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15/22

あーん

お立ち寄りいただきありがとうございます。


 邸にはクロフォード卿が出仕せずにいた。

「ティモシー、戻ったか。」

「遅くなりました。結局レベッカは朝まで眠っていました。起きてから医者の診察を受けて、頭を打ったので少し頭痛がするが、特に問題はなさそうです。顔の痣は2−3週間で消えると言われました。」

「そうか。かわいそうだったな。気持ちの方はどうだ?」

「夜何度かうなされていました。起きたらいつものように元気そうでしたが、やはり怖かったのでしょう。」

「きょうは見舞いに行くのか?」

「少し仮眠を取ってから、おいしい菓子を買って持っていこうと思っています。」

「そうか、では、私から花束を贈らせてもらおうかな。」

「今朝、ピンクのバラの花束をもらっていましたから、それ以外のものなら良いかと思います。」

「なにっ、ピンクのバラの花束を贈られていたのか?」

「兄上のご友人からだそうです。」

「恋人からではないのだな。」

「さあ・・・」

「なんだ、聞いてないのか。まあ、ではピンクのバラ以外の花束にしてくれ。」

「はい。」

「おい、気持ちは伝えたか?」

「いいえ。」

「ぼやぼやしてると・・・わかるな?」

「はい。ではすみませんが、少しやらねばならないことを済ませてから仮眠を取って夕方出かけます。」

「デンバーめ、それにジョセフィーヌとやらも、ただではおかんぞ。処分については任せておけ。」

「はい。」

クロフォード卿はティモシーの煮えきらぬ態度に苛立っている。

(まずは花束を贈った男について調べないといかんな。)

クロフォード卿は密偵を呼び、花束の主を調べるよう命じた。


 ティモシーは、トレーニングをして、急ぎの仕事をし、仮眠を取って、夕方出かけた。

まずはデニスの園芸屋で花束を作ってもらった。

デニスはまだ戻っていず、かわりにバージニアにレベッカの容態を話しておいた。

それから侍女に聞いておいたおいしいと評判の菓子屋に寄って、いろいろな菓子を買い、ついでにこれも美味しいと評判のパンを買い、そしてレベッカに会いに向かった。


 レベッカはすでに起きていて、湯浴みを済ませて髪を乾かしているところだった。

医者に風に当てたほうが治りが早いと言われたと、ガーゼを取っていて、ティモシーを見ると恥ずかしそうに痣のある方の顔を隠した。

「無理しなくていいよ。嫌だと思うなら隠せばいいし、見せても構わないと思えば見せてくれて良いんだ。」

「ティモシー様、ありがとうございます。そんなふうに言っていただけると、気持ちが軽くなります。」

部屋の外で身繕いが済むまで待っていたところ、レベッカが出てきた。

「私の部屋でもよろしいですか?」

「君が良いなら。」

「では、どうぞ。」

レベッカは侍女にお茶を持ってきてくれるように頼んだ。


ティモシーは、まず父からの花束を渡した。

「これは俺の父からで、バージニア殿に見繕ってもらった。デニス殿はまだ戻っていなかったので、君の今朝の状態を伝えておいた。バージニア殿とエディス殿がおだいじに、と言うことだ。」

「わあきれい!嬉しいな。お父様によろしくお伝えくださいね。バージニアさんとエディスさんには水やりしてなくて申し訳ないです。」

「それからこれはうちの侍女から聞いたのだが、最近王都で流行っている菓子屋だそうだ。」

「まあ!ここ、はじめてです。嬉しい!」

「それと、これは人気のパンの出店だそうだ。」

「おいしそう!」

レベッカは嬉しそうにニコニコしている。

ティモシーはこんなに喜んでくれるなら、いくらでも買ってきたいなあと思った。

「夕食の前ですけど、ひとつだけいただいていいですか?」

「もちろんだ。全部でもいいぞ。」

「ふふふ、ほんとに全部食べたいわ。ティモシー様はどれになさいます?」

「レベッカがまず好きなのを選べ。」

「うふふ、それじゃ私は・・・これ!」

「俺のも選んでくれ。」

「うーん・・・それじゃこれ。」

「うまそうだ。」

レベッカはひとくち食べて

「あーほんと、これ、おいしい!ほら、ティモシー様、あーん」

一切れフォークにさしてティモシーに差し出した。

ティモシーは躊躇したが、レベッカの無邪気な顔に負けて口を開いた。

「うん、美味い。」

「ね!」

そう言いながら、レベッカはティモシーのケーキを羨ましそうに見ている。

ティモシーは一口フォークにさしてレベッカに差し出した。

レベッカは目を閉じて口を開けている。

ティモシーはそおっと口にケーキを入れた。

「んんんー、美味しい!」

「な!」

ふたりで顔を見合わせて笑った。

ケーキを食べたあと、こんどはレベッカはパンを食べたそうな顔をしている。

「パンも食べるか?」

レベッカはえへへへーと笑って頷いた。

お互いにひとつずつとって、やはり一口ずつ口に入れる。

レベッカがまず口に入れてもらって、おいしいと喜んだあと、今度はレベッカがティモシーの口にパンを入れようとしたその時、

ドアが開いて父と母が入ってきた。

「あらあらまあまあ仲良しさんだこと。」

母はそう言って楽しそうに笑い、父は複雑な顔をしていた。

「バーニーはまだしばらく帰ってきませんから、しばらくおしゃべりでもしていて頂戴な。ティモシー様もお夕食ご一緒できますわよね?」

「ご迷惑でなければ。」

「迷惑なわけないだろう。君は酒は飲めるか?」

「はい、強くはありませんが、弱くもありません。」

「そうか、では今夜は酒も飲もうな。」

「はい、ありがとうございます。」


お読みいただきありがとうございます。

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