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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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連続殺人

2018年 リムソンシティ ベルマン通り

 男は執事の呼びかけを聞くと屋敷の階段を下りる。

 「ビィルヘルムキャブのご利用をありがとうございます。」と筋肉質のタクシー警備員が玄関前で出迎えた。彼はタクシーに乗車して利用者の安全を守る役割を持つ。

 リムソンシティのタクシー会社「ビィルヘルムキャブ」は富裕層向けの高級タクシーを運行させている。このサービスではリムジンのタクシーに警備員が二名付き、さらに小さな冷蔵庫とテレビも車内にあるという。また最新のものから伝統的なものまで、あらゆるジャンルの楽曲が入っているため、移動中に流す曲も決められる。

 男は手元のテレビ番組表を見て、つまらなそうだと思ったので運転手に「空の艦隊」とつぶやく。タクシー会社社長のビィルヘルムと親しい者だけが使えるこれは秘密コードで、社長のビィルヘルムの作家としてのデビュー作の名前だ。(ビィルヘルムは作家として成功して富豪になった後タクシー会社を買収してビィルヘルムキャブを作り上げた。)このコードを言うと違法番組を見ることが出来る。

 彼が手渡された「裏番組表」から選んだのはダークウェブで配信された、地下格闘技場で人が殺し合う様を配信した番組だ。この男は地下格闘技場の賭けの会員で、何度も足を運んで生の殺し合いを目に焼き付けている。さらにはダークウェブ上にある配信も観ている。この番組のファンなのだ。

 「ふう・・・」冷蔵庫から取り出した安ワインを飲みながら映画を見て満足気に呼吸するこの男。彼は富裕層の住宅街であるベルマン通りに家を構えていることからも分かるように、富豪であった。具体的にはリムソンシティで一二を争う程の実績を上げている不動産会社「ライフプラス」の社長ゴードンだ。この街ではこうした街の有力者たちがギャング・マフィアと並んで町を支配する勢力となる。


 同日 三十分後 とある建物の裏側

 憎しみをこめて男は覆面の下の顔を歪める。提供された情報によれば、ビィルヘルムタクシーの高級車で乗り込んできたあの男こそ彼が殺したい相手だった。

 数時間後、標的が裏口に現れた。


 「よお、ここでやるのか?ええ?」不動産会社の社長ゴードンはバーでナンパして「手に入れた」若いウェイトレスを脱がせにかかる。彼女は無邪気な笑い声でこれに応え、二人は行為の準備をする。

 酔っているのと、女の華憐な肉体を目にした興奮でゴードンは忍び寄る殺気に気づかない。いきなり背中に痛みが走る。「死ね!」と大声がして、何か固い物で背中が何回も殴られ、激痛が走る。女は「キャー!」と叫んで混乱のあまり服が脱げかけた状態のまま建物に入ってしまった。ゴードンが身を起こそうとすると、更なる激痛と爆音が襲う。「少しずつ殺してやるよ。死ぬ間際に俺の顔を見せてやろう。きっと驚くぜ。」と低い男の声。背体中から流れる血に染まる地面。爆音はピストルを数発撃った音で、全て命中。男は狂気的な笑い声を放つとゴードンの髪の毛をつかむ。そしてゴードンの顔を引き寄せると手にした鉄棒で何度も殴る。ゴードンの歯が飛び、鼻の骨が折れて、一瞬で失明する。「お前は何者だ?」と喉の底から絞り出した問いを無視し、男はさらにゴードンの体に弾を叩きこんだ。

 耐えがたい痛みで徐々に気を失うゴードン。命の炎が消える寸前に彼は、男が覆面を外すのを見た。そして驚いた表情のまま彼は死んだ。



三日後 リムソンシティ マイルーズ通り

 この通りは貧民街の端に当たる通りだ。ここでは廃屋のみが立ち並び、その中から溢れているごみの山がひび割れた道路の上で臭いにおいをはなち、さらにはその間に鉄板で作ったホームレスの住処が並ぶ。

 その住処の一つでぼろきれを纏った無精ひげの老人が酒屋に押し入って盗んできた酒を飲む。その後彼は麻薬売人のダニエルから渡された新作の麻薬を吸う。(ダニエルは新作麻薬を流通させる前にホームレスで実験をしていた。)彼は満足気にため息を漏らす。彼の唯一の楽しみは酒と麻薬だ。

 彼がこのような荒れに荒れ切った生活を送るまでに至ったことには理由がある。彼はもともと狂暴なことで名高い一匹狼のプロ強盗であった。リムソンシティを拠点としていたが、その活動内容はアメリカ中の裏社会で武勇伝として語られていた。だが彼はある時組んでいた仲間に裏切られて刑務所送りになってしまった。そこから彼の人生は転落したのだ。刑務所内カーストは最底辺。彼を裏切った者がプリズンギャングに多大な影響力を及ぼしている大物の息子だと後に知った。プリズンギャングのせいで彼は麻薬漬けの奴隷とされた。麻薬漬けの刑務所生活を終えて帰って来た彼を強盗達は歓迎しなかった。彼は裏社会は危険だと判断して表社会で生きていこうとしたが、元強盗の薬物依存症の人物など雇ってくれるところはなく、やむなくホームレス社会に入ったというわけだ。

 そのような過去を振り返り、溜息をついていた時だ。突然自分の「家」が壊れた。鉄板が崩れ、その上からは銃声!銃弾が何発も体に当たる。状況を理解する前にすさまじい痛みが体中を襲う。「家」の残骸からはい出した彼の頭に、鉄棒が何度も振り下ろされる。

 無様に生きたこのホームレスの死にざまはやはり無様であった。


二日前 リムソンシティ 中央区 とあるカフェ

 ラースキンとオスカーは今、連邦警察のバネッサ特別警部と向かい合っていた。

 彼女は連邦警察リムソン支局の警部の中で最も優秀だといわれている女警部だ。数々の事件において捜査本部の幹部となり、中心的な役割を果たしてきた。その功績により、市長から勲章が送られたほどであった。

 だが彼女の裏の顔は犯罪者から賄賂を受け取っている悪徳警官であった。彼女は麻薬売人や犯罪組織構成員と賄賂でつながっているため、連邦警察リムソン支局上層部は彼女を「汚れ仕事役のエージェント」として使っていた。つまり上層部公認の収賄だったわけである。

 現在は強盗を生業としている元軍人オスカーも彼女に賄賂を払っている犯罪者のうちの一人だ。彼はラースキンとともにバラッド地区の建物内でむごい殺され方をした死体を発見したとき、つながりのあるこのバネッサ警部に連絡した。

 リムソン市警に連絡するとこの死体を発見する契機となる「アイリーン誘拐事件」を話さなければならなくなり、そうするとリムソン市警巡査であるラースキンの警官としての生命はおわるのだ。なぜかというと、それは死んでいた男が仲介した依頼によってギャングに誘拐されたアイリーンという女性は捜査対象者のうちの一人であったにも関わらず、ラースキンが肉体関係を持った女性であるからだ。リムソン市警へ通報する場合死体発見の契機を話す時に困るのだ。

 その点連邦警察リムソン支部のバネッサ警部はある意味信用できる。「ある意味」といったのは彼女は決して信用できる人物ではないからだ。だが金次第で有力な味方となる人物である。そして強盗であるオスカーは金を大量に持っている。つまり彼女は今「信用できる」状態にあるというわけだ。

 バネッサは事情を聴くと即座に「分かったよ。あんたの発見した死体、うちに任せな。ただし報酬は高くつくよ。」と言って去っていく。オスカーによると彼女は連邦警察リムソン市警副支局長のバウントに高く買われており、捜査本部の設立はバウントの後ろ盾を使えば簡単にできるらしい。

 「ところで報酬だが・・・」とラースキンが言った時、オスカーは嫌な予感がする。「ええと・・高くつくようですな・・・・」「ああ、そのようだね。とてもじゃないが払いきれない」とラースキン。「私も・・・」しかしラースキンは机の下でオスカーの足をいきなり踏みつける。そして小さくかつ低い声で威嚇した。「オスカー、お前のせいで俺の軍人としての生命は終わったのだぞ。お詫びをしてもらんとな。後な、俺はお前がどのような類の仕事をしているか知っているぞ。警官である俺がな。俺の立場を使えばお前を刑務所送りにできるのだぞ。」「わ、分かりました・・・バネッサへの報酬は俺が支払います。」こうしてオスカーが強盗でためた金は即座に消えることが確定した。


同日夜 リムソンシティ ダック地区 バー「ウルフガン」

 ラースキンは目の前に座るピンク色の覆面をつけた男に聞いた。「アイリーンと言う商売女の情報を知らんかね。」「アイリーン?さて・・申し訳ないが力になれそうにない。」「ああ、じゃあ他の質問をしていいか?」「ああ、何だ。」「有名な犯罪仲介人の死体が惨たらしい様子で発見された。犯人に心当たりは?」その男は少し間を開けて「さあな・・・」と言う。「分からないか、じゃあな。」「ああ。」とそっけない返事をしてピンク色の覆面男は運ばれて来たビールを飲む。

 ラースキンは出ていったが、入れ違いにこの「ピンキーマスク」という情報屋のもとを三角に整えた髭を生やしてスーツを着たこの場に似合わない恰好の男が訪ねてきた。男は唐突に「バウント連邦警察副支局長と犯罪組織の繋がりについて聞きたいのだが・・・」と言う。ピンキーマスクは冷静に知っている情報を教えた。男は丁重に礼を述べると、ピンキーマスクが提示した金を置いて帰る。


  二日後 リムソンシティ チャイナタウン

 閉店後の中華料理店の台所。太って無精ひげだらけの店長が傍らで食器を洗っている青年の胸倉をいきなり掴み、怒鳴りつけた。「おい、のろま。食器洗いをしてる場合じゃねえだろうがよ。裏庭から小麦粉運んでこいや!」「は、はい!」「あとひとついいか・・・」店長は嫌と言う程青年に顔を近づける。「この間みてえにちんたら一度に1袋ずつじゃねえぞ。二袋ずつだ。」「では台車を・・・」「馬鹿野郎!殺されてえのか、お前は。手で運べ。台車はボス達の経営するスーパーへ納品する品を運ぶために使う。」「はい・・・」「さっさと行ってこいや!」店長は涙目の青年を床に突き飛ばすと台所を出て行って裏口に台車を取りに向かう。

 青年はいきなり床から立ち上がると腕まくりをし、大きな業務用のゴミ箱の裏に手を入れる。そこにはトカレフがあった。ロシア人連中がくれた品だと上司は言っていた。そのまま裏口に出る。

 店長は「ったく、あのゴミが・・・役に立たねえ・・・」と言いながら台車を裏口の倉庫から引っ張り出して、業務用冷蔵庫に向かう。その途中、店長が毛嫌いしているあの要領の悪い青年の下働きに声を掛けられる。「あの、店長!」「ああん?さっさと袋運べよ。」「俺が本当に下働きだと思ってるのか?」「ああ?うわっ・・・・す、すみません・・・」青年のまくった腕には大きな鬼のような紋章の入れ墨がある。その入れ墨は中華街を支配するチャイナマフィアを構成する組織のひとつ、ウォンファミリーの所属であることを示していた。この中華料理店はウォンファミリーの出資で創業された店のひとつで、実質オーナーはウォンファミリーだった。「あんたについては賞味期限切れの食品を使っている、残飯を使いまわしている、金を着服している、そして部下を奴隷のように酷使するなど様々な噂があってな。俺はそんなあんたの噂の真偽を確かめる任務を帯びてこの店にボスから送り込まれたんだよ。そして・・・噂は全て真実だった。」そういって青年はトカレフを取り出す。「ま、待ってくれ・・・お許しください」先ほどのパワハラ上司から一転、店長の顔は青ざめてがたがた震える。「おっと、ウォンファミリーの懐刀ともいわれる俺を散々ひどい目にあわせて、許してください、だと?俺を何回殴った?俺を何回突き飛ばした?俺に死ねといっていただろう?だがそんなあんたの本質は泣きじゃくるくそじじじいだったな。」青年はそういうといきなりひれ伏す店長の頭を踏みつける。「うっ!」絶句した店長のその頭にトカレフを押し当てて「お前のようなゴミのために俺らは出資してるわけじゃねえ。お前はいらん。」と言い放ち、青年は引き金を引いた。

 血だらけのエプロンを大きな黒い袋に捨て、店長室に入った彼は下働きの青年の正体に驚く副店長兼料理人長に電話をかけて、明日から店長として業務を開始するよう命令した。そしてその後もう一本電話をかける。

 その電話を取ったのは表向きはマッサージ屋である麻薬保管所の管理人だ。彼は電話の相手がボスのお抱えのヒットマンだと知ると丁寧に「今お電話変わっていただきますね。」と言い、別室でマッサージを受け終えて酒を飲んでいる体格の良い初老の男に電話を差し出す。男は「おう、ご苦労さん。ああ、死体処理業者を向かわせるまで待機していてくれ。あとな、一仕事おわったところで申し訳ないんだがこれはウォン様からの命令でな、ウォン様の取引相手の警護をやってほしい。住所は業務用携帯に送るから後で確認しておいてくれ。」と穏やかに言う。この男こそウォンファミリーのボスであるウォンが唯一絶対的に信頼している右腕のカンだ。

 

 かくしてウォンファミリーのヒットマンであるキムはウォンと手を組んでいる不動産会社社長のゴードンの家についたのだった。だがゴードンの家の前には保安官事務所の車が停まる。停まっている車の運転席に知り合いの保安官助手がいたことに気づいたキムは「よお。」と声をかけて事情を聞く。「よお、キムさんか。」「ああ。で、こりゃどうしたことだ?」「実はな・・・」

 「何だと!ゴードンが殺された!?」「ああ。とあるバーで惨殺されていたらしい。」「これはボスに・・・」キムは慌てて公衆電話に向かうが、その時保安官助手が止める。「我々のボスからお宅のボスに連絡がいっているはずだ。」実はリムソンシティンの保安官事務所とチャイナマフィアは癒着していた。チャイナタウンをヤクザなどの勢力から守る代わりに保安官事務所は賄賂とチャイナタウンでの風俗をはじめとするサービスを受けていた。

 キムがウォンからの直接の電話を受けて戻ると、保安官助手は携帯電話を取り出した。とある番号にかける。「もしもし、あー、こんにちわ。実は我々が着手しようとしている事件がありましてな。」「ありがとう。いまから向かえばいいかしら。」と女の声が聞こえる。「ええ。」「どんな事件かしら。」「とある富豪の惨殺事件ですがね、そちらが着手している犯罪仲介人の殺人事件と似ているところがありまして・・・・」「あなた達の仕事を横取りすることになるけど・・・」「ええ、構いませんよ。しっかりと報酬さえいただければね。」とその保安官助手は怪しい笑みを浮かべて言う。

 




 

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