重いものとなる見込みだ。
それをいいことに、レベッカは結婚式を欠席することにして、クレアに謝りの連絡をした。クレアもドロシーとアリスもとても驚き、すぐにレベッカのお見舞いに来てくれた。
レベッカの顔の痛々しい痣を見て驚き、皆我が事のように憤慨してくれた。友達っていいものだなとレベッカは心がほっこりと温かくなった。
その日は1日中レベッカはパン作りに明け暮れていた。
お菓子でなくパンなのは、それをティモシーにお昼かおやつに食べてもらいたかったからである。
ちょうどクレア達が帰ったのと入れ替わりにティモシーが訪れた。
きょうはレベッカは頭痛もなく元気なので、玄関まで走って迎えに出た。
「レベッカ、もう走っても大丈夫なのか?無理するな。」
「もう大丈夫です。顔はまだ治ってませんけど、体はもうすっかり良くなりました。あの・・・顔はあんまり・・・見ないでください。」
「レベッカが良いと言うまでは見ない努力をしよう。だが、俺は君の顔が好きだ。痣があってもなくても、好きだよ。」
「・・・私もティモシー様のお顔が好きです。傷があってもなくても、素敵なお顔です。」
ふたりは顔を見合わせてにっこり笑いあった。
「ティモシー様、お願いがあるんですけど、もしお嫌でなかったら聞いていただけますか?」
「なにかな?レベッカのお願いなら聞きたいなあ。」
「あのね、今夜、また父がお酒を飲もうってお誘いしたら、きのうより少し早くここにお戻りいただけないでしょうか。私にもすこしティモシー様とご一緒の時間をくださいって言ったら困ります?」
「困るものか!」
「ありがとうございます。」
にっこり笑うレベッカはなんと可愛いのだろう。
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