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14/22

翌朝

お立ち寄りいただきありがとうございます。


 朝、小鳥のさえずりと共にレベッカは目覚めた。

目がよく見えない。

顔を手で触ったら片側がガーゼで覆われていた。

(ああ、そうだわ。きのう、殴られたんだったわ。)

もう片方の手を動かそうとしたら、動かない。ガーゼのついている側の手なので、首をぐるっと回してそちらを見たら、なんと、ティモシーがレベッカの手を握りしめてベッドの端に突っ伏して眠っていた。


 (ティモシー様は大丈夫かしら。きっと自分のせいで、とか気に病んでついててくださったのね。お疲れでしょう。ちゃんと休んでほしいなあ。)

そんなことを考えてティモシーを眺めていたら、ティモシーが目を覚ました。

「・・・ッ レベッカ、気がついたのか。どうだ、具合は?痛むか?」

レベッカはにっこり笑った。

「大丈夫です。ちょっとびっくりしただけです。ティモシー様、ついていてくださったんですね。お疲れでしょう?大丈夫ですか?」

「こんな時まで俺のことを心配するな。昨夜はずっと眠っていたんだよ。そして怖かったんだろうな。時々うなされていた。」

「あらやだ、恥ずかしい。」

「あの、私の顔、どうなってるんですか?」

「右目のまわりが痣になっているが、しばらくするとすっかり消えるそうだ。しかし、若い娘が目の周りに痣ができているなんて嫌だよな。すまない。」

「鏡、見てもいいですか?」

「そうか。ちょっと医者を呼ぼう。」

ティモシーは廊下に出て医者を呼んでくれるように言った。それと、家族にもレベッカが目を覚ましたことを伝えるように言った。


 間もなく母が、父が、兄がレベッカの部屋に来た。また、医者も駆けつけた。

診察が済んで、ガーゼの取れた顔を鏡で見たレベッカは一瞬言葉に詰まった。

「先生、これ、治りますか?」

「大丈夫だよ。内出血しているから腫れてるしすごい色だが、腫れは2−3日でひく。色は2−3週間で完全になくなるが、まあ、1週間もすれば気にならない程度になるよ。」

「そうですか。ありがとうございます。頭が痛いんですけど、なにかお薬いただけますか?」

「そうだな、これも殴られて倒れた時に頭を打ったので、そのための頭痛だからじきに収まるよ。」

「よかったわ、キャロルちゃん。心配したわよ。」

母が一生懸命我慢しているが、涙を堪えきれていない。

「おかあさま、ごめんなさい。もう大丈夫です。お疲れでしょう?お休みください。」

「今はひとの心配しないの!しばらく体を休めて治しましょう。おいしいケーキでも用意するわね。」

「ふふふ、おかあさま、あんまり甘やかさないでね。」

兄が

「しばらくは仕事も休みだ。ゆうべデニスさんが来てくれたんだぞ。クロフォード卿も見えた。そしてティモシー君は夜通しお前のそばに付き添ってくれてたんだぞ。みんな心配してるから、よく休んで早く治せよ。」

そう言って、頭を撫でてくれた。


 執事のジェフリーがやってきて、

「ぼっちゃま、アーロン様がお見えになりました。」

「そうか、通してやってくれ。」

アーロンがピンクのバラの花束を抱えて入ってきた。

「キャロルちゃん、大変だったねえ。これでも見て気を晴らして。」

「まあ、アーロン様、ありがとうございます。きれいー。嬉しいです。怪我したおかげでこんなきれいな花束いただけたから、ラッキーです。」

(アーロン?誰だ?恋人か?いや、恋人がいるなんて聞いてない。でもこんなに大きなバラの花束を贈るような関係なのか。)

ティモシーの心は大嵐になっているが、それを外に出さないように必死になった。


 父が

「ではちょっとサロンのほうに行ってるからな。ゆっくりしなさい。」

そう言って頭を撫でて皆を伴って部屋を出ていった。


 部屋にはティモシーとレベッカの2人が残された。

「ティモシー様、ずっと付き添ってくださってたなんて、ありがとうございます。ティモシー様はお優しいですね。でも、お疲れでしょう?私はもう大丈夫ですから、どうぞお帰りになって、お休みください。お父様にもよろしくお伝えください。」

「俺は大丈夫だよ。もう少しそばにいたい。きのうは慌てて来たので花束のひとつも持ってこなかった。気がきかないことをした。すまない。」

「なにをおっしゃいますか。花束ならアーロン様がくださったので十分です。ティモシー様は今ここにいてくださるじゃありませんか。それがなによりです。」

「そ、そうか。だが、俺はただいただけだ。何も役に立っていない。」

「いいえ、私のことを心配してくださったのでしょう?それがいちばん嬉しいです。」

「みんなすごく心配したぞ。」

「本当に、申し訳ないことをしました。ごめんなさい。」

「君はなにも謝ることはないよ。ひどい目にあったな。かわいそうなことをした。すまない。」

「ティモシー様、謝らないでください。ティモシー様はなにも悪い事してませんもの。」

「だが・・・ッ」

レベッカはなおも何か言いかけたティモシーの口を手で塞いだ。

「ティモシー様に謝られると、私、困っちゃいます。」

「そ、そうか。わかった。・・・困らせては、いかんな。」

「ありがとうございます。」

レベッカはにっこり笑った。

(この笑顔が辛いんだな。これを見て惚れないやつがいるのだろうか。この笑顔を俺以外の誰にも見せたくない。)ティモシーは心のなかでそう思った。


 「レベッカ、君は少し休まないといけないよ。まだ頭痛がするんだろう?」

「でも、せっかくティモシー様がここにいらっしゃるんだから、もう少しお話したいな。」

「そうか。」

「ティモシー様、私、ほんの少しですけどティモシー様のお気持ちが想像できるようになったかもしれません。」

「そうか。」

「私ね、前に初めてティモシー様のお顔の傷を見せていただいた時、そんなに気に病まなくてもいいのにって思っちゃったんです。ごめんなさい。」

「謝ることはないよ。きっとそのとおりなのだろう。」

「でも、今私、顔に大きな痣があるでしょう?それをティモシー様にお見せしたくないって思います。ティモシー様がご自分のお顔を醜いって仰った時、私は醜くないって言いましたけど、たしかに醜くないんですけど、でも自分ではそう思っちゃうんですよね。どうしても消極的になっちゃいます。もしこれが治らなかったら、私、結婚できるなんて思えません。」

「俺は今、逆に君の気持ちがわかったような気がする。そんなに卑下しなくてもいいのに、俺はちっとも気にならない、って思う。きっと君もそういうふうに思ったのだろうな。」

「ふふふ、それじゃ、お互いにわかり合えましたわね。」

「そうだな。」

そう言って2人は握手をした。

ティモシーは握手した手を離さない。

「ティモシー様?」

「あ、すまない。」

レベッカに言われて気づいて慌てて手を離した。


 「これ、来週末に治るかしら。」

「ああ、友達の結婚式か?」

「欠席しちゃおうかな。」

「まだ決めるのは早いと思うが。」

「そうですねえ。でもなんだかめんどくさくなっちゃった。私、元々社交的な性格じゃないんです。でも今回は友達に絶対って言われてそれでしょうがないなあって出ることにしたんですけどね、なんだかうまい具合に出ない口実ができちゃった感じで。えへへ。」

「ははは。そうか。」


 「あーあ、それに、私しばらく仕事もお休みさせられちゃってつまらないです。このごろ朝ティモシー様が訓練なさってるとこ見ながら剪定するの楽しかったし、ティモシー様とおしゃべりするのも楽しかったのにな。」

「そうか、ありがとう。俺も楽しかったぞ。」

「きっとポールさんがそろそろ復帰するころだから、私はもうティモシー様のお邸には行けなくなるかも。」

レベッカはつまらなそうに口を尖らせた。

「そうなのか。それは残念だ。」

「あ、でも、温室が残ってるわ。デニスさんにそれお願いしちゃおう。」レベッカはふふふといたずらっぽく笑った。


 「レベッカ、話していると楽しくて時間を忘れるが、君は休まなければならないよ。」

「えーん。もうちょっと。」

「だめだ。早く治ってほしいからな。ほら、眠るまで見ているから寝なさい。」

「はーい。」

レベッカは子供のようにしぶしぶ返事をして、ティモシーは優しく頭を撫でた。


 レベッカはまだだいぶ弱ってるのだろう。目を閉じて割とすぐに寝息が聞こえてきた。

(なんて愛らしいんだろう。)

ティモシーはレベッカを眺めていたが、いつまでも眺めていたかったがあまり時間が経って変に思われるのも嫌なので、仕方無しに部屋の外に出た。

ホートン卿はきょうは出仕しないことにしたということで、挨拶をして、ティモシーは辞去した。

夜においしそうな菓子を持ってまた来ても良いか聞き、歓迎すると言われて喜んで自分の邸に戻った。


お読みいただきありがとうございます。

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