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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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振り出しに

 2018年 リムソンシティ バラッド地区

 オスカーは自分が住んでいるみすぼらしいモーテルの管理人室(殺し屋兼強盗のオスカーの表向きの職業はモーテルの経営者だった。)にラースキンを案内する。

 「ふん、きたねえ部屋だぜ。」とラースキンは言う。確かに彼の部屋は汚かった。部屋の中央に置かれた脚の部分が錆びた鉄製のテーブルの上には灰皿と空のビール瓶三本、半分入ったビール瓶一本、そして蜘蛛の巣がかかっているデスクランプがある。その机の下からのぞく大きな三つの段ボール箱からは、皺だらけの衣服がはみ出ている。どうやらパンパンのようだ。また窓はヤニと埃で汚れており、外から入る光は弱々しい。床も同様にヤニで汚れている。備え付けられた冷蔵庫はビール瓶と冷凍のピザでいっぱいだ。その冷蔵庫の隣には物干しロープがかけてあり、そこに干されている衣類からしたたる水で下の床は黴が生えている。オスカーによると、洗濯機(モーテルの裏庭側の外に設置)が壊れかけているせいだという。しかしそんな乱雑な部屋の中で不自然なほど整理されているのは壁だ。そこには多くのライフル、ピストルなどの銃器が飾られた棚があり、その下に作業台が取り付けられていた。銃器の手入れをするためらしい。また作業台の横に連結された小さな机の上には軍隊時代の勲章が置かれていた。(ラースキンはこれを鼻で笑った。)その隣にある薄汚れた扉の向こうには、黴だらけの不潔なバスルームが広がっている。オスカーは混ぜ物だらけの安物のアロマディフェーザーを大量に置くことでにおいをごまかしている。

 「さあ、まあ座ってくださいよ。」とオスカーは部屋の隅から引っ張って来た虫食いだらけのソファ(オスカーはいつもこれと汚れた毛布を使って寝ているようだ。)にラースキンを半ば無理やり座らせると、洗濯紐の後ろのスペースで何か作業をしている。どうやら簡易的な台所らしい。そこで彼は薄くてまずいコーヒーを作った。

 コーヒーのまずさに顔をしかめながらもラースキンは「こんな汚いところをわざわざ訪問してきたのは、お前に聞きたいことがあるからだ。」と話しを切り出す。「へえ、どんなことです?答えられる範囲でならお答えしますぜ。」かすかに警戒の色を浮かべるオスカー。「実はな、連邦警察署のバウント副支局長のことを知りたい。」「・・・・なぜ俺に?ラースキンさんは警官なんですから、直接お聞きになればよいでしょう?」「いや・・・実はな、今とある事情でバウントと反社会勢力の繋がりを調べている。お前はバウントの手下のバネッサ特別警部とズブズブだろう。何か知っていることはないのか?」「なるほど。代金を多少いただければ・・・・」ラースキンはいきなり飛び上がると、ピストルをオスカーの頭に突きつける。「教えろ。お前のせいで俺は軍隊を辞めることになったのを忘れるなよ。」オスカーは冷や汗を浮かべて目を大きく見開き、震えながら言う。「わ、分かりました。タダでお教えしますから、ど、どうかピストルを下ろして下せえ。」「ふん。さっさとしろよ。」ラースキンはオスカーからピストルを離したものの、銃口は向けたまま促した。

 オスカーによると、バウントはかなり反社会勢力と親密な関係であるようだ。まずソマリアギャングのイエローアサシンズに支局から着服したと思われる金を投資している。彼らが行っている動物の違法改造の活動への投資のようだ。イエローアサシンズとの繋がりは他にもある。彼らから麻薬の売上金を受け取っているのだ。またチャイナマフィアとヤクザの両方から、抗争の仲介料を徴収しているらしい。チャイナマフィアと保安官、ヤクザと警察官の二つの勢力による抗争に介入して漁夫の利を得ているというわけだ。さらにシチリア系イタリアンマフィア連合シチリア評議会の構成組織であるモトリオールファミリーを通じて、シチリア評議会ともパイプがあるらしい。しかし彼は同時にイタリアンマフィアと抗争を繰り広げるチカーノ系とも親しい。チカーノ系の「フレアスグループ」が経営する銀行に裏金を預けているという噂がある。しかしラースキンを驚かせたのは、別の疑惑であった。それは即ち、バウント支局長は反社会勢力との癒着によって生じた資金をさらに誰かに上納しているのではないかという疑惑だ。オスカーがバネッサから聞いた話であるが、彼は定期的に連邦警察本部の高官と連絡を取っていたらしい。自分の得た金について報告をしているようだ。

 「とりあえず、虱潰しに当たっていくか。おい、オスカー、イエローアサシンズに知り合いはいないか?」「知り合い?前強盗で組んだ奴が一人おりますぜ。」「よし、連絡しろ。」

 

 「言っておくがよ、あんたらがボスに歓迎されるわけではねえ。ボスは部外者をあまり好まねえからな。態度には気を付けろよ。」数分後、二人を迎えに来たソマリア系アメリカ人ラークは言う。


 同日夕方 リムソンシティ サン・ドリル地区

 ラークの車は大勢の武装した黄色服のギャングの真ん中に駐車された。二人の男が銃口を向け、「武器を預けろ」という。溜息をついて、ラースキンとオスカーは武器を歩み寄って来た女に渡した。二人の男はオスカーとラースキンの背中に銃口をつきつけたまま近くにある建物の中に二人を押し込めた。

 「やあ。」と黄色い服に黄色いマント、黄色いバンダナをし、肘掛椅子に座ったソマリア系の老人が二人に声をかける。彼の指示で高校生程度の若いギャングが走って、座り午後地の悪そうなパイプ椅子を運んでくる。二人はそこに腰かけた。

 ボスであるこの老人の表情を見てラースキンは背筋に寒気が走った。この老人は一見笑っているように見えたが、目が全く笑っておらず、その中には人生で何人も人を殺めてきた者のみが持つ冷たい光があった。

 「私たちに聞きたいことがあるらしいが?」とギャングボス。ラースキンは慎重に言葉を選んで、バウントとの関係について尋ねた。するとボスは、意外な答えを返した。「彼は・・・我々の取引先と親しい。」「取引先?」「ああ。地下格闘技を主催するバーの経営者だ。彼は我々が行っている改良生物を購入してくれるからな。バウントの事はよく分からんが、バーの経営者の重要な顧客だよ。」ラースキンはこの答えに驚いて、聞き返す。「バーの経営者の名前は?」ギャングボスは目を細めた。「彼との間の信頼関係が壊されることを防ぐためにそれは明かせない。」ラースキンはいつの間にか入って来た大勢のギャングに銃口を突き付けられていることを自覚しながらゆっくりと言う。「ありがとう。用事はそれだけだ。」

 帰りのラークの車の中でにやにやしながらオスカーが言う。「ラースキンさん、振り出しに戻るようですね。」ラースキンは舌打ちをした後オスカーを睨みながら、ぶっきらぼうに答える。「ああ。また地下格闘技場の捜査開始だよ。」

 

 運転中のラークは緊張していた。依頼人達とボスとの間に合意ができていたが、他のギャングの縄張りに一時的にせよ入るのだ。だが言い聞かせる。自分にはオスカーと言う傭兵がついている。


 「おい、ラークさん、道が違くないか?」ラースキンはラークがブルーライオンズの縄張りに入ったことに気づいて指摘したが、ラークは無反応だ。嫌な予感がする。オスカーの方を振り向いて・・・絶句する。オスカーはラースキン愛用のピストルを抜き取り、ラースキンに突きつけていた。「ラースキンさん、申し訳ねえが静かにしてくだせえ。」「お、おい、オスカー、どういうつもりだ。」「ラースキンさんは関わりあっちゃいけねえ連中に関わっちまったんですぜ。」「どういうことだ・・・」ラースキンは冷や汗を流しながら言う。「ブルーショッツと激しくやりあいましたね。挙句の果てにはボスに怪我をさせたとか。」「はあ・・・そういうことか・・・」ラースキンは半ば死を覚悟しながらつぶやく。が、ある疑問があった。「だがオスカー、お前には関係ない話だろ。なぜ奴らに協力する?」「ふん、金ですよ。」「ハッ、金か!お前は雇われたんだな。お前とラークが俺を奴らのところに引き渡す係なんだろう?」「それとね。ラースキンさん、もう一つありますぜ・・・てめえへの憎悪だよ、ゴリラ野郎!」突然オスカーは顔を赤くして怒鳴り、ラースキンのこめかみに銃口を押し付けた。「てめえは俺の行き過ぎた尋問のせいで人生をめちゃくちゃにされたと怒鳴る。だがそれは全てあんた自身が招いたことですぜ。まず俺がテロリストを拷問した際にね、俺はイライラしてたんだ。上官であるあんたの理不尽さにね!それからあなたが奥様と離婚されたことですがね、それだってあんたのDVが招いたことでしょうが!」

 ラースキンは自分の元部下であり、なおかつ現在は金のために犯罪行為をするクソ野郎の言葉に反論できない自分を恥じた。オスカーの言っていることは正しいように思われた。人生がラースキンのものである以上、めちゃくちゃになった人生の責任はラースキン自身が負うべきであるのだ。だが彼はそれを他人のせいにしてきた。自分が軍隊を解雇される原因となった拷問事件を起こしたオスカーだけでなく夫婦関係の悪化を妻子のせいにして暴力をふるった。離婚すると今度は情けなく親権を要求した。自身の情けなさに気づいた。「報いか・・・アイリーン、すまん・・・」そう呟いてすっかり諦めたラースキンは、目的地への到着をひたすら待つ。


 ブルーライオンズが所有するグラウンドには青いTシャツと青いバンダナを付けた者たちが大勢集まる。ブルーライオンズ、そして憎悪のこもった目で見つめるブルーショッツだ。

 「どうもありがとさん。あんたのボスによろしく伝えてくれよ。」とラークの肩をたたきながら言ったのはおそらくブルーライオンズのボスと思われる筋骨隆々の男だ。

 ラークとオスカーに銃を突き付けられて連れていかれた先には、車いすに座って怒りで肩を震わせるボスを取り囲んだブルーショッツのメンバーがいた。ラースキンを受け取った彼らは「クソ野郎!」といいながら唾をかけ、激しく罵った。彼らはグラウンドの真ん中にラースキンを引きずり出すと、押し倒し、集団で殴る蹴るの暴行を加える。外側からはブルーライオンズが煽り立て、ブルーショッツの暴行は激しさを増す。意識を失っていく中、最後に車の急停車の音が聞こえた・・・

 

 翌日 早朝 ニューカブキチョー ムサシノクラブ

  薄く開けたラースキンの目に光がさす。体の節々が痛い。「おう、起きたか。」と言う声が聞こえた。ラースキンは体の痛みに耐えながら身を起こした。

 目に前にはアカハネ刑事を通じて知り合ったヤクザ組織「武藤会」のオザキがいた。彼は用意したフトンに寝るラースキンを見下ろす形で座っていた。「生きてる・・・」ラースキンはぽつりとつぶやく。「ああ。俺が駆け付けたときは虫の息だったけどな。運び屋の体を解体中のダニエルを引っ張ってきてあんたの治療にあたらせたよ。」とオザキ。

 ようやく頭がはっきりしてきたラースキンは、唐突にオザキに聞く。「お前らヤクザの狙いはなんだ?また人種攻撃に俺を利用しようというのか?」オザキは謎の笑みを浮かべながら言う。「いやいや、これは俺の友人の失態でな。何とアカハネの奴がブルーショッツの連中につかまった際お前を黒幕に仕立て上げやがったのさ。」「何!?」ラースキンは驚く。アカハネがファシストのクソ野郎だと知ってはいたが、ここまで腐りきっているとは思わなかった。「俺は先日お前を売った話をアカハネから聞いてな、ヤクザ特有の任侠魂に怒りが付いたぜ。そして、逆にアカハネに一切の責任を押し付けてやることにした。俺はお前が拷問されている最中にブルーライオンズのグラウンドについてね。彼らと取引してきた。つまりだぜ、逆にあの卑怯者のアカハネをはめてやるんだ。今頃奴らは俺の手下からアカハネを受け取っていることだろうよ。」アカハネもクソ野郎だが、オザキも卑怯者だとラースキンは思う。まずオザキに「任侠魂」などというものはない。ラースキン救済の名目でアカハネを犠牲にして、黒人ギャングにヤクザへの警戒心を解かせることが彼の真の狙いであることは明白だ。黒人ギャングが油断したところで、再び奇襲攻撃を仕掛けるのだろう。だが・・・奴が俺を利用するつもりなら俺も奴を利用してやる。


翌日 リムソンシティ ホーネット地区 地下格闘技場に通じるバー

 オザキを目にするとバーの入り口のボディガードは緊張する。彼がニューカブキチョーの大物であることはバーの関係者も知っているようだ。そしてオザキが地下格闘技の会員のラースキンを連れていることに驚いているようだ。

 席に着くと、オザキはカクテルを二つ注文してウェイトレスに、「支配人と一対一で話し合いたい。」と言う。ウェイトレスは無言で一礼して、「支配人室」と書かれた奥の部屋に消えた。「うん。」とラースキンは頷く。やはりオザキを利用する作戦は正解だった。おそらくオザキのような影響力のある人物でないと支配人との面会を望んでも拒絶されるだけだろう。

 ラースキンは緊張しながら黒スーツの警備員の案内に従って支配人室に入る。イエローアサシンズのボスの証言通りならばバーの支配人が地下格闘技も運営しているはずである。

 支配人はおおもねラースキンの予想通りの人物だった。スキンヘッドの髪を緑色に染め、首と腕にタトゥーを入れた筋肉質の男で、派手なピンク色のTシャツを着ていた。彼は支配人室の真ん中にある椅子に座り、ウェイトレスに持ってこさせた酒を飲んでいるところであった。彼はかけていたサングラスを外すと、警戒心たっぷりの目で二人を見つめる。「こんにちわ、まさかオザキさんとお会いできるとはね・・・すみませんな・・・、おい、そこに突っ立ってないでお客様に椅子を持ってきて差し上げろ!」男は威厳たっぷりに戸口に立つボディガードに命じた。

 「要件は?」持ってこさせた椅子に二人を座らせると支配人は単刀直入に聞く。ラースキンが「あんたが地下格闘技場のリーダーか?」とこれまた単刀直入に質問する。だが男はしばらく黙った後、意外な答えを返す。「俺は表向きのバーの支配人ですよ。確かにこのバーは地下格闘技場のカモフラージュですが、ボスは直接ではなく私を通じてバーを経営しているのです。まあ地下格闘技場はボスが直接仕切っていますがね。」「何!?お前が地下格闘技を運営しているのではないのか?」「違いますとも。私は書類上のバーのオーナーですよ。」「ではあんたのボスとやらはどこに?」とオザキ。支配人はあきらかにオザキを恐れているようで、すぐに「今日調度きております。」と言って、机の上の電話機を取ると、内線をかけた。「ええ、はい・・・ですが武藤会のオザキ様がみえております・・・はあ、ただいまそちらにご案内しても・・・ええ、ではよろしく。」支配人は直接「ボス」と話しているようだった。

 支配人は自ら二人をボスがいるという「応接室」に案内する。

 「よお。」応接室に入った途端声をかけた人物を見てラースキンは驚く。その人物は、リムソン市警に出入りしている風俗店支配人のホーバンだった。そして傍らにはラースキンの同僚で、ホーバンの店で風俗嬢として副業もしているマーガレット巡査がいた。

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