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ブラックストリート  作者: エッグ・ティーマン
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情事

 2018年 リムソンシティ レクソン通り ドラゴンホテル

 リムソンシティで唯一の高級ホテル、ドラゴンホテル。その駐車場に一台のタクシーがとまる。派手な黄色のビィルヘルムキャブのタクシーだ。ビィルヘルムキャブのCEOのビィルヘルムはホテルの元の所有者の一人であり、現在は経営アドバイザーとしてホテルに関わっている。そのため、ドラゴンホテル行きのタクシーに金はかからない。

 この無料タクシーからカップルらしき人影が降り立つ。一人は筋肉質の金髪の男性。もう一人は茶髪のロングヘアの女性。かなりの美人だ。二人とも少し酔っていた。

 金髪男はラースキン巡査で、美人女性は接待嬢のアイリーンだ。二人は玄関前の警備員に挨拶をしてフロントに入る。まばゆい光が当たりを包む。大きなホールのようなフロントは天井からつるされる無数のシャンデリアに照らされている。窓際を南国風の観葉植物が取り囲み、その間に大理石のテーブルや木製のベンチが設置されている。フロントの中央には噴水があり、その縁をベンチが囲む。部屋の壁には窪みがあり、アロマキャンドルが美しく燃えている。奥の方にはカフェとバーがあり、人々の喧騒が聞こえる。受付は右側の壁にあり、きっちりとした銀色のスーツを着た初老の男性が対応した。

 「はい、スイートルームには空きがございますよ。案内させましょう。」初老の男はベルを押す。すると赤いスーツの青年が現れて、二人をカフェとバーの間にあるエレベーターに案内する。エレベーターには警備員が乗っており、彼の操作でエレベーターは十三階に着く。出ると、美しい廊下だ。フロントと同じくアロマキャンドルが燃えている。さらに壁のところどころに水槽が埋め込まれており、綺麗な魚やクラゲが泳いでいる。「こちらの部屋ですね。」といって青年が案内した部屋の前には監視カメラが二台もついている。さらに青年はカードキーを渡す。「こちらのお部屋になります。室内のものは冷蔵庫の軽食と飲み物、ベランダのプールを含めてご自由にお使いください。ルームサービスはソファの上にあるパンフレットをご覧ください。」といって青年は戻っていった。

 「おお、綺麗な夜景だね。」ラースキンはベランダにアイリーンを連れる。プール脇に白いプラスチック椅子が置かれていた。二人はそこに座り、さんさんと輝くこの無法地帯リムソンシティを眺めていた。しばらくして、ラースキンはアイリーンに「プールで遊ぶかい?」と聞いた。アイリーンは白く綺麗な歯を見せて「いいえ。もう待ちきれないわ。」と言ってラースキンを室内に引っ張った。二人はそのまま絹製のベッドに倒れこんだ。アイリーンがラースキンのズボンのチャックに手をかける。ラースキンがアイリーンの胸に顔をうずめる。ラースキンの片手はアイリーンのブラジャーに向かう。二人は激しく布団を乱しながら攻防戦を繰り広げる。

 このホテルの最上階、支配人部屋の肘掛椅子に座って夜景を眺めている韓国系の男。彼は剥げており、その禿げ頭には無数の切り傷。縮れた無精ひげとぼさぼさの眉。そんな男が高級スーツに身を包んでいる。異様な男だ。突然部屋の真ん中にある透明なテーブルの上の電話がなる。男は椅子から立ち上がり、電話に応答。「どうした?何!?それは貴重な情報だ。」男の目は異様に輝く。「ああ。明日清掃人に回収させる。私はこの情報に食いつく連中とそれからボス達に連絡しておく。」男は電話を切った後口をゆがめて軽く笑うと電話をかける。「もしもし。そうだ。ああ、あんたが欲しそうな情報がある。明日俺の部下と会えるか?ああ、チャイナタウンでいいのなら。ああ、詳しい話は明日決めてもらう。金額も含めてな。じゃあな。」


同時刻 リムソンシティ バラッド地区

 廃墟二つの間に挟まれたコンクリート張りの平屋。その一室に壁中コンピューターだらけの部屋があった。さらに四つある木製の机の上は沢山のファイルで埋め尽くされる。それらの机に囲まれて作業机とチェアがあり、そこで一人の太った男がパソコンに向かって作業をしていた。

 その時、男の目にあるブザーがブブーとなり、壁のコンピューターのひとつが点滅した。男は鼻の下に生えているちょび髭をしごきながら壁のコンピューターの近くによる。「ほうほう。あいつからか。う~ん、誘拐ねえ。少し値が張るけど・・・」と言いながら男は黒いスマートフォンを取り出し、電話をかけた。


四日後 夜 ドラゴンホテル

 ラースキンは家には帰らず、このホテルから勤務することにした。いわばアイリーンとホテル同棲生活をしている。ホテルの代金はアイリーンの莫大な給料で支払われている。アイリーンは昼間ラースキンがどのような職業に就いているのか気にしていないようだった。そして夜は彼女と闘技場で話した後、ホテルまで一緒に戻る。ホテルでは愛を伝えあい、行為におよんだ。彼女との時間は幸せで、スリル満点だ。

 今夜も二人は互いに体を預け、愛を語り合う。「君と出会えてよかったよ。無色な俺の人生に君が色をつけてくれた。」「あらまあ、なんて詩的な表現なんでしょう。いい男ね・・・」「君は仕事はやめないのか?」「あら、私が他の男に奪われるのが怖いのかしら?」「それは・・・・ああ、そうだ。実を言うと怖い。」ラースキンは自然に答えていた。もう自分に驚くことはない。捜査対象であるアイリーンを恋人にしているラースキンだが、自分でこの状況を受け入れていた。一戦を踏み越えたと分かっていてももはや止められなかったのだ。

 盗聴器が仕掛けられている部屋に今日も二人の喘ぎ声が響く。


二日前 リムソンシティ 行政特別区 リムソン警察

 「こんな忙しい時にどのようなご用件で?」といらだたしげにモニカ副署長はボナード保安官に問う。ボナード保安官はそれに対して、平然と「あなた方の部下の不適切な行為についてです。一応、報告申し上げようと思っていましてな。」と答えた。

 ここはリムソン警察応接室。ロックウェル署長とモニカ副署長は目の前に座ってにやにやしているボナード保安官をにらんでいた。ボナード保安官はどこ吹く風、といった体で二人を見つめる。

 「さて、まずはこの音声を聞いてみましょう。」と言い、ボナードは業務用スマートフォンの音声データを再生した。「愛している、アイリーン。」「私もよ、ラースキン。あら、うう・・・」「ふ~、最高だぜ!」「あら、ふふふ・・やめてよ・・ハイになっているわね。」「ああ、君の魅力にな。」「もういい、止めて下さい!」ロックウェル署長が突然机をたたいて怒鳴った。「どうされましたかな?」とにやにやする保安官に対して真っ赤にした顔を近づける署長。「条件はなんだ。」「ああ、条件ですか?何の?」「とぼけないで!あなたにはいつも下心があって押しかけてくるでしょう!」今度はモニカ副署長が怒りをあらわにする。「まあまあ、お二方とも落ち着いて下さい。」あいかわらず保安官は冷静である。「なにか誤解があるようですが、条件をつけてよろしいならば・・・」「さっさと言え!」「はいはい・・・」そういうと保安官も署長に顔を近づけて署長とにらみ合う形となる。「格闘技場の捜査を近日中にやめていただきたいのです。」「ああ。他にもあるでしょう。」「ええ。チャイナマフィアの捜査を我々に任せていただきたい。」「了解した。取引はこれでいいか?」「はい。どうもありがとう。」と言うとボナードは席を立ち、出ていく。ロックウェル署長はその後ろ姿を見つめると、歯ぎしりをして、いきなり大声で叫んだ。「クソ!!!!!」


三日後 リムソン市警

 ラースキンはラリー副刑事部長が「本日の正午をもって捜査本部を解散する!」と宣言したとき驚く。他の幹部も了承しているようだが、だが平の捜査員はよく意味が分からなかったようで、室内にはざわめきが広がる。「静粛に!もう一度繰り返す、地下格闘技場に関する捜査会議は本日正午付けで閉じることとする。」とラリーの声が響く。


 昼休み、ラースキンは近くのコンビニのサンドイッチを買って食べる。ラースキンは、警察署内のカフェテリアで提供される食事ほどまずいものを味わったことがないと初日から思っている。

 「捜査本部、解散したわね。」同僚のマーガレットと不自然な解散について話しながら食事する。「ああ。それにしてもいきなりなんだろうな。」「分からないわ。でも先輩方の話だとこういうことはよくあるみたいよ。」「そうなのか?」「ええ。上層部の事情でね。」と含みのある笑みでマーガレットは答える。「え、どういうことだ?」「さあね。勇気があるのなら、署長にでもきいてみたらどうかしらね?私は聞く気が起こらないけど。あら、噂をすればやって来たわよ。」そういって困惑するラースキンを尻目に、マーガレットは食事を終えてパソコンを開く。

 「やあ、ラースキン君。」なんと署長はラースキンに話しかける。「え?ああはい。」「少し署長室に来たまえ。話がある。」


 署長室に入ると、ロックウェルは「かけたまえ。」と応接用の椅子を差し、机の上から機械を取る。「録音機?」その機械は録音機に見えた。署長はだまって録音機の音声を再生する。きいたラースキンは顔が青ざめる。その音声はラースキンとアイリーンのドラゴンホテルでの会話を録音していた。

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