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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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死闘

 2018年 リムソンシティ 行政特別区 バー「海の爪痕」

 リムソンシティ税務局と消防署の間にある大型ビルの八階に「海の爪痕」がある。この現代的な雰囲気のバーは警察ご用達のバーである。

 一人の筋肉質の男が窓際に座ってちびちびと安いビールを飲んでいた。彼の目に光はなく、始終溜息をつきながら時々拳を握りしめる。彼は飲み終わると近くの店員にグラスを差し出す。「もう一杯頼む」どうやらやけ酒のようだ。

 この男は元軍人の新人警察官ラースキンで、リムソン市警に勤めていた。ところが今は停職中だ。彼は先週まで地下格闘技場に潜入捜査をしていたが、格闘技場が雇う商売女と禁断の恋愛をしてしまったのだ。さらに運が悪いことに彼と商売女アイリーンが泊まったホテルは宿泊客のスキャンダルを集めてその情報を売る副業を行っていた。(実はこのホテルを経営しているのは韓国系の富豪グループであった。彼らは韓国ギャングの幹部を支配人に据え、裏社会とも積極的につながりのあるグループだった。)ラースキンとアイリーンが関係を持っている情報はリムソン保安官事務所の保安官の手に渡り、保安官はライバルである市警を追及した。その結果市警は全入捜査を停止せざるを得なくなり、ラースキンは上層部の怒りを買って二か月分の給料返上と無期限の停職を言い渡された。

 彼はアイリーンを愛していた。だが、しばらくは彼女の顔を見る気分になれなかった。


同日 ジェファソンシティ(アメリカ共和国首都) 行政特別区 連邦警察本部

 ハリー特別警視はボスの部屋をノックした。「お入りなさい」と穏やかな声が聞こえた。ハリーは「失礼いたします。」と言ってさっとドアを開け、室内に足を踏み入れた。

 連邦警察組織犯罪対策局長の部屋とは思えないお洒落な部屋だ。壁には何枚もの有名な絵画のレプリカと、アン局長が若いころ書いた父親の肖像画が飾ってある。(アンの父親はかつて首都警察副総監をつとめた男で、肖像画はその時のものだ。厳格ながらもどこか温かみのある表情をしている。)それを挟むように鎮座するのは二つの棚だ。一つは歴代局長が受け継いできた幹部教書や事件資料、引継ぎ事項の資料などがしまわれている灰色の鉄製本棚だ。そしてもうひとつの本棚は紅茶やコーヒー、クッキーなどがしまわれている彼女が持ち込んだ木製の棚だ。ところどころ花柄の彫り物が施してある。透明な幹部机の上にはきちんと大きさをそろえて積み上げている書類が置かれ、その前に印鑑と金色の万年筆、内線用の白い電話、そしてアロマディフェーザーが置かれる。

 アン局長は制服さえなければ普通のお洒落好き貴婦人である。だが実際にはこの穏やかな笑顔を浮かべた女性がダスケ(アメリカ共和国最大の黒人マフィアのボス)やビィレグ(アメリカ共和国最大のバイカーギャングボスで、ダスケのライバル)やロカンチェ(アメリカ共和国最大のイタリアンマフィア幹部)などの大物と渡り合い、アメリカ共和国からの組織犯罪撲滅を主導しているのだ。

 彼女は棚から紅茶のティーパックを取り出し、来客用机の上に湯沸かしポットを置いた。「まあお座りなさい。」とハンナは湯沸かしポットの電源を入れながらハリーに声をかけた。ハリーは一礼して綺麗な薄緑色の来客用ソファに腰を下ろす。ハンナは向かい側の重厚な灰色の肘掛椅子に腰を下ろす。

 「いきなり呼び出して申し訳ありませんね。」「いえいえ、ところでどんなご用事ですか。」とハリーが尋ねる。「実はね、あなたが率いるチームに特別任務を与えたいのよ。」とアン。「任務?」「ええ。」(と言いながら彼女はポットの電源を切って紅茶を入れ、差し出した。いつも通りの甘さと酸味、苦みがうまく調整されたおいしいお茶だ。)「この任務は極秘だから慎重に遂行して欲しいけれど、リムソンシティ副支局長のバウントについて潜入捜査して欲しいの。」ハリーは不思議な顔をしながら問い返す。「彼が捜査対象なのですね?」「ええ、そうよ。彼が複数の犯罪組織とつながっている噂は前からあったでしょう。」「ええ。彼に限らずリムソン支局の上層部は昔から何らかの疑惑がありました。」「でしょ?そろそろ支局にも本来の役割を果たしてもらいたいわけ。あそこの地域は治安が悪いわね?」「ええ。貧困、麻薬、違法風俗、そしてマフィア・ギャングが名産の街ですからね。」とハリーが真顔で冗談を言う。「そう。そこで警察組織が機能しないと困ったことになるわね。」ハリーはこの方こそ私の上司にふさわしい、と思いながら「はい。承知しました!」と気合をこめた返事をした。ハリーの歴代のボスは皆こうした腐敗には目をつむってきた。彼らは自分達の権力基盤である警察の威信を傷つけたくなかったのだ。だがアンはそのような臆病者の幹部ではなかった。彼女は権力よりも公正を守り抜く、という警察幹部本来の役割を認識していた。

 早速ハリーは極秘捜査班を結成するためにオフィスに戻った。


一週間後 リムソンシティ ホーネット地区 地下格闘技場

 ラースキンが入っていくと、アイリーンは顔を輝かせて駆け寄って来た。「久しぶりね!どうしたのよ。顔も見せないなんて」とアイリーンは言い、ラースキンを抱きしめる。適度に香らせた香水のにおいが二人を包み込む。「ああ、実は職場で色々トラブってな。すまない。」とラースキンも強く彼女を抱きしめる。

 ダメなことをしている自覚はあった。だけど彼は完全にアイリーンの虜だ。アイリーンと離れたくない。そう思っていた。

 「今日は何するの?」「トレーニングだ。いつも通り君の期待に応える。」そうラースキンが言った時、「おいおい、兄ちゃん、あんたそろそろデスマッチに移行してもいいんじゃねえかい。」との声がした。見上げると、ガラの悪い大柄のギャングが立っていた。チームカラーである青の服を着る。「おう、あんたはブルーショッツだな?」とラースキン。無意識に体の後ろにアイリーンを隠す。ブルーショッツはハイチ系の黒人ギャングのうちのひとつで、リムソンシティの中でも恐れられているグループだ。大物黒人ギャングのダスケでさえ彼らには手を焼いているという。(ハイチギャングはおおむねダスケに忠実だがブルーショッツは例外的だ。彼らは他のハイチギャングと対立しているソマリア系ギャングと同盟を結ぶ、いわばハイチギャングの「異端」だ。)「そうだ。良く分かったな。で、デスマッチはどうする?」にやにやするブルーショッツの男。「そうだな・・・今はまだ十分体つくりが出来ていないから・・・」すると、いきなり後ろから声がかかる。「おいおい、あんた俺らの立場にびびってんのかよ。」見ると、陰湿な笑みを浮かべたムキムキの男のブルーショッツメンバーがいた。「はっはっは・・・」とその後ろで別のメンバーが大笑いする。気が付くと周りを大勢のブルーショッツメンバーに囲まれていた。アイリーンを引きよせ、ラースキンは怒りの声を上げる。「いいか、俺は戦いたいときに戦う。お前らに関係ない。散れ!」「ああん!俺らを何だと思ってやがる。」と誰かが言う。別の男がラースキンの目の前に立つ。「なんだよ、群れでしか俺に対抗できねえくせによ。」とラースキンはその男を睨みつける。男も睨み返して拳を固める。アイリーンに「いったん逃げろ。」とささやくとラースキンはファイティングポーズをとった。ギャングたちは取り巻いて眺めている。緊張感が走り・・・「おっと、お客さん方、場外乱闘は禁止ですぜ。」睨みつけるギャングたちをものともせずにかきわけて眼帯の男が入って来た。殺気立つギャングたちであったが、眼帯の男が引き連れた護衛が重武装でライフルも持っていることを着て取り、ぶつぶつと抗議するのにとどめた。「そうだな、あんたの言うとおりだ、オッサン。だけどよ、俺らが勝負を挑んでもこいつ臆病だからさ・・・」とギャング。「何だと!お前たちは集団で俺をボコるつもりだろ。お前たちこそ群れではないと何もできないじゃないか!」眼帯の男はにらみ合うラースキンととギャングの肩に手を置き、「では私が監視していますのでお二方でデスマッチをおこなってみたらどうでしょう。」と言う。「ああ、俺たちはさっきそからそれを提案しているだろう、だけどこいつは俺らを怖がって・・・」「おいおい、しゃべってる暇はねえぞ、臆病者。早くナイフを選べよ。」とラースキン。彼は頭に血が上り、戦う気になっていた。

 二人の大男が今、鉄の檻の中でナイフを振り回してにらみ合っている。どちらも筋肉質で、どちらも目が血走る。審判が檻の上に設置された審判席に上ると、檻の周辺から歓声があがる。ブルーショッツのユニフォームを着た選手の側にはブルーショッツメンバーと賭けをする人々が、反対側の上半身裸になったラースキンの側にはアイリーンや、ブルーショッツと対立するハイチギャングのレッドスパロウズのメンバー、そしてラースキンに賭けている金持ちたちがいた。審判が「では、試合開始!」と叫ぶ。

 ナイフを持ち、威嚇しあいながら檻の中を回る二人の選手。「かかってこいよ、臆病者!」との言葉に反応して切りかかるブルーショッツの男。ラースキンはそのナイフをかがんで避け、足をかけて相手を転ばせる。相手の頭を踏んづけようとしたが、相手は身を起こして頭突きを食らわせる。反動の力で一気に飛ばされて檻に背中を打ち付ける。激痛に耐え、立ち上がったラースキンの前にナイフがせまる。アイリーンが悲鳴を上げたが、ラースキンは横に避けて相手の後ろに回りこむ。首に手をかけたラースキンだったが、相手は暴れてラースキンを振りほどき、押し倒した。二人は唸ってたちあがると、ナイフを捨てて両手を相手の首にかけ、互いに力を込めた。「殺してやるぜ。」「ああ、こちらもそのつもりだ。」なかな決着がつかない。二人はいったん互いに手を離すと、殴り合いに移行した。ラースキンが相手の顎を殴ると、相手はその腕をひねりあげてラースキンの腹を殴る。激痛で腰をおってうずくまるラースキンを蹴り倒し、のしかかるブルーショッツの男。ラースキンは男の手が伸びる様子をみながらも、なぜか余裕そうだ。男はその表情に気が付かずにラースキンの首に手をかけ・・・激痛で腕をひっこめた。見ると、手はざっくりと切られている。次の瞬間、男は倒れた。ラースキンが男の手を切ったナイフを片手に、男をつきとばしたのだ。起き上がろうとする男の首にナイフを当て、ラースキンは首を搔き切った。血がラースキンの服に飛ぶ。審判がラースキンの勝利を宣言した。

 疲れ切ったラースキンは自分の陣営の方を向いてアイリーンを探そうとして・・・固まった。アイリーンはブルーショッツの者に何かを口に当てられて倒れ、それをブルーショッツのメンバーが二人がカロで担いで調度出口を出た。ナイフを捨てると開けられた檻の扉から外に出て、ラースキンは走り出した。

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