襲撃
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その日も楽しく仕事をして、レベッカは農園の水撒きも終えて帰り道。
レベッカはいつもひとりで歩いて帰る。
通勤はいつも徒歩だ。
陰の護衛がついているが、お互いに知らん顔をしている。
園芸店は商店街のはずれにあって、レベッカの住まいはその商店街を抜けてしばらく歩いたところにある。
なかなか落ち着いたきれいな道で、レベッカはそこを歩くのが好きだ。
きょうも周りの木などを見ながら、気分良く歩いていた。
すると、いきなり男が現れて、レベッカの顔を殴った。
最初の一撃だけであとは護衛が捕らえたのだが、レベッカは殴られた時に倒されて頭を打って気を失い、また、顔にあざができるほどの打撃だった。
護衛たちに守られてレベッカは邸に帰った。
母が驚いて
「まあ、レベッカ、どうしたの?かわいそうに、痛いでしょう。すぐお医者様を!」
レベッカはベッドに寝かされた。
「いきなり男の人が現れて顔を一撃されました。驚いたわ。怖かった。」
母はレベッカを抱きしめて、
「誰がこんなことを。かわいそうに。」
母は泣いている。
医者が来て、診察している。
「大丈夫、目も問題なく見えているし、傷も残らんでしょう。ただ、しばらく痣は残りますな。」
「先生、どのくらいで痣は消えますか?」
「そうですなあ、ちょっとひどいので、2−3週間かかるかもしれません。」
「わーん、お母様、結婚式、どうしましょう。」
「そうねえ。おとうさまにも話さないとね。でも、あとは残らないからよかったじゃない。」
「そうですけど・・・」
医者が
「怖かったでしょうから、安定剤を飲んで、しばらくおやすみなさい。」
そう言って薬を飲ませてくれた。
「先生、ありがとうございました。」
母が
「それじゃ、あなたはしばらくおやすみなさい。もう大丈夫、怖くありませんからね。念の為部屋の外には護衛がいますから、心配いらないわよ。」
そう言ってレベッカの髪を撫でて部屋を出ていった。
レベッカはしばらく興奮していたが、薬が効いてきたようで、やがて微睡んでいた。
父と兄が帰ってきて、レベッカの様子を見に部屋に入ったが、寝ているようなので静かに部屋から出た。
「犯人、白状したぞ。」
「あなた、なぜこんなことを?」
「なんと、デンバー奴の娘のジョセフィーヌがチンピラを金で雇って、キャロルの顔に傷をつけろと指示したそうだ。」
「まあ、なんてこと!おそろしい。」
「まったくだ。腐りきっている。」
執事のジェフリーがやってきて、
「クロフォード卿とご令息がお見えです。」
と伝えた。
父が2人を出迎えた。
「知らせを聞いて飛んできた。容態はどうか?」
「はじめは怖がっていたが、医者に鎮静剤を処方され、今は眠っている。医者によると、痕も残らないようで、ひとまずよかった。」
「そうか、すまなかった。」
ティモシーがレベッカに会いたいと頼んだ。
「起こさないでいてもらえるなら。」ということで、兄が部屋に案内した。
レベッカは顔の片側に湿布を貼られていて、眠っていた。
ティモシーが拳を握りしめて、怒りの形相を顕にしている。
兄はティモシーを促して廊下に出た。
「犯人はもう捕まえてあるし、雇った方も確保済みだ。キャロルは向こう見ずなのだが、今回は君がひどい目にあったと許せなかったようだ。まったくお嬢様とは程遠いな。でも、そこがキャロルの良いところだから、優しく見守ってくれると有り難い。」
「今回のことは私が原因です。本当に申し訳ない。謝ってもすまないのはわかるのですが、どのように謝罪したらよいのか、答えが見つかりません。」
「そんなに恐縮しないでください。レベッカは自分がかばいたかったからかばっただけだ。そういう子なんですよ。」
「しばらくそばについていてもいいでしょうか。」
「そうだな、ではよろしく頼みます。」
兄はティモシーをレベッカの部屋に残して応接室に戻った。
「よく眠っていたよ。ティモシー殿はしばらくそばにいたいと言うので置いてきました。」
そう言ってすこしにやっとした。
ジェフリーが部屋に来て
「デニス様がお見えです。」
と言ってきた。
「お通ししてくれ。」
ジェフリーに促されてデニスが現れた。
「レベッカ様が賊に襲われたそうで、ご容態はいかがで?」
「わざわざありがとう。顔を殴られて、怖がっていたが、医者に鎮静剤を処方されて今は眠っている。」
兄がレベッカの部屋に案内した。
レベッカをちらりと見て、廊下に出た。
「これは、ティモシー様。」
「よく眠っている。かわいそうに、痛かっただろう。怖かっただろう。」
「なぜこんなことに?」
兄が
「昨日のデンバー家の娘が金で雇って襲わせたそうだ。賊は捕まえてある。娘とデンバーも拘束してある。」
と説明した。
「なんと、うぬぬ、あの女、そんなに腐った奴だったんすね。許せねえ。」
レベッカは嫌がるかもしれんが、少なくともしばらくの間は通勤に護衛をつけないわけにはいかない。それで差し障りがあるようなら言ってくれ。俺から言い聞かせる。」
「へい。レベッカ様はなかなか良い腕をしてらっしゃるので、これからもっと剪定をしていただこうと思ってたんでやんすよ。でもまあ、ポールもそのうち治って戻ってくるでしょうから、また農園や温室をやってもらえばあぶなくないかもしれやせん。」
「すまない、迷惑かけるな。」
「とんでもねえです。レベッカ様はうちの店の人気者でやんすからね。大事にしやすよ。」
「ありがたいな。どうかよろしく頼む。」
「へい。」
レベッカはその夜はそのままずっと眠っていた。
時々怖い夢を見るのか、うなされていたが、ティモシーが握る手の力を少し強めるとやがて落ち着いていた。
(かわいそうに、怖かったんだろうな。)ティモシーは抱きしめたいと思った。
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